「ん〜いい天気!!ピクニック日和だねー」
透き通るような青空へと両手をいっぱいに伸ばしながら、つくしが上機嫌で言った。
「ぴく・・・?なんだそりゃ」
「ピクニック!知らないの?」
「知らねーな」
興味ねぇ、という感じに司がぶっきらぼうに答える。
「お弁当持って公園とかに行って食べるの。あとはお散歩してもいいし、お昼寝してもいいし、気持ちいいよー」
「けっ、ビンボくせぇ。そんなもんが楽しいのか?」
司の言葉につくしがちょっとムッとして言い返す。
「そーよっ、ビンボだもん。昔は家族でよく行ったな。なんたって公園はタダだしねっ。ママがお弁当作って・・・」
そこまで言って、つくしはふと気がつく。
―― ああそうか、道明寺の家は家族でお弁当持って公園とかに行くような家じゃないんだっけ。
行ったこともないのに楽しさなんてわかんないよね・・・
つくしがちょっと言葉に詰まっていると、突然司が言った。
「じゃ、明日行くか」
「え?」
何のことかわからず、つくしはきょとんとする。
「その、ピク…なんとか。行きてーんだろ?」
司の意外な言葉につくしは一瞬きょとんとした顔をし、次の瞬間、満面の笑顔を見せた。
「・・・うん!!」
その夜。
せっかくだからお弁当を作って持っていこうとつくしは下ごしらえを始めた。
手早く準備をしながら、知らず知らずのうちに鼻歌を歌っている。
微かに頬を染めて楽しそうに台所に立っているつくしに、進がニヤニヤしながら近づいてきた。
「姉ちゃん、なんか楽しそうだね。もしかして明日は道明寺さんとデートなんだ?恋する女の子の顔しちゃってぇ」
「なっ…なにマセたこと言ってんのよ!」
茶化すように言う進に、一気に真っ赤になったつくしの四の字固めが炸裂する。
「うわっ、ロープロープ!ちくしょう、なんで女の子らしいって誉めたのに痛い思いしなきゃなんないんだよぉ」
半泣きになる進。
どこの家でも弟は姉にいたぶられるものなのである。
「うわー気持ちいい!天気よくってよかったね!」
前を歩くつくしが司を振り返って笑顔を見せる。
「そーだな」
日曜日の公園は親子連れ、犬の散歩、サイクリング等それなりに人はいたが、混雑しているというほどではなかった。
「あっ蝶々が飛んでる。お花もいっぱい咲いてるー」
つくしはいつになくはしゃいでいるようだ。
そんなつくしを優しい目で見つめながら、司はゆっくりと後から歩いていく。
「ちょっと休憩しねえ?」
そう言って司が目を向けたあたりには、ちょうど人がいないぽっかりと空いた場所があった。
日光がさんさんと降り注ぎ、気持ちがよさそうな空間だ。
「ん、そだね」
つくしが言うより先に、司はきれいな緑色をした柔らかそうな芝生に腰を下ろす。
「お、結構気持ちいいぜ。おまえもこっち来て座れよ」
快晴の真っ青な青空と緑の芝生に、司の赤いシャツがよく映える。
そのはっきりしたコントラストに、いつも以上に司がかっこよく見えてつくしはどぎまぎしてしまう。
「う、うん」
―― こいつってこんなにカッコよかったっけ?
そんなことを思いながら、すとんと司の隣に腰を下ろす。
「ねね、お弁当作ってきたよ」
「弁当?食えるんだろうな」
ニヤッと笑ってわざと意地悪く言う司に、つくしがムッとした顔をする。
「失礼ねっ、庶民の味だっておいしーんだから。つべこべ言わずに食べてみてよ」
お弁当を広げると、司は素直に玉子焼きに手を伸ばす。
一口食べて、
「お。うまいじゃん」
「でしょ?食べる前に文句言わないでよね」
得意げに言うつくしの笑顔に、司の表情もついついほころぶ。
お弁当を食べ終わって寛いでいると、両親と2,3歳くらいの白いワンピースを着た小さな女の子の3人がゆっくりと歩いてきた。
女の子は両手をつないでいる両親の顔を代わる代わる見上げてはにこにことして、本当に嬉しそうだ。
父親の手にはお弁当が入っているらしきバスケットがぶら下がっている。
司がいつになく優しい眼をしてその家族を眺めながらぽつりと呟くように言う。
「またいつか来ようぜ・・・あんなふうによ」
「え?」
「俺はおまえさえいれば十分幸せだけどよ、ああいうのを見てると、俺とおまえと、俺らの子供と一緒ってのも悪くねえかなって・・・」
プロポーズもどきのその司の言葉に、つくしが真っ赤になる。
どう返事をしていいのかわからずにあたふたしているつくしを愛しそうに見つめると、司はつくしのあごに手をかけてそっと仰がせ、
「バーカ、ウロタエてんじゃねーよ…」
と、やさしいキスを落とした。
おしまい
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