SKY GARDEN










オレンジの想い   tukushi ***







覚えているのは、花沢類のシャツの柄と、恥ずかしそうに微笑む彼女の表情


あたしはいつもの倍の速さで鼓動を刻んでいる心臓を落ち着かせるために
胸の上でぎゅっと手を握る。


心臓を掴むみたいに。
ギュッと。








いつものように、非常階段へ向かった。
花沢類がいるはずの非常階段。



司は仕事で最近大学の方にも顔を出さないし、携帯に電話を掛けても めったに繋がらない。



何のための、携帯なのよっ。

文句の一つも言えやしない。





いつものことだけど、
こんなときは花沢類に逢いたくて。


きっと、今日はお天気がいいからあそこにいるはず。


あたしの足は、非常階段へと向かったんだ。






そうしたら、そこにはやっぱり花沢類。
けどいつもと違ってた。




それは
花沢類が起きていた、ということ。

それは
花沢類が一人じゃなかった、ということ。





重たいドアを開けようと、ドアノブに手を掛けて体全体をドアに押しやる。
ぐぐぐ、とドアが少し開いた途端、いい香りがした・・・ような気がする。




・・・あれ?香水の・・・匂い?




非常階段に飛び出たあたしを待っていたのは

だるそうな花沢類と彼と向かい合っている知らない、女の子。




「あ、ご、ごめん」

あたしは何故か謝って、その場を後にする。
バタン、と閉まるドアにスカートが挟まれそうになってあわてて足を動かした。




(びっくりしたー!びっくりしたー!びっくりしたよー!!)




口元を手で押さえたけど、きっと顔が真っ赤なのは全然隠せてないと・・・思う。
思うのだけど、バタバタと動かす足のスピードをあげることしかできなかった。


体育の時間でもこんなに一生懸命走ることなんてない。
何回か、先生に注意された気がするけど止まる訳にはいかなくて。

なんで?と聞かれても困るのだけど。



なんで・・・とまる訳には・・・いかないのだろう。



あぁ、そうだ。


あれはきっと告白だから。
彼女は自分の想いを花沢類に告げていたのだ。




だからあの2人を見た瞬間、あたしの脳裏に「まずい、この場を去らなければ!」という思いが駆け巡った。
そしてあたしはその本能に正直に行動したわけで。

誰だって告白のシーンなんか見て欲しくない。
ましてや振られる場面・・・



え?振られる?
なんであたしあの子が振られるって・・・・・・






『俺、牧野が好きだよ』
NYの空港で司に対して言われた言葉。





・・・・・・花沢類。








だるそうな花沢類の背中。
うつむき加減の女の子。





あたしの頭からなかなか離れてくれない、そのシーン。







あてもなく走り続けてたどり着いたのが音楽室。
音楽室の外からそっとドアに触れて中を伺う。
誰もいない音楽室は少しさびしそうで。

西日が思い切り部屋中を染めていて
窓が開いているのだろう
カーテンがふわりと大きくふくらんだ。



カラカラとドアを開けて中に入ると、あたしは入り口から一番近い椅子に腰を下ろす。




・・・そうだよね、あんなにかっこいいんだもん。
告白ぐらいされてるよね。

少し落ち着いてきた鼓動。胸の上で拳を作っていた手をおろす。

でも、道明寺や西門さんにしても学校でああゆうの見たことなかったから。
少し、驚いた。








驚いた?
ううん、違う。




───なに?この気持ち。






・・・・・・嫉妬?

あたし、嫉妬してるの?




あたしには道明寺司という彼がいる。
そう、好きなのは道明寺。






けれど
花沢類。


彼に対しての気持ちはなんと言うのだろう。


きっと、あたしが今よりもっと頭がよくて
今よりもっといろんなことを知っていても


花沢類に対しての気持ちは、言葉にできない。



司に対しての好き、とも違う。
西門さんや、美作さんに対しての好き、とも違う。


あえて、あたしの言葉でたとえるなら道明寺への想いは太陽みたいな赤い想い。
花沢類への想いは…夕陽のようなオレンジの想い……





自分には道明寺、って人がいるくせに
花沢類には、特別な人を作って欲しくないなんて




なんて嫌な女なんだろう。












がらり、とドアが開くと同時に背の高い影。
「ここにいたんだ」
逆光で顔は見えないけど、花沢類だよね。



上履き、踏んでるから
歩くたびに変な音がするもの。



「・・・ご、ごめんね、さっき」
「さっき?あぁ、あれ?非常階段?」

うんうんと神妙な顔で頷いたけど、花沢類はそんなことちっとも気にしてないようで・・・・・・


「それよりあんた、なんか用事あったんじゃないの?」

ペタペタと踵を踏んづけている上履きを鳴らしながらあたしの前の椅子に近づくと
ガタリ、と椅子を引く。そしてあたしの前に腰掛けた。
椅子の背もたれに肘をついて
薄いグリーンが入ってるビー玉みたいな瞳を惜しげもなく目の前に持ってくる。




そ、それ以上整った顔近づけないでっ!!
き、緊張するじゃない!



「あ。あぁ、あたしのはたいしたようじゃないから」




「・・・・・・」
「・・・・・・」






会話が終わってしまう。
さっきあんなシーンを見たせいか、みょうに意識しちゃって。


な、なんか会話をしなければっ。

でも、焦れば焦るほど言葉なんてちーーっとも浮かんでこなくて。



「さっきのかわいい子だったね!」
「・・・・・・」





も、もう!あたしのバカバカバカっ!!
なんで一番いっちゃいけないこといっちゃうのよーっ!




自分のマヌケさに泣けてくる。
けれど、一度口に出した言葉はもう取り消すことはできなくて。
あたしは仕方なしに、花沢類の返事を待った。




「・・・・・・気になるの?」




花沢類の心の中は解らないけど、
解らないけど今の言葉はけして茶化してるんじゃないってわかる。




だから、あたしは正直に

答えた。








「・・・・・・気に・・・なる」





あたしの目の前にあった、ビー玉みたいな瞳が少し揺れた気が・・・した。




「な、なんかあたし上手く言えないんだけどっ。道明寺が好きだし、一番一緒にいたいのも道明寺なんだけど・・・それでも、花沢類も、大事で・・・・・・」


自分でも説明のつかない頭の中を、人に話すのはもっと大変で。
それでも花沢類は、肘をついた姿勢のままあたしの前で身動きもせずに聞いてくれた。



「わかってるよ」
「え?」
「大丈夫だよ、わかってるから」

















「牧野は、司を好きでいていいんだよ」










花沢類────















「おい、あれいいのか?司」
腕を組んでいる司の肘を総二郎がつつく。
「・・・あと5cmでも近づいたら、類のやつブッコロス」
音楽室前の廊下では、面白そうに見守る男が1人。
怒りに震えている男も1人。






そんな会話が廊下でされてるとは知らず、あたしは花沢類の言葉に度惑いを隠せない。


「あ」

花沢類が何かを思い出したように、立ち上がった。


「な、なに?」


「見て、夕陽。すごいよ」



まぶしそうに目を細める花沢類の視線の先には大きな太陽。


飲み込まれそうなほどの大きな夕陽から発せられるオレンジを全身に受けて 窓際まで近づく。




まぶしいくらいの夕陽。



花沢類を…想う色。





花沢類の目にはどう映っているんだろう。
・・・あの子の目にはどう映っているんだろう。



あの子の告白に返した花沢類の言葉はきっときついものだったろう。
嘘の言葉を言わない人だから。
言葉をいろいろなシガラミで飾らない人だから。




沈もうとしているこの夕陽が
彼女の目にも、どうか優しく映ってればいい、そう思った。










おしまい






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