ガチャっ・・・・

 勢いよく、非常階段の扉が開く。
 特別何をするでもなく、ただぼんやり座っていた類は驚き、扉を振り返ったが、
 すぐにいつもの穏やかな表情に戻る。

 「あ・・・来てたんだ」

 先客を見つけたつくしは、同じように驚いた表情を浮かべた。
 びっくりした?ごめんね・・・と、ゆっくり扉を閉める。

 「隣、座っていい?」

 「どうぞ」

 手を差し出して合図すると、つくしはにこりと笑い、類の隣へと腰を降ろした。

 「・・・・・・・」

 「・・・・・・・」

 暫く沈黙が続く。
 何の会話もないけれど、好きな時間の流れ方だ・・・と類は思った。
 
 「・・・そういえば、ここで花沢類と会うの、久しぶりだね」

 「そう?」

 「そうだよ。こんな風に、隣に座るのなんてもっと久しぶり」

 地面に両手をつき、足を伸ばし、つくしは空を仰ぐ。
 類も、同じように空を見る。

 雲ひとつない青空。
 つくしの心も、こんな風に晴れ渡っているのか・・・と、類はふと思う。
 無事、司の記憶が戻り、海との誤解も解け、たった1年ではあるけれど、楓からの妨害 も受けない。
 やっと、恋人らしい毎日を手に入れたつくしと司。
 良かった・・・と心から思う反面、胸にぽっかりと穴が空いてしまったような虚無感。
 2つの気持ちをぶつからせながらも、やっぱりつくしが幸せなのが1番だな・・・と、
 類はぼんやり考えていた。

 「ねぇ、花沢類」

 「なに?」

 「最近、楽しいことあった?」

 「楽しいこと・・・・・」

 類はうーん・・・・・と考えてみる。
 普段からボーっとしている類。
 楽しい・・・とか悲しい・・・とか、その場その場の感情を、記憶として残しておくことは少し苦手だったりする。 

 「・・・映画を・・・観た・・・様な気がする」

 「気がするって・・・」

 つくしが苦笑する。

 「どんな映画?」

 「・・・忘れた」

 「・・・なんてタイトル・・・?」

 「・・・それも覚えてない」

 「・・・それって、『映画観た』とは言わないよぉ」

 つくしが大きな口を開けて笑う。
 その笑顔を見て、類の口元も自然にほころぶ。

 「ぶらぶら歩いてたらさ、映画館があったから何となく・・・・」


 「牧野っ!!!」

 
 類が話し始めたと同時に、つくしを呼ぶ司の大声が聞こえた。
 つくしは立ち上がり、非常階段の下を見る。

 「おまえそんなところで何やってんだよっ!今日一緒に帰るって言っただろうがっ!」

 「あ・・・・ごめん、忘れてた・・・・・」

 「・・・てめぇ・・・・・」

 2人のやり取りを聞き、類は少しだけ、胸が痛むのを感じた。

 「だからごめんってばっ!今から行くから、そこで待ってて」

 大きな声でそう叫ぶと、つくしはくるりと体の向きを変えた。
 
 「ごめんね、道明寺が呼んでるから行くね」

 少し申し訳なさそうに、でも嬉しそうに、つくしは顔の前で両手を合わせた。
 胸の痛みが、少しだけ強くなる。

 「・・・いいから早く行きなよ。あんまり待たせると、司また怒るよ」

 「そうだね、じゃあまたね」

 バイバイ・・・と元気よく手を振り、つくしは司の待つパティオへと続く階段を降りて行く。
 類は立ち上がり、下を覗く。
 互いにどつきあいながらも、仲良く肩を並べて歩く2人の姿。
 
 仲がいいんだか悪いんだか・・・

 類は、思わず笑ってしまう。


 「・・・・・何呑気に笑ってるんだか・・・・・」
     
   

 突然後ろから声をかけられ、類は振り返る。
 非常階段の扉を開け、壁にもたれる総二郎の姿。

 「何してんの?」

 「あ?司が『牧野がいない』って騒ぎまくってたから、校内探してたの」

 答えながら、類の隣までやってくる。

 「あの2人、仲がいいんだか悪いんだか・・・」

 同じことを口にしながら、総二郎が苦笑する。

 「でも、お互いのことをすごく想ってるよ、2人とも」

 正面を見たまま、類は言う。
 その言葉を聞き、総二郎は少し驚いた風に類を見る。

 「・・・前から聞きたかったんだけど、おまえってさ、牧野のこと・・・・・」
           

                                  
                                    
                     
 「好きだよ」

 類は答えた。

 「気がついたのは最近だけど、多分ずっと前から牧野が好きだよ」

 ふわりと微笑む。

 「・・・・そっか・・・」

 総二郎も柔らかく微笑み、そううなずいた。

 「でも心配しなくていいよ。司から奪おうなんて、全然考えてないから。
  司と争うなんて嫌だしさ、・・・牧野の、悲しそうな顔なんて見たくないから・・・・・」

 「・・・そっか・・・・」

 校門へと歩く司とつくしの姿を見つめる2人。
 まだ、お互いにどつきあっている・・・

 「・・・・まぁ、殊勝な心がけだよ、類くん。暴れる司は暫くこりごりだからな」

 総二郎が類の肩をぽんぽんと叩く。

 「あの2人が仲良くいる間はさ、俺たちF3が見守ってあげましょう」

 「・・・そうだね」

 類は満足そうに微笑んだ。









 どんな時でも、君が笑ってくれさえすればいい。
 君の笑顔を見るだけで、僕も幸せになれるから。
 








 「・・・1つだけ」

 「ん?」

 「司とケンカした時、牧野が俺を頼ってくれたらいいな・・・って思うんだ」

 「・・・なんで?」

 「だってさ、『司とケンカした時の牧野の顔』をさ、司は絶対見れないわけでしょ?
  司の見ることが出来ない表情を独り占めするって、優越感感じられてなんだか嬉しくない?」

 「・・・・・・・」

 幸せそうな笑顔でそう言う類に、総二郎はかける言葉を見つけられなかった。

 「・・・・・類、まっとうな人生を送れよ・・・・・」

 「大きなお世話だよ」

 少し頬を膨らませ、再び視線を2人へと戻す。
 だんだん小さくなり、見えなくなるまで・・・・・・・・・
 類はその姿を見つめていた。









  *****fin*****



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sweetberryよりひとこと
このお話はポンちゃんのHPのキリ番プレゼントでレイちゃんがゲットされたお話です。
今回もわたしのHPでUPしていただけないかという嬉しいお話をいただき製作させていただきました。
挿絵描くときはもちろんBGMはスピッツ♪