陽の当たらない場所





ぼくはぼうけんをした。
ママがおふろにはいっているときに、そっとパパの「しょさい」ってばしょをのぞいちゃったんだ。
ママがおふろにはいるじかんは、ぼくはいつももうねむっているんだけど。
このひの『けいかく』のために「うそね」してがんばったんだよ。
めをとじてじっとしていたら、ママはいつものようにぼくのほほにキスをした。
ママがへやをでてからもしばらくベッドのうえでじっとしていたんだ。
ろうかからなんのおともきこえなくなって、ぼくはようやくそこをとびでた。
 


いつもはママに

『お仕事の書類がたくさんあるから、パパがいるとき以外は勝手に入っちゃダメよ』

っていわれるんだけど、ぼくだっておとこのこだから、たまにはダメだって
いわれてること、やってみたいじゃないか。
いつでもママのいうこときくいいこなんて、かっこわるいもんね。


せのびしてドアをまわすと、キィ・・・ってたかいとがなった。

ほかのひとたちにばれないかな・・・
ってドキドキしたけど、だいじょうぶだったみたい。
くらいへやのなかはちょっとひんやりして、おばけがでるんじゃないかな・・・なんてこわくなった。
でもぼくよわむしじゃないから。
えいってドアをあけて、なかにずんずんはいっていったよ。


そっととびらをとじる。
でもそんなにくらくないや。
まどからおおきな「おつきさま」がみえて、ぼくのためにへやのなかをあかるくてらしてくれる。


「おつきさま、ありがとう」


こころのなかで「おれい」をいって、へやのなかをくるりとみまわした。


パパの「しょさい」はかっこいい。
ぼくの「えほん」なんかよりずっとあつい「ほん」がぎっしりつめられた「たな」や、
ロボットみたいな「パソコン」がずらりとならんでる。
さわってこわしたらきっとすごくおこられるから、ぼくはきをつけて「しょさい」のなかをみてまわった。

へやのなかぐるぐるしてるうちにつくえのうえに「しゃしんたて」をみつけた。
ぼくのしゃしんかな?なんていすによじのぼってそれをみたら。
  
「・・・だぁれ?」

ぼくのしらない「おとこのひと」と「おんなのひと」がうつってた。
ゆうがたみたいにくらいばしょで、ふたりきりで。

きれいなしゃしんだな・・・っておもったけど、
なんだかふたりともすごくかなしそう。
じっとみつめていたら、ぼくまでなきたくなってきた。




「・・・真(シン)」


パパのこえがして、へやのあかりがとつぜんついた。
ぼくはびっくりしてふりかえって、おもわずいすからおちたんだ。
ガタン・・・ってすごいおとがひびく。
ぼくはひざをぶってとってもいたかったけど、ないたりしたらかっこわるいだろ?
だからいっしょうけんめいがまんした。

「ママにダメって言われてるだろ?約束破るから、痛い目にあうんだぞ?」

パパがぼくをだきあげて、「こら」っておこった。
パパはめったにおこらないけど、おこったときはとってもこわいから、だからぼくすぐにあやまった。

「ごめんなさい」

「謝るのはパパに・・・じゃないよな?」

いい子だから、ママにもちゃんと謝れるよな?ってパパがいうから、うんってうなずいた。
そしたらあたまをなでてくれて。
だっこされたままパパの「しょさい」をでた。




「ねえ、パパ」

「何?」

「つくえのうえにあったしゃしんは、だれ?」

ぼくのベッドにむかうあいだに、パパにきいた。
そしたらパパはうーんってかんがえて、

「パパの大事な人たち」

って答えた。

「だいじなひと?」

「そう、大事な人。真と同じくらい大事な人だよ」

「ママもおなじくらい?」

そしたらパパはうーんってうなった。
ママのこと、だいじじゃないのかな?
それとも、ママほどだいじじゃないのかな?
どっちなんだろうってかんがえてたら。


「シンっ!!!」


ママのおおきなこえがひびいて、ろうかをバタバタとはしってこっちにきた。
いつもぼくには『はしっちゃいけません!』っていうのに・・・

パパにだっこされたぼくのほっぺをぎゅっとつねって

「どうして勝手にベッドを出たりするの?心配するでしょ?!」

ってどなった。
ママのちからはときどきとってもつよい。
いたくていたくて、パパの「しょさい」でいすからおちたときよりいたくて、なみだがちょっとだけでた。

「ほ、ほめんなはい・・・・」

ぼくがわるいことをしたとき、ママはほんとうに「オニ」になる。
いまもすごくこわいめでぼくをにらんでる。
いたさとこわさでもっともっとなみだがでそうになったとき。

「そろそろ手を離してあげれば?」

ってパパがわらった。


ママはときどきどんかんだ。
そうやってパパにいわれて、そこにパパがいることにやっときづいたみたい。

「え?あ、やだ類。いつからそこにいたの?・・・って、いつ帰ってきたの?
 まだスーツ姿で・・・シャワーは?ご飯は食べてきた?」

てをバタバタさせたり、あっちをむいたりこっちをむいたり。
あわててぼくにはわからない「ふしぎ」なことをするママをみて、パパがくすっと笑った。
ぼくをしたにおろして、ママのおでこにちゅっとキスをする。
そしたらママはわらいながらパパのほっぺにちゅってキスをかえすんだ。

・・・いやだなあ。
パパもママも、ぼくがここにいること、ちゃんとおぼえてる?
でも、パパがママのことだいじだっておもってることがわかったから、ぼくはちょっとあんしんした。
パパは、きっと「しゃしん」のひとよりも、ママのことがだいじだ。


「真、パパが戻ってくる前にちゃんとベッドに入れるよな?」

ぼくのかみをくしゃりってやって、パパがわらった。
ネクタイをゆるめながら、てをふって「しょさい」へもどる。
パパがもどってくるまでに・・・っていっても、きっとずっとあとなんだよね。
そのころ、きっとぼくは『ゆめのなか』だ。

「さあ真、もう寝なきゃだめだよ?」

ママがぼくのてをひいて、こんどこそベッドへもぐらされた。

「おやすみ」

まるで、パパにしたときみたいに、ぼくのおでこにちゅっとキスして、ママがわらった。
わらったママはとってもかわいいとおもう。
ぼくはときどき、わらったママをみるとドキッとするんだ。

「ねえママ」

「なあに?」

「ぼくね、パパの「しょさい」でしゃしんをみつけたんだよ。しらないひとのしゃしん。・・・でも」

ちょっとだけ、ママににてたかもしれない。あのおんなのひと。

「とってもね、かなしそうだったんだよ。しゃしんみたぼくも、とってもかなしくなったの」

「そう・・・」

「その『しゃしん』はね、すごくくらいところだったの」

「・・・・・」

ママはなにかかんがえるようにちょっとだけだまって、そうしてわらった。

「きっと、お日様がないところにいたから、悲しかったんだね」

そうなのかな?
そうかもしれないな。
もしかしたら、おひさまのしたでしゃしんをとったなら、もっとうれしそうにわらっていたかもしれないね。

「おやすみ、シン。楽しい夢をみるんだよ」

ママがそういって、へやのでんきをけした。







ぼくはゆめをみたよ。パパの「しょさい」にあったしゃしんをもって、おにわにでたんだ。






おひさまのひかりがたくさんあたるばしょに、
そのしゃしんをおいてあげたら、
なんだかしゃしんが「にこ」ってわらったようなきがした。

しらないおとこのひとも、ママににたおんなのひとも。









『ありがとうな』

しらないひとのこえでそういわれたようなきがして、ぼくはうれしくなったよ。

パパもママもよろこんでくれるかな・・・っておもったら、もっとうれしくなった。






おしまい