空港にて ―Hear― tukasa ***
この日の為に詰め込んだ仕事でくたくたで。
開いていたPCをゆっくりと閉じると、親指と人差し指で瞼の上をグイと押した。
そうすることによって、鈍い痛みをほんの少しだけ和らぐことが出来る気がするから。
さすがに疲れた。
結局、詰め込みすぎた仕事は上手くまとまらず
機内でもPCのキーボードを叩く羽目になった。
おそらく、東京まではあと1時間はかかるだろう。
そうすると30分くらいは寝れるかもしれない。
俺は腕時計を見ながら逆算する。
「少し、寝る」
誰に言うつもりでもなく呟くと、SPの斉藤が毛布を差し出した。
「司様、いかがですか?」
「ん。いらね」
そのまま、引っ込められる腕と毛布。
俺は視線を窓の外に移す。
そこには漆黒の闇しかなくて。
窓に反射した自分の顔が移ってるだけだ。
西田が「どうやら少し・・・遅れそうですね」なんて呟いたのをヒトゴトのように聞いていて。
あと数時間後には会える、愛しい人を想像する。
離れれば離れるほど愛しさに気づいた。
愛しさに気づけば気づくほど、今度は切なさが募る。
何度も忘れそうになった声とか
最後に触れ合った口唇の柔らかさだとか
からかうと真っ赤になる頬だとか
アイツを成形する全てのものが愛しいのに。
それでも、抱きしめることができないもどかしさ。
他人を、こんなに大事に思ったの初めてなんだ────
なんてことを牧野のいない場所で実感するのだけど
それを素直に口に出来るほど大人な俺でもなく。
自分勝手なわがままでアイツを泣かせてばかりなのだけど
それでも一番大事なことに変わりはなく。
俺の傍にいろ────、と願う気持ちも変わらない。
牧野のいない日常に慣れすぎた俺は、上手く抱きしめることができるだろうか。
牧野は、俺のいない日常をちゃんと上手く過ごせていただろうか。
けれど、俺は知ってる。
抱きしめた時に伝わる彼女の体温で少しづつ溶けてゆく不安。
笑顔の中にある輝きで、今までの悩み全てがどうでもよくなってしまうくらい
愛しさを感じる、ってことを。
早く、逢いてぇな。
そう思う気持ちも、紛れもない、事実。
ウトウトしだした意識を振り絞るように、傍にいるであろう西田に声を掛けた。
「オイ。機長に言っとけよ。何が何でも急げってな」
西田の苦笑はもう俺の耳には届かなかった。
おしまい
2004,10,21 momota
→text →nijitop
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