耳の後ろで荒く弾む吐息、密着した素肌から伝わる鼓動の波。

その逞しい腕が、いっそう強くあたしの背中を抱く。

律動の余韻を味わうように瞳を伏せると、彼独特の好戦的な色彩は

薄い瞼で覆い隠され、形の良い額から垂れた汗が、睫毛の先を濡らした。

それがあんまり切なくて、愛しくて、あたしは震える指を彼の瞼に添える。

不意に上げられた眼差しが、いつもにも増して優しい。



彼はぐいと肘をたてて、冷えた空気を身体の隙間に送り込む。

そんなわずかの隙間にも残酷な寂しさを覚えてしまうなんて、

あたしはいつからこんなに欲深くなってしまったのだろう。









眼前に晒された、野生の動物のような無駄のない筋肉。

それを支える、しなやかな骨格。

自分とは全く異質の胸板の硬さが、圧倒的な大きさで視界を奪う。

少しでも長く、あなたに触れたくて。






「・・・どうしよう・・・」



こんなに好き、

・・・泣きたいぐらいに。



彼は思わず呟いたあたしを視線に捕えて、



「どうする?」




      


と、唇の端を持ち上げるようにして笑う。

本当にわからないのか、それとも悪戯に言葉で確かめたいのか。

でもそんなことを声にしてしまえば、たちまち涙が零れ落ちてしまいそうで、

あたしはただ、その美しい鎖骨に口付けるしかなかった。









  


                             
                      
                       

「・・・っ」



呻くように吐き出された呼吸が、一瞬見せた驚きの表情を掻き消す。

そして今、離したばかりの唇を引き寄せた。

勢いのあまり、音を立ててぶつかった歯列の間を、彼の熱が満たしてゆく。

角度を変えて重ねられる唇、口内を彷徨うあなたの愛。

髪の奥に忍ばせた軽やかな指。

彼の重みを受け止めて、あたしは幸福の海へと攫われる。

あなたの瞳と同じ色をした、漆黒の彼方・・・。






捕らわれた心はもう後戻りできない。

いつか来る別離への恐れさえ、彼の力強さの前では何の意味もなさないのだから。

その激しさが、あたしの中の頑なな物思いを霞ませてくれる。




「牧野・・・」




彼が低く掠れた声で囁く。
そしてあたしは、彼の欲望に身を委ねた。







戻る