・・・いつもと同じじゃ芸がないよな。
かといって、休みの日の髪型がカッコイイわけじゃないけど。
心の中で言い訳しながら、髪にワックスをつけていく・・・けれど。

「・・・物足りない」
何か中途半端な感じ。
やっぱ、アレもつけていくしかないか?
脱兎のごとく2階へ駆けあがって、小さなケースを掴むと、鏡に向かう姉貴を押しやって、耳にピアスを装着する。

「あんたバカじゃないの?そんなものつけてっても、ユカちゃんとやらに会う前に、先生に見つかって没収されるのがオチじゃない」

「いいの。これがないと間抜けなの」

姉貴の有り難いご忠告は右耳から左耳へ。
さすがに全部の穴に装着・・・とはいかなかったけど。

「じゃ、行ってきます!姉貴もチョコレート渡せるような相手、早く見つけろよな!」

余計な一言には怒りの鉄拳。
背中に大きな紅葉マークをこさえながら家を飛び出す。
背中は痛いのに、心はうきうき晴れ晴れ。
なぜかって?そんなこと聞くまでもないだろ?
そう、今日は天下のバレンタインデーだ。
女の子が好きな男にチョコを渡すという、素晴らしい日なのである。
何が素晴らしいって、好きじゃない男にもチョコを渡せるってことだ。
・・・ってことはだ。
たとえ俺がユカちゃんの本命じゃないとしても――本命である可能性は極めて低いけれど――、チョコをもらえる可能性は、
まったくもってゼロじゃない・・・・ってこと。
いや、ゼロじゃないと思いたい、っつーか願いたい!!
去年のデータを分析すると、もらえない可能性は60%、義理チョコの可能性は約40%、
そして、手作りのラブラブ激甘チョコレートをもらえる可能性は、1%未満である。
ちょっと悲しいけど、でも、でも、もらえる可能性は4割あるんだぜ?
まだまだ、あきらめて悲観するのは早いだろ?
ふふ・・・あと少しで、ユカちゃんのチョコレートにありつけるかも知れないんだぜ〜♪



・・・そんなこんなで、スキップしながら十数分。
いつの間にか、城南高校校門前に到着。
鼻歌歌いながら校内に1歩踏み出すと、少し背の低い、見慣れた猫背を発見。
忍び足でそーっと近づいて、思いっきり背中を叩いた。

「マッサムネ君おはよう!」

明るく言ってみた・・・けど・・・・

「・・・おはよ・・・」

ゆっくりと振り返ったマサムネは、まるで幽霊宜しく、大きなクマをこしらえたうつろな目で、俺をじろりと見た。
・・・正直言って、かなりの勢いで怖いです・・・
奴の肩に置いた手を、思わずひょいと離した。

「・・・あの、かなり怖いんですけど・・・・」

「芸大の実技練習してたら、時間忘れて集中しちゃって・・・気付いたら朝の6時だった・・・」

「・・・休めばよかったじゃん」

3年生は自由登校で、どうせ欠席扱いにはならないんだし。

「・・・ダメ。休むと生活リズムが狂う・・・受験間近でそれだけはやりたくない。
 ってか、お前何よ、その髪型。センセに見つかったらかなりやばくない?」

ようやくいつもと違う俺に気付いたか。
ふふ・・・カッコいいだろ?俺。
髪型とピアスだけで、ダサい制服もこんなにカッコよく見えちゃうんだから、俺って罪作りだろ?
・・・でも。
マサムネが思ったことは、全然違うことだったみたいで。

「教室はいる前にいつもどおりに戻したほうが良くない?
 この時期生活指導とか、学年主任に見つかったら、お前進学先決まってるとはいえ、やばいと思うんだけど」

「・・・そう?」

かなり決まってて、いい感じだと思うんだけど・・・

「別に、お前が怒られようが煮て食われようが、俺には関係ないんだからいいんだけどさ・・・」

「・・・むー・・・」

マサムネに言われると・・・決心も、少し、鈍る。
一体、どうしたら・・・いいだろう・・・?



A:やっぱマズイかな、直しとこ・・・

B:男に二言はない。このまま