candy rui × tukushi ***
ほら、と差し出された左手に半透明のキャンディー
類はいつもあたしに、甘い想いを教えてくれる
このキャンディーのように甘酸っぱい想い
「いい加減、機嫌なおしてよ」
はぁ、とため息と一緒にでた言葉に少し棘を感じる。
類もイラついてきてるのが、伝わる。
でも、もうあたしも後には引けないよ。
類の顔を見たら泣いちゃいそうな気がして、黙々と足を動かした。
「あたしの存在ってそんなもんなんだよね」
泣きそうなくせに、憎まれ口をきく気力は残ってるらしい。
自分の気の強さに我ながら関心する。
自分でもこんなこと言うのずるいって分かってるよ。
比べることのできない選択だもの。
でもたまにはあたしのことで困ってみせてよ。
「誰もそんなこと言ってないでしょ」
類の声を後ろに聞きながら、あたしはペースを緩めることなく裸の木々が立ち並んでいる
遊歩道を進む。
もうすっかり季節は冬。
付き合い始めたのは春なのに。
それでも2人でデートなんて数えるくらいしかない。
類の仕事が忙しくて。
こんなに大きなケンカは久しぶりだ。
…もともとの原因はなんだっけ?
───ドタキャンだ。
最近ドタキャンが多い。
デートの前日。
デートの当日。
デートの最中。
そりゃ、類の仕事が忙しいことぐらいあたしにだって分かってる。
普通のカップルみたいに週末に必ず会えたりするわけじゃない。
平日に一緒に食事に行ったりできるわけじゃない。
だから1ヶ月のなかの数少ない休日。
大事なデート。
その日はあたしの為に空けていてくれるらしいのだけど・・・・・・
あたしの為に使われることはまずない。
類と一緒にいればいるほどあたしの中に嫌な感情が湧いてくる。
「独占欲」
類には知られたくない。
あたしの中にこんなに真っ黒な何かがある事。
そして今日も・・・・・・
3週間振りなのに。
3週間ぶりのデートなのに。
待ち合わせをして、映画でも見ようってことになって・・・
始まるまでの時間カフェでお茶してた。
そしたら・・・
やっぱり、というか・・・
類の携帯に電話がかかってきて・・・
難しい顔で話してたけど
電話を切った後、気まずそうな顔をしたので
あたしはそれですべてを悟って彼に告げた。
「いいよ。仕事でしょ。あたし一人で映画みるから」
あたしは飲みかけていた紅茶を一気に飲み干すと、そのまま店を飛び出した。
「牧野!牧野ってば!!」
類の声が聞こえるけど、今のあたしには聞こえないのっ。
子供みたい。
分かってる。分かってるよ、そんなこと。
───大事にされてるのも、ほんとは分かってる。
でも自分でもどうしていいかわからないんだもん。
真っ黒な何かが、どんどん大きくなってくるんだもん。
グイっ、と左手を掴まれる。
「・・・聞こえない?呼んでるの」
「・・・・・・」
類の声質が低くなった。
すごくイラついてる、声。
「・・・いいの?こんなことしてる時間ないんじゃないの?」
類の声に対抗してるつもりはないけど自分でも驚くくらい、冷たい声。
類はちらりと腕時計を見る。
「・・・3時までは平気」
あたしも自分の腕時計で時間を確認する。
今、2時過ぎ。あと1時間。
ケンカも時間を気にしながらじゃないとできない。
「すこし、ゆっくり歩かない?」
うん、って言わなきゃつかまれた腕を離してもらえなそうな雰囲気。
あたしは返事の代わりに、少しだけ頷いた。
でも並んで歩いても何も話すことがなくて。
あたしはこれ以上、嫌なことを言わないように黙っているのが精一杯で。
無言のまま過ぎてゆく時間。
類もあきれてるかも。
自分でもこんなに独占欲が強いとは思わなかった。持て余してる感情。
類を独り占めしたい。
あたし以外の人と話さないで。
一日の中であたしといる時間を一番長くして。
一日中あたしのことだけ想ってて。
きっとあたしは今、ヒドイカオシテル。
「・・・ねぇ、あんたさ」
類があたしの方を見てるのが分かるけど・・・あたしは視線を足元に落としたまま顔を上げなかった。
「自分ばっかり我慢してると思ってない?牧野ばっかり我慢してるの?」
「・・・・・・え?」
「俺だって、あんたに会いたいの我慢してるんだけど───」
類の頬が赤く染まる。
思わず見つめてしまったあたしの視線から逃れるように空を見上げる類。
「・・・あたしの存在って何、って言われても答えらんないよ。あんたが全部だもん。俺の」
その一言で今まで堪えていた涙が溢れ出した。
あたしの中の黒い何かが涙で溶けていく。
自分で思ってるより、想われてるって
思ってもイイの?
ずっと我慢していた反動からかなかなか涙がとまらなくて類を困らせた。
・・・類の困ったような表情に、あたしは少しだけ嬉しくなる。
類にこんな顔させることができるの、あたしだけ?
あっ、と何かを思い出したように類がデニムのポケットに手を入れた。
そして何かのせた手をあたしに差し出した。
「・・・キャンディ?」
類の手のひらには、緑色の透き通った大きなキャンディ。
「なんかキレーじゃない?あんたに見せたくてもってきた」
「・・・ぷっ。あたし子供じゃないんだけど」
「・・・子供みたいな駄々はこねるけどね」
笑ったら、まだ瞳に残っていた涙が一つ零れた。
「これ見たとき、あんたのこと思い出して。今度会うとき見せてやろうって思ってたんだ」
(なんでキャンディで、あたしを思い出すのよ)
半分、開きかけた口を閉じた。
うれしかったから。
逢えないときでもあたしは、類の中にちゃんといるんだね?
あたしの中に、いつでも類がいるように────
「なんか、これ類の瞳みたいだね」
あたしはカサリ、と透明なセロファンの包みを開けた。
そこには綺麗なマスカット色のキャンディ。
ポコ、っと口に含む。
「甘くて・・・すっぱい」
甘酸っぱくて、切なくて・・・
類みたい。
「でもオイシーよ」
口の中でキャンディを移動させながら類を見上げる。
「キャンディ一つで機嫌が直るなんて、ほんとお子ちゃま」
類は意地悪そうに笑ったけどあたしは相手にしないもん。
それに・・・
あたしの機嫌を直したのはキャンディじゃないよ。
あたしの機嫌を直したのは類のあの言葉。
『自分ばっかり我慢してると思ってない?牧野ばっかり我慢してるの?』
『・・・あたしの存在って何、って言われても答えらんないよ。あんたが全部だもん。俺の』
類も我慢しててくれたんでしょ?
あたしばっかり類のこと想ってると思ってた。
あたしばっかり逢いたいの我慢してるんだって思ってた。
「イタっ」
舌の先にピリリとした痛みを感じる。
と同時に、口の中に鉄の味が広がった。
「どしたの?」
「キャンディで舌、切っちゃったみたい」
「見せて」
あたしは素直に舌を出した。
類の顔が徐々に近づくのを、舌の傷を見るためだと疑わなかったあたし。
(え?なんで顔を傾けるの─────)
その瞬間、ペロリと舌の先を生暖かいものが触れる。
それが類の舌だと気づくのにたっぷり5秒はかかって。
その5秒の間あたしは舌を出したままマヌケな顔を類に向けていた。
「きゃぁぁぁぁぁぁ」
周りを歩いていた人たちが何事かとあたしたちを見つめる。
モゴモゴと口元を手で隠したあたしはきっとすごく真っ赤になってたに違いない。
「な、なにするのよっ!」
「舐めたほうが早く直るよ、きっと」
意地悪そうな類の笑顔が手の届く距離にあることが嬉しかった。
おしまい
→text →nijitop
|