「むー・・・・」
洗面台の大きな鏡の前で、自分の顔を覗き込んで考える。
そりゃもう、今までにないくらいの勢いで頭を回転させて考える。
これは、どうするべきなんだろうか・・・・・

「やっぱり・・・・これか?」

髪を水で濡らして、思いっきりくしゃくしゃにしてみる。
これは、休日の髪型。

「それとも・・・これか?」

今度は、くしゃくしゃにした髪を、母さんの櫛でといてみる。
少しだけ横に流して、いつもより大人の感じ。
濡らしてはくしゃくしゃしに、櫛でとく・・・という動作を何度も繰り返す。
時間がないのはわかっているけど、妥協はできないだろ、今日だけは。

「ちょっとー・・・マジでどうするべ?」

真剣に考えること30秒。
どうしてそんなに短かったのかといえば、それは単純明快。
いつまでもこの場を陣取っている俺に辛抱耐えられなくなった姉貴が、思いっきり俺の後頭部を叩いたからである。

「あんたいつまでそんなことやってるつもりなの?!ジャマ!
 朝があんただけのためにあって、しかも永遠に続くとか、バカなこと考えないでよね!!」

「・・・・・」

殴られた頭を押さえて、その場にうずくまる。
流石血のつながった姉貴だ、弟には・・・容赦ない。
ズキンズキン・・・と痛む後頭部に涙しながら、必死で立ち上がって、非難の言葉を浴びせる・・・けれど。

「あんた、あたしが他の大学生と同じだと思ってるわけ?バカにしないでよ?
 春休みだってね、朝からバイトがあんのよっ!ゆっくり昼間で寝ようかしら・・・?なんてほざくバカとは違うのよ!!」

言い返してバカを見る。
耳を思いっきり引っ張られて、大声で怒鳴られて。
こうなったら・・・ごめんなさいって言うしかないじゃないか・・・

「とにかく、早くしなさいよ。あんただって受験生でしょ?こんな油売ってる暇なんて・・・」

「お言葉ですがオネエサマ、僕は年内に推薦で進路決まっちゃってるんです!!」

ようやく言えた、反論らしい反論。
でも、姉貴はそれをまったく意に介してなくて、それどころか。

「小さくてのろい男は、女に相手にされないよ。いいの?あんたの大好きなユカだかユリとやらに、
 『つまらない男は嫌いなの』なんて言われても」

痛いところを、容赦なく思いっきりつついてくるから。

「ユ、ユカちゃんのことを呼び捨てにするな!っつーか、好きな男もいないような大学生に、とやかく言われたくねーよ!」

最終兵器を持ち出して、俺も容赦なく攻撃。
でも敵は手強い。
少しだけ顔をしかめて、『好きな男じゃなくて、あたしにふさわしい男がいないの』なんて言ってきやがった。

「あんた、ホントに時間いいの?もう8時近いんだけど」

姉貴の言葉に、ふと我に返る。
やばいやばい、身だしなみも大切だけど、遅刻したら実も蓋もない。
敵との戦いは、帰ってきてからの延長戦ってことにしよう。
でも、髪型・・・

「あんた、七三はやめたほうがいいと思うよ。それはいただけないから」

お優しいことに、敵に塩を送ったのは姉貴だ。
うん、せっかくだから頂いておこう、この忠告。
しかし、俺どうしたらいい・・・・?




A:いつも学校へ行くときの髪型

B:休みの日の、ジェルで固めた髪形