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「はよー・・・って、またお前・・・」


 後ろから肩を叩かれて振り返ると・・・妙に怯えた田村と目が合った。っつか、ちょっと酷いんじゃないですか、その『バケモノ』を見るような目つき。俺、そんなに酷い顔してないと思うんだけど・・・なんて思ってたら、ポケットからケータイ取り出した田村に、その場で写真を取られた。


「ほら」

     

ずい・・・と差し出されたそれを見て・・・あー、と納得する。牧野サンに振られちゃった先週の日曜日とか、田村にいじめられたっつーか、一方的に絶交された時と同じくらい酷い顔かも。


「先週は休むし、今週はこんな顔だし・・・何、お前。日曜日のカミサマに見放されてるわけ?それとも月曜日のカミサマに好かれてるとか・・・」

「なんだよ、そのカミサマは・・・」

「何か、日曜日のカミサマって幸せいっぱいっぽいじゃん?休みだし。でもって、月曜日のカミサマって憂鬱そうじゃん?週始めだし、仕事やらガッコやら、今日からスタート!って感じだし」

「・・・そんなカミサマら、要らないし」

「で、昨日どうだったよ?天神のキョウダイデート」

「・・・デート言うな・・・」


 おかげで、また思い出しちゃったじゃんか・・・最悪な出来事。何でよりによって牧野サンかなぁ。別にショコやユカやあやのちゃんだって良かったわけじゃん、あの現場を目撃するのは。しかも牧野サン、妙に不機嫌っつーか、悲しそうな顔してたし。意味わかんないよ。自分から振ったくせにあんな顔するなんて。何?俺のことやっぱり好きだったの?って、また都合の良い妄想しちゃうじゃんか。

 あれから――妹と別れてから、亜門とマック行って・・・結局、上手くまとめられないまま順を追って奴に話した。妹に彼氏の振りして欲しいって頼まれて、一緒に天神に出かけて、とりあえず任務を遂行してるところで、偶然牧野サンに会った・・・って。亜門は頷きながら俺の話を聞いて、そして苦笑した。要領悪いな・・・って言いながら。それって要領の問題じゃない!って反論してみたけど、自分でもそう――要領悪いって思うから強くも言えず。その上、当の本人――牧野サンだ――は何も言わず、機嫌だけ損ねて帰っちゃったものだから、その様子を全く見ていない亜門からは、コレといった対策を教えてもらうこともできず。

『少しくらい、俺が元気になるようなこと言って慰めてよ』

 と言ったら、『適当なこと言って、ヌカヨロコビさせるのは悪いから』なんてわけのわからない御託を並べられて。それでも慰めろ!と喰い付いてたら。

『・・・ま、頑張れ』

 と肩をポンポンと叩かれた。何をどう頑張るんだよ?と突っ掛かってみたものの、それはサラリとスルーされて。仕事に行く、という亜門とはその場で別れて、1人憤慨しながら地下鉄に乗った。社内広告を何となく眺めながら色々考えて。妹は無事に帰れたかな・・・とか、亜門に奢ってもらったバリューセットで、結構満腹になったよな・・・とか。室見の駅に着いたころには、別れ際の怒りはどこへやら、だいぶ穏やかな気持ちになってた。


「・・・で、どうだったよ?」


 田村に言われて、はっと我に返る。俺をいじめたいのかそれとも困らせたいのか、ニヤニヤしたまま答えを待ち続ける田村に、溜息を吐いて降参。意地悪いよな、全く。仕方ないから、『まあまあ』とお茶を濁す。


「何、まあまあ・・・って」

「フツーってコト」

「フツーじゃわかんないし」

「フツーに2人で電車に揺られて、フツーに街中ぶらぶらして、フツーにそいつらに遭遇して、フツーに彼氏モード炸裂させて、フツーに1人で帰ってきた」


 イライラしながら、半ば自棄になってそう言い放つと、田村は驚いたように目を丸くして、そして意味もわからず『ごめん』と謝った。何で謝るの?ときくと、『勢いにつられて・・・』というまたまた意味不明の返事が返ってきた。


「っつか、2人で出かけたのに1人で帰ってくるのはフツーじゃないだろ」

「そうでもない」

「そうでもあるって。何、失敗したの?彼氏のつもりで接してたら、実はアニキでした・・・ってばれちゃったとか?でもそれってかなり痛いよなー・・キョウダイでデートだもんなー・・・2人揃って『ヘンタイ』のレッテル?」

「・・・田村くん、僕のこと嫌いなの?そんな嫌がらせするなんて・・・」

「じゃあホントのこと言えよ」


 嫌みったらしく、ねちねちした口調でそういうと、結構きつい口調で田村の言葉が返ってきた。顔を見ると、さっきまでのにやけたやつじゃなくて結構真剣で。今度はこっちが驚いた。目をちょっとだけ大きくして俺に合図。『隠し事なんてできないよ』と。


「お前の顔見てれば、何かあったかなかったかなんてすぐわかるって」

「・・・単純だから?」

「それもそうだけど、俺が聡明だから」

「・・・1人で言ってろ」


 歩幅を大きく、且つ歩調を速くすると、待てよ、と田村もそれについてくる。そうか、俺ってそんなに単純なんだ・・・と軽く凹み、でも単純なのは昔からだ・・・とすぐに復活して・・・『牧野サンに・・・・』と言いかけたところで。


「おはよー」


 いつの間にか校門付近を歩いていた俺たちは、ポン、と後ろから肩を叩かれた。振り返ればそれはショコ。最初に田村に満面の笑みを浮かべて、次に俺を見て・・・顔を顰めた。


「・・・何、その顔」


 やっぱりそのリアクションですか。っつか、俺の顔ってそんなに『バケモノ』チックですか。言い返してやろうと思ったけど・・・田村に撮られたケータイの写真を思い出して、やめた。確かにバケモノだったよ。目の下にクマできてるし、何かやつれてるし。『まあ程ほどに・・・』なんて、ワケのわからない言葉でお茶を濁すと、

「草野くんって、月曜日になるとやつれてるよね」

 と、田村とほぼ同じコトを言いやがる。何だよお前ら、キョウダイか?血のつながらないキョウダイか??あーもうどいつもこいつも!!


「ほっと・・・」







 ほっといてくれよ!と言おうとして・・・俺の言葉は誰も――田村もショコも既に聞いておらず、ショコは田村に向かって何か言おうとしている。・・・アレだけいじっときながら、俺のことは軽くスルー?しかも、顔色悪いの心配しててくれたわけじゃないの?っつか、何。この2人、いつの間にこんなにフレンドリーになったわけ?ちょっと前まで妙にギクシャクしちゃって、話なんて全然できてなかったのに。そいえば、先週田村が『日曜日に天神で安藤さんに会った』とか言ってたっけ。ショコもなんか田村といいコトあったっぽいこと言ってたし。・・・いーね、幸せモンは!ちくしょーっ!

 ・・・なんて1人ヤサグレモード突入してた俺だったけど、ふと聞こえたショコの言葉に、思わず耳を疑った。


「つくし、今日休むみたいだよ。朝メールが入ったの」

「へぇ・・・あの牧野サンが?珍しい・・・」

「でしょ?今まで休んだことなんて1度もなかったのにね・・・」


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