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 俺達男子高校生にとって、この店はかなり特殊な部類に入るんだけど、ユカ達女子高校生とってはそんなことないのかな、なんてどうでもいいことを考えつつ、ユカに言われた『なんでこんなとこにいるの』という質問にどう答えたらいいのか、と悩む。けど、今のユカにまともに答えたところで、果たして今の彼女に理解できるだろうか。だって変だもん、ユカ。坂口さんの事じっと見て、頬を赤く染めて口元にんまりさせて。まるで、マンガに出てくる『コイスルヲトメ』じゃん
 ・・・って、マジで?思わず凝視するけど、だからといってユカのその表情が変わるはずもなく。こりゃ困った、という気持ちになった。いや、ユカは俺の彼女でも想い人でも何でもなく、坂口さんに本気で一目惚れしたところで痛くも痒くもない――とはいえ友達だから、彼女・・・愛猫一筋の坂口さんに振られたら、それは流石に可哀想だな、と思うけど――し、むしろ話のネタになるとは思うけど・・・でも、俺は知っている。そうなった時に、ユカ本人よりも怖い人物がいることを。


「じゃあ・・・マサムネくん」

「え・・・あ?」


 名前を呼ばれ、我に返る。相変わらずぼんやり顔のユカと、相変わらず温和な表情で席を立つ坂口さん。俺の隣のユカをちらりと見て、軽く会釈。何か、その一連の動作が手馴れてて・・・これは『大人』というよりも『慣れ』ってやつか?接客サービスの心得というのか。


「俺、そろそろ店に戻るね」

「あ・・・うん」



 すぐじゃなくてもいいから、亜門さんに謝るんだよ、というと、ユカににっこり笑って、俺に軽く手を振って。それが当然、とでもいうかのように、2人分のトレーを持って歩き出す。捨てるものと返すものとトレーと、しっかり分別して返却口に返して、もう一度振り返り、相変わらず店の中でデクノボウのように立ち尽くすユカと、間抜けな顔して座り込む俺に手を振る。2人で手を振り返すと、自動ドアを通って店の外へと消えて行った。


「・・・・」

「・・・あの、ユカ?」


 いつまでドアの外を追ってるんですか?しかも呆然と立ったまま。声をかけるとようやく我に返って、ああ・・・と言いながら俺を見る。その表情は・・・まだ『コイスルヲトメ』だ。


「ねえ」

「はい」

「今の、誰?」

「・・・お友達、です」


 何故か敬語で答える。いや、威圧されてるわけじゃないけど、その雰囲気と言いますかオーラと言いますか。あまりに真剣で、微妙に怖い。座ったまま、思わず『気をつけ!』のポーズだ。上を向いて少し考えるそぶりを見せて、ユカは今まで坂口さんが座っていた椅子に腰を下ろす。そして『もう1杯くらい飲めるよね』と俺を睨んだ。


「・・・は?」

「あたし、塾帰りなの。甘いもの飲んで、一息ついてから家に帰ろうと思って。1人も淋しいし、付き合って」

「え?」

「もちろん、ワリカンで」

「・・・はい」


 勘弁してくださいよ・・・と叫んだけど、それは心の中で、だ。実際ユカの笑顔――顔は笑ってるけど、オーラは『NOは許さない』と言っている――を目の前にして、そんな命を投げ捨てるようなことは言えない。さようなら俺のマック1食分・・・・と、涙を飲んで財布から500円玉を出す。何とかマキアートのアイス、と、かろうじて覚えた名前を言うと、ユカは『了解』と、硬貨を奪って立ち上がった。どうやら、一緒に買ってきてくれるらしい。それはユカの現実的・合理的な思考の基に取った行動なのか、それとも、2杯目を付き合わせる俺への、せめてもの気遣いなのか。知る術はないけれど・・・後者であって欲しい。

 レジが空いていたのか、物思いにふけるまもなく戻ってきたユカのトレーには、俺の何とかマキアートと、自分のドリンク――それが何か、というのは残念ながら俺にはわからない。俺と同じく、アイスドリンクだということだけはかろうじてわかった――、それからさっき食べたみたいなクッキーが1枚、あった。


「はい、キャラメルマキアートとお釣り」

「・・・ども」


 手の平に戻ってきたのは、100円玉と10円玉が数枚。硬貨の枚数が増えた!・・・なんて喜んでる場合じゃない。このドリンク1杯で、一体ポテトチップが何袋買えたんだろう・・・と考えると悲しくなる。


「・・・何、目の前にいるのが、あたしじゃなくてつくしだったらなー・・・なんて考えてるわけ?」

「いや思ってない。・・・いたら嬉しいけど。」


 思うことをことごとく言い当てられていたさっきまでとは違って、全く素っ頓狂な言葉を投げかけられる。やっぱり、何もかも言い当てられちゃうのは、俺が子供だからじゃなくて、亜門や坂口さんが大人なんだ。表情や行動に気持ちが表れるからじゃなくて、あの2人がそういうものに敏いから、なんだ。良いやら悪いやら。普通の高校生とさほど変わりないという事実がわかりほっとした反面、やっぱり俺はただの高校生なんだ、と少し落胆。いや、普通以上のものを求めてたわけじゃないけど。


「で・・・」


 ストローを咥え、ココア色の飲み物を口に含むと、ユカが今までとは違った華やいだ声を出した。これはもしや・・・


「さっきの人、どういう人なの?」


 ・・・きたよ、やっぱり。さっき見せた『ヲトメ』は健在か。こういう場合はどうしたら良いんだろう。下手なこと言うと、色々突っ込まれるような気がする。その上、高校生のくせしてヲトナの店に出入りしてることまでばらしちゃいそうな気がする。


「・・・坂口さん、っての」


 当たり障りのない言葉で返すけど、それで納得するような彼女じゃない。聞きたいのはそういうことじゃないよ!と俺を睨みつける。あー・・・こういうのって弱いんだよな・・・俺。どうしたら良いんだよ・・・と心の中で冷や汗かいてると。


「・・・そこんとこ、僕にも教えてくれませんかね?」


 突然、ユカと俺の間に眉間にしわ寄せて眉毛をピクピクさせるテツヤの顔が降ってわいた・・・




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