「・・・あー、マジで最悪。足いてーし、腰もいてーし、肩もいてーし・・・」
「そんな年寄り臭いこと言わないでよ。いいじゃん、楽しかったんだから」
「楽しかった?お前マジで言ってんの?」
「マジもマジ、大マジよ」
残暑厳しい夕暮れの中、2人仲良く並んで歩く。少し―かなり不機嫌の道明寺と、妙にご機嫌のあたし。
「だから、最初から言ったじゃねーか、こんなとこ、貸切にしちまえって」
「それじゃテーマパークの醍醐味が味わえないの。待つことに意義がある!・・・みたいな?」
「待つって・・・5分や10分ならともかく、80分とか、150分とかだぞ?炎天下の中、何もすることねーのにボーっとつっ立って待てって・・・ バカにしてんのか?って言いたくなるだろ、フツーは」
「みんな一緒なんだもん。そうやって待って待って待った後に乗るアトラクションの面白さったら」
「・・・割に合わねー」
フン、とそっぽを向く道明寺に、やっぱり分かってないなぁ・・・と、あたしは小さなため息をつく。
たった2人でディズニーランド貸切にしてどうしろっての。
確かに待ち時間はないかもしれないけど、そのために今日来ることができなかったお客さんや、あたし達が乗るためだけに、アトラクションを動かしてくれるスタッフのことを考えたら・・・絶対無理。
「・・・ま、いいじゃん、あたしは楽しかったんだし」
これ以上言い合ってても決着がつかない―それどころか、本物のケンカに発展しかねないので、うやむやに笑って見せる。
とことんやり合うよりも、にっこり笑ってごまかした方が、道明寺とは上手くいく・・・っていうのを発見したのは、どれくらい前だったか。こいつは単純だから。
「そりゃ、長いこと並んだのにアトラクションに乗ってる時間はは3分くらいしかないとか、理不尽だと思うこともあるけどさ・・・ あんたと一緒だったから、待つのも楽しかったよ」
言ってることはちょっと恥ずかしいので、照れ隠しに駆け足。道明寺の3歩前を歩く。
恥ずかしいけれど、やっぱり道明寺の反応は気になるから。
この空と同じくらい顔を真っ赤にしてるのかな、とか、言ってることの意味が理解できなくて、ぽかんとした顔をしてるかな、とか。頭の後ろで両手を組んで、気付かれないようにちらりと振り返ってみる。
けれど。
「・・・・・」
あたしが赤面してしまった。だって道明寺は、想像していたどれとも違う、すごく優しい表情をしていたから。
「・・・やられたっ!」
不意打ちは卑怯だ。あんな表情はナシだ!心臓のドキドキと顔の暑さを振り切るように、『車まで競走!』と駆け出す。
すると、道明寺はいつもの表情に戻って、『待てよ!お前ずるいぞ!』と怒鳴りながら走り出した。
おわり
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