SKY GARDEN










夏の夜   rui × tukushi ***







すっごい暑くて・・・・・・
きっと今年一番の暑さなんじゃないかってくらいで・・・・・・


こんなこと言い出すあたしを、暑さのせいにするのにぴったりな一日だった。




学校からの帰り道、アスファルトは熱を反射して湯気が出そうだ。

そんな道を、あたしは登校日。花沢類は・・・何のようだったんだろ・・・
ま、まぁいいか、大学に来る用事があるとかで、いつもの非常階段で待ち合わせして
一緒に帰ることにしたんだ。



「ね、花沢類・・・・・・。今日なんか予定ある?」
「・・・これといってないけど」
おずおずと切り出したあたしを不思議そうに見つめながら花沢類は笑う。
相変わらず、色素の薄い瞳。



きっと初めて彼を見た人は、この瞳に釘付けになるんだろうな。
もちろん、とびきりの容姿に恵まれてる人だけど・・・・・・
あたしはこのビー玉みたいな瞳が一番好き。


それと・・・
この笑顔。



あんまり笑わない人だからかな?
そーゆー人が笑うって、すんごく新鮮。


おまけにこの笑顔に弱いのよね・・・
微笑んでいる、という程度の笑みなんだけどね。
無表情の顔ばかり見てたら、すごい笑顔に感じるわ・・・・・・





見惚れそうになる自分に喝を入れつつ、昨日信じられないくらい練習したセリフを言う。




「キョウイッショニハナビミニイカナイ?」

「・・・・・・」




や、やばい。棒読みだ!!
これじゃ、怪しい外国人じゃないっ!!




が、もう遅い。




花沢類は数秒あたしのひきつった笑顔を見つめてから、ゲラゲラとおなかを抱えて笑い出した。


「ぶはっははは!!なにあんた!どうしたの?」




はぁ・・・。
やっぱりあたしにはこういうかわいらしい事は似合わないのよね・・・・・・。



花沢類のせいじゃないけど
ゲラゲラ笑い続けている姿を見ているとムカムカしてくる。
ムカムカするのが通り越すと、なんだか情けなさでいっぱいになる。
こんなあたしに気付くわけもない花沢類。





笑い転げてる花沢類を置いて、少しうつむき加減で駅へ向かう。
花沢類もお迎えの車があるはずなのに、一緒に帰りたいからって言ってくれて、横にいてくれるのに・・・。
せかっくの・・・一緒の時間なのに・・・



ほんとは知ってる。
今日、花沢類は大学になんか用事はなかった。

あたしの登校日に合わせて・・・
付き合ってくれてる。






不意に足元に黒い影が広がる。
瞬間、少し気温が下がったように感じた。
あたしは足元の影の正体がわからなくて、顔を上げようとした瞬間グイっ、と腕を引かれた。



見上げると、花沢類があたしの腕を引いていて・・・・・・




「笑ってごめん。あんたが急におかしなこといいだすから。くくく」

まだ瞳に涙を浮かべている花沢類。
その瞳は相変わらずの透き通った色で、あれ?少し・・・うれし・・・そう?




「で、なんだって?花火?」

「・・・もういいよ」
さっきの情けなさが蘇る。


再び、腕を引かれた。



「なに?すねないでよ。笑ってごめんて。あんたに誘ってもらってうれしんだけど?」







花沢類の言葉に、あたしの周りの温度は2,3度上がったように感じた。


■■■■■


「ママ〜、早く!お願い!時間ないよ〜!!」
「待ちなさいって!!大丈夫よ、10分もあれば着せれるから」

あたしはあれから、急いで自宅に戻ってからママのいる実家に向かった。
そう、浴衣を着せてもらうため。



2年前に作った浴衣だけど、どうにかいけそう。
急いで、浴衣を羽織るけどそこからどうしていいのかわからない。

肝心のママはTVに夢中で、ちっとも腰をあげようとしない。

浴衣のすそが、情けなくひらひらしている。
昔、西門さんに着せてもらったことがあるけど・・・
自分じゃどうしようもない。


「花沢類が迎えに来ちゃうよーっ!」

最後の手段とばかりに、花沢類の名前を出す。
ほんとは言いたくなかったけど・・・



花沢類を待たすのは、もっと嫌だったから。




花沢、という言葉にピクリと反応したママ。
さすがというか何というか・・・



「も、もうやだわー!つくしったら!早く言いなさいよ!」

なぜかあたしが怒られて・・・
けどそれからほんとに10分で、浴衣に着替え終わった。



「うん、ばっちり」


鏡越しにママと視線が合う。
にっこりと(・・・いや、ニヤリの方が近いかも)笑うとポン、と浴衣の帯をたたかれた。


「かわいいわよ、つくし。これで花沢さんもつくしにメロメロよ〜!」


花沢類と付き合ってることは、パパやママたちには言ってないけど、なんとなく気づいてるみたい。
道明寺のことも詳しくは話してないけど、簡単には説明した。




もう、同じ道を歩くことはないこと。
これだけははっきりしてたから。



多少、がっくりはしてたみたいだけどまぁ、こればっかりはしょうがないからね。


「髪も、上げたほうがいいんじゃない?」

ママがあたしの髪をひとつにくくる。

「・・・髪の毛いじるの苦手なのよね。ママやってくれる?」

ハラハラと自分の髪を持ち上げる。
あたしの髪はストレートで癖がつきにくいからか、すごくいじりづらい。



ママは、洗面所からブラシを持ってくるとあたしを座らせて髪を結い始めた。



久しぶりだな・・・ママにこうやって髪梳かしてもらうの。
うっとりと目を閉じているとママの手がぴたりと止まる。



「つくし。もう・・・・・・好きな人の手は離しちゃだめよ」
「え?」


思わず、後ろを振り向きそうになったあたしをグイ、と押さえつけるママの手。

「・・・そりゃ、玉の輿に越したことはないけどね。つくしが幸せでいてくれることが1番なんだから」
「ママ・・・・・」



道明寺んときは散々せっついてたくせに・・・・・・
今回はやけにおとなしいな、と思ったんだよね。
でも、そう思っててくれたことがうれしかった。


ありがとう・・・、ママ。




「・・・・・・今日、泊まってきてもいいからね」
ママが耳元でボソリと囁いた。




・・・・・・ちっとも変わってねーよ。



■■■■■


「花沢類!ごめんね!まった?」



も〜!!やっぱりママにもっと急いでもらえばよかったーっ。
あれから、あーでもない、こーでもないって何度も髪型をいじるので待ち合わせの時間に間に合わなかった。



あたしの姿を見つけた花沢類は、少し驚いた顔をしてて・・・・・・




あれ・・・?浴衣、おかしかったかな・・・・・・。
なんだか張り切って浴衣を着た自分が少し恥ずかしくなる。


花沢類に向かうスピードも自然と落ちてきた。


それなのに、花沢類との距離はどんどん縮まって・・・
あれ?と思ってると、花沢類のほうがこちらに向かってきてるんだ、って気づいた。




「・・・浴衣・・・着たんだ」
目の前で足を止めた花沢類が、あの笑顔で微笑んでいた。


やっぱりこの笑顔にクラクラする。


「う、うん。やっぱり花火大会っていったら浴衣でしょ!うん。涼しそうでいいのよねー。
やっぱり日本の文化よね!!ただ自分で着れないからママに頼んで・・・、そしたらママが髪も上げれば?っていうから遅くなっちゃった!
あ、遅くなっちゃってごめんねー。あたしが誘っといて遅れるなんて・・・・・」



「・・・なに動揺してるの?」




(どきーーーん)




なにって・・・あんたの笑顔見たからでしょうがーーっ!!






そんなに幸せそうな笑顔で微笑まないで。
そんなに愛しそうな瞳で微笑まないで。


なんだか、うれしいはずなのに
切なくなる。



あたしは・・・・・・

ちゃんと花沢類を幸せにしてあげられてる?






「さ、行こう!始まっちゃう!」

あたしは花沢類の質問には答えないでそのまま彼の腕を引いて少し涼しくなってきた道を歩き出した。



■■■■■


「うわー、すごい人だね!」



会場はすごい人でごった返している。
一歩進むたびに、人にぶつかる。
人ごみが苦手な花沢類のことが気になって
ちら、っと横顔を盗み見るとやはり、あんまり嬉しそうではない・・・・・・。


「まっすぐ・・・歩けない」

ボソリと呟いた花沢類。




そうだよね・・・。
こんな人が多いとこって、花沢類には似合わない・・・

あたし一人で勝手に盛り上がって・・・
あたし一人で張り切って・・・






「牧野っ!!」


急に名前を呼ばれて顔を上げる。
そこにはビー玉みたいなあたしの好きな瞳。


「は、はいっ!!」


目の前数センチに花沢類の顔・・・
超ドアップの花沢類の顔に思わず、数歩後ろに下がってしまう。

後ろにいた人が舌打ちをするのが聞こえた。



「ほら、邪魔になってるよ。考え事?人がいっぱいいるから手繋ごうよ。迷子になるよ」
促すようにあたしの肩を抱いて、数歩前に歩き出す。



「て、て〜〜〜?!」



手、繋ぐんですかっ!?
い、今ですかっ!?

心の準備が〜〜っ

手だって、汗かいてる〜〜っ



「あ、あたし手、あ、汗かいてるしっ!!」



一生懸命考えた言い訳。
・・・最悪。


「汗?あぁ、べつにいいよ、そんなの。気にしない」


花沢類はほんとに気にしない素振りで自分の左手をあたしに向けて差し出した。


すごく悩んだけど、花沢類の笑顔に後押しされて
あたしはおずおずと自分の右手を伸ばしてみた。





伸ばしてみた・・・けど・・・
やはり
ますます汗をかく手。





心臓が・・・手のひらに移ったみたい。
花沢類の手は、大きくてあたしの手がすっぽり入っちゃう。
大きいけれど、そこら辺の女の子より綺麗な手。
もともと色も白いけど、指も長くて・・・
あたしなんかより、全然綺麗な手・・・



汗もかいてないし。





うぅ〜、せめて冬に繋ぎたかったっ!




「・・・・・・花沢類は汗、かかないの?」

素朴な疑問。
湿ってるのはあたしの手だけのような気がする。

夜っていっても、まだ結構な暑さ。
おまけにこの人の多さ。

未だ爽やかさを維持している花沢類。
不思議・・・




「・・・俺だって人間だよ。でも、まぁ、めったなことじゃ汗はかかない」
花沢類ってば、おかしなこと聞くんだななんて呟いてたけど・・・・・・
あたしには不思議でならない。

「・・・ふぅーん」


やっぱり金持ちって、なんか違うのかしら・・・。
なんてことを思ってみたり。





そんなこんなで、花火大会の時間が迫ってくるとますます人も増えてきた。
さすがのあたしも人の多さに酔いそうだ。
あたしでこうなんだから花沢類も疲れてんだろうな・・・・・・

慣れない場所に連れてきてしまった花沢類のことを考える。



「花沢類待ってて。あたしなんか飲み物買ってくる!」
「あ、いいよ俺行って来る」
「いいよ、慣れてないでしょ?こーゆーの」
「社会勉強だよ。あんたと付き合っていくんじゃ庶民の生活も知らないとね」



嬉しくなることをさらりと言う花沢類。


赤くなる頬。

気づかれなかったかな。
あたしはそのまま人ごみに飲まれる花沢類の広い背中を見送った。







あたりもだいぶ暗くなってきてて、あたしは少し歩いたとこにある石段の上に腰掛ける。
ひんやりと冷たい石に、思わず頬が緩んだ。




・・・・・・いろんな人が行き交う道。
親子連れや、カップル。
友達同士?
あたしは人の流れを他人事のように、石段の上から眺めていた。


でも
いくら待っても花沢類が戻ってこない。
あれから、30分は経つ。




いい加減、おかしいよ・・・。
あたしはさっきのあたりまで戻ってみる。



いない・・・・・・




やだ。どうしよう。
何かあったのかな。

・・・まさか絡まれたりしてないよね?
あ、でもそれは平気か・・・・・・
花沢類もボーっとしているようでケンカ強いみたいだし。

携帯。

携帯に電話してみよう・・・・・・・


が、いくらかけても通じない。



まぁ、子供じゃないし。
幸いなことにお財布持ってるから帰れないことはない。
それでも・・・・・・
やっぱり・・・・・・




一応、あたりを見回すけど、花沢類らしき人は見当たらない。
あれだけの長身にかっこいい容姿。
すぐに目に付いてもいいのに・・・・・・。








ひゅるるるるるるるるる





どぉおおおおん



<<わぁぁぁあ>>



あたりがどよめく。
きょろきょろと辺りを見回すとみんな空を見上げていた。



あぁ、そうか
花火大会だ。
何しにきたのか忘れるほど動揺してる。



ひゅるるるるるるる
どぉん




けど2発めの花火が上がる頃には、もう諦めの気持ちがあって・・・
こんなに人がいっぱいじゃ、もう会えないよね・・・・・・




ひゅるるるるるるる
どぉん、どぉん







次々と上がる花火。
見上げている人たちの顔が色とりどりに染まる。

幸せそうな周りの人たちにつられて、あたしも空を見上げた。


真っ暗な空に輝いている光の粒は、あたしにはなぜか切なく見えて
視線をさっきまで花沢類とつながっていた手のひらに移す。




・・・・・・花沢類と見たかったな。





はぁ

自然とこぼれるため息。

なんであたしって、こんなんばかりなんだろう。
高校時代、初めての花沢類とのデートでは、トイレ空けられるし・・・
今日はなんだか変な誘いかたしちゃうし。





涙が零れた。

あたしは人波に逆らって歩き出す。




溢れる涙をぬぐいもせずに。



幸い、周りは花火に夢中で、ここで泣きながら歩いている怪しい女の子なんかに目もくれない。





こんなことぐらいで泣くなんて馬鹿みたい。
たかが迷子じゃない。






・・・でも、花沢類がいない。
それだけのことがこんなに不安なんて。
こんなに寂しいなんて。


もう、会えないわけじゃない。


明日になればまた会える。
それで、今のこの出来事のことだって笑って話せる。
迷子になっちゃったんだよ、って。




でも


花火の光の粒が消えてなくなってしまうように
花沢類もいなくなってしまうような不安感。





───花沢類、どこにいるの?















とぼとぼと人波に逆らって歩いていると
突然、ぐいっ、と肩を掴まれた。


「きゃっ!!」


驚いて振り向くと
そこには花沢類。





髪を乱して
形のいい顎からは、汗が2粒ほとほと、と落ちる。




手の甲で額の汗を拭う。

普段汗をかかない、花沢類。






・・・・・・どうしてこんなに汗かいてるの?
・・・・・・どうしてこんなに息が乱れてるの?






「もう、あんたどこにいるのさ」

いくら探しても、いないんだもん、と少し怒ったようすの花沢類にあたしはたまらなくなって 抱きつく。




「汗かいたから、汗臭いよ」
そう言いながらもあたしの背中に回る腕。

花沢類の心臓がドキドキしてる。



「・・・・・・いいよ。レアだもん。汗臭い花沢類なんて」
あたしは花沢類の背中に回した腕に力を込めた。



「探してて・・・・・・くれたの?」

「あたりまえでしょ?せっかく牧野から誘ってくれたんだ。楽しくしたいじゃない。
 おまけにこんなにかわいく変身してて・・・誰かにさらわれちゃったらたまんないもん」






・・・・・・類。





「もう、手離さないでよね。俺も離さないから・・・・・・」

俺も汗臭いし・・・これでオアイコでしょ?耳元で囁かれる。

顔を上げると、花沢類の笑顔。


嬉しくて嬉しくて

花沢類の胸で、コクンと頷く。





「花火ってでかいんだねー」
花沢類の言葉が花火の音にかき消された───








花沢類の汗。

「もう、手離さないでよね」の言葉。



この2つ
心に刻んだ花火大会の夜。





おしまい



→text   →nijitop