顔は悪くない。 そりゃ、好みかと訊かれたら「NO」だけれど、十分許容範囲には入っていて。 性格は・・・多少問題はあるけれど、十分目を瞑れる範囲だ。 何より大切なのは、あたしを盲目的に好きと言ってくれること。 そりゃ女の子だもん。 『好き』って言われて嬉しくないはずないでしょう? でも。 それとこれとは話は別で。 嫌いじゃないし、どちらかといえば好きかもしれないけど。 『ユカちゃん今日も大好きだよ』 『ユカちゃん今日もまた好きだよ』 『ユカちゃん明日もずっと大好きだからね』 毎日、好き好き愛してるの大安売り。 それって、どう? そんなに軽々しく言われて、信じられる? 奴の言葉を真に受けるのは簡単だけれど。 でも、もし裏切られたらつらくて悲しいから。 『あたしは嫌い』 わざと嫌がったり、悲しがったりすること言ってみる。 それで怒ったり、離れていったりすればその程度の男だったってこと。 その程度にしか、あたしのこと好きじゃないってこと。 そんな男だったらこっちから願い下げ。 あたしと付き合うなんて、100年早いって感じ? 「ユカちゃん、ホントは俺のこと好きなんでしょ?だから、手作りチョコなんでしょ?」 帰り道、隣で無邪気にはしゃぐバカを横目でちらりと見る。 まるで犬みたい。 尻尾を千切れんばかりの勢いで振る姿が、ありありと頭に浮かぶ。 ・・・ってことは、あたしが飼い主? それって、ちょっといやなんですけど・・・ 自分の想像でげんなりしてたら。 「そんなユカちゃん、恥ずかしがらなくてもいいよぉ。俺ちゃんとわかってるから大丈夫。 ユカちゃん、すっごく恥ずかしがりやだもんね。でも、そんなところもかわいいよね・・・」 「・・・バカ」 ・・・ほんとにこいつは・・・ 無邪気っていうのか盲目的っていうのか、都合のいいようにしか考えられないっていうのか。 一体どこをどうしたらあたしが恥ずかしがりやになるわけ? 一回頭かち割って見てみたいよ・・・ 「でもね、俺恥ずかしがりやでも違っても、意地悪でも可愛くなくてもいいんだ。 ユカちゃんがユカちゃんでいてくれたら、それでいいの。だって好きなんだもん」 突然。 あたしの目の前にひょいっと出てきて、いつものへらへらした顔じゃなくて、 にっこりと笑いながらそう言われて。 「・・・・・・・・」 さすがのあたしも、思わず絶句。 ちょっと、これって・・・不意打ちだよ。 こんなまじめな告白って・・・今までにあった? 自分でもわかる、顔の温度だけ、ぽぽぽぽぽ・・・ってあがっていくのが。 そしたら。 「・・・・・」 奴はあたしの顔をじっと覗き込んで・・・突然破顔。 「やっぱりユカちゃんって照れ屋さんだ」 ってことは、やっぱり俺のこと好きなんだ・・・なんて問題発言のおまけ付き。 ・・・・あたし、こいつに遊ばれてる? 「かっ・・・勘違いしないでよ!あたしはあんたのこと好きじゃないからね!!!」 思い切り言ってみたけれど、きっと後の祭り。 もう舞い上がっちゃって、あたしの言葉なんて聞いちゃいない。 あー・・・こんなことなら、ショコの誘い断って、手作りチョコなんて作らなきゃ良かった・・・ 藤原ユカ、大誤算のバレンタインでした・・・ おわり |