SKY GARDEN




陽菜さま for you   rui × tukushi








今日は、絶対に遅刻できない日なのに。


半べそをかきながら、類を睨む。


くるりとまあるく、両手首に付く赤い輪を気にしながら――――。











結婚して初めての、類のおとうさま、おかあさまとの食事会。
「気軽にいらしてね」なんて、優しく言われたのはいいけど。
類との付き合いで学んだことは「金持ちの気軽に」は、あたしの考えてる気軽と はだいぶ違うということ。
さすがにもう、言葉そのまんまを素直に受け取るあたしではなく。



類に買ってもらったばかりの、着物をおろしてみた。



新しい反物の香りは、緊張感をとても煽ってるような感じがする。
ただでさえ、習ったばかりの着付け。
自分一人で着るのは、初めてだったりする、ってのもあるのだけど。



鏡を見つつ、あーでもないこーでもないと30分。
自分の部屋で待ってたハズの類は、さすがに待ちくたびれたのか
襖を勢いよく開ける乾いた音と共に、畳の上を苛立たしく歩きながらやってきた。



「……なにその格好」



まじまじとあたしを見たあと、呟くように口にした類は
あたしの後ろ側に周り、鏡越しに首をかしげる。



たしかに、洗濯バサミでいたるところを挟み
口で腰紐を咥え、足袋は片一方しかはいてないし、肌襦袢に裾よけのみ、という とんでもない格好。



「……う、うろ覚えなんだもんっ」



額の汗を拭いもせず、それでもせっせと着物と格闘してるあたしを評価して欲し いわ。
ウエストよりも少し高い位置で締められてる紐をキュ、っと絞りながら睨みをき かせる。
けど。あたしの睨みなど、たいした事などないようにふふんと鼻を鳴らした類。



「へんな格好だけど。……意外にも、色っぽいね?」



鏡越しの、類の瞳が妖しく揺れた気がして
心臓がドキリとした。



「い、色っぽい??」



わざと、声のトーンをあげて聞き返してみたのだけど。
緊張したのが、バレバレ。
あたしは慌てて、類を部屋から追い出そうとグイグイと類の背中を押す。



おろしたてのストライプのワイシャツが皺にならないように気をつけながら、ド アの目前まで追いやる。
あとは類がドアノブに手をかけるだけ、って所で
今まで素直に押されていた類がひらりと振り返ると、柔らかく抱きしめられた。



「大人しく、退散すると思った…?」



なんて、セリフまで零して。



軽いキスを何度も、交わす。
それはとても心地いい行為なのだけど。
今は、こんなことをしてる場合ではないのだ。



「類、だめだって。食事会、6時からじゃなかった?遅れちゃうよ」



グイと、押し返した胸元から見上げると
類は軽くあたしの上で、腕をあげる。
少し、袖口を捲し上げて時計を確認。



少し考えてから、嬉しそうにニッコリと微笑んだ。





「大丈夫。急げば1回くらいならできる」





ガツンと後頭部を殴られたような衝撃。



「い、いいいいっかいくらいって!!!何をするつもりなのよ!?」



思わず、無意識に胸元の合わせを握り締めた。
それを見た類はますます困ったような笑顔を零す。



「何って…。アンタが想像してる通りだけど」



あたしは、びくりとして思わず後ずさり。
それでもジリジリと詰め寄られ、思わず尻もちをついてしまった。
そんなあたしに視線を合わすように、類も両手をゆっくりと床に下ろすと、
必然的に、四つん這いになりゆっくりとあたしに迫る。

結婚しても付き合ってる頃とたいして変わらず、のんびりとした類はいつまでも 少年のようなのだけど。
不適な笑みを浮かべながら迫ってくる今は、まるで本能のままに動いてる男の顔 。

そのまま、さっきとは反対にずるずるとこちらが部屋の隅まで追いやられ…。
とうとう、あたしの背中に壁が当たる。



「やーっと、追い詰めた♡ 広い部屋もいいんだけど…こういったときは、 不便だよね」



ニヤリと笑った類に、あたしもつられて笑い返すとそのまま口唇を掠め取られた 。



「んっ…」



瞬間的な行為に、思わず下ろしてしまった瞼を上げると
類は嬉しそうに、自分の口唇をペロリと舐めた。



「1回くらいできる、っつーのはキスのことじゃないからね……」



再び迫る、口唇がゆっくりとあたしの口唇に重なる。
暖かな感触は、何度経験してもその度に甘い感情を呼んでくる。

けど、今日はそれに流されてはまずいのだ。

あたしは、バタバタと暴れながら類の肩を押し返そうと努力はするんだけど。

優しくかわされて、反対にあたしの腕は類に押さえつけられてしまった。
壁に押さえつけられたまま、ゆっくりと上昇させられる腕。
同時に重ねられてる、口唇。

優しく甘噛みされ、甘い言葉を囁かれ。

うっとりと、類に身を預けてしまいそうになる。

類も、それを望んでいる………

このまま、このまま………







何度目かの瞼へのキスで、不意に自分の腕の自由が利かないことに気づいた。

ふわふわと揺れてる、類のサラ髪の上の赤い、線。



(なにこの、赤いものは……)



壁に押さえつけられたままの腕は、類の手一つで押さえられている。



あたしの腕は二本ある。
それなのに、なぜ類の腕一つでいとも簡単に自由を奪われているのだろう……



白い腕に、真っ赤な赤が映えている。
ふわふわと邪魔をする、類の前髪を避けながら見入ったそれは
数十分前まで、あたしが格闘していたもので。
それを理解した途端、あたしは頭を抱えたくなった。



真っ赤な腰紐が、あたしの両手首にしっかりと巻きついていたから。



「ちょ、ちょっと!類!なによこれ。外して!」
「いやだ。あんた暴れるもん」



あたりまえだっつーの。
だって、今日は食事会。
アンタはいいでしょうが、あたしは嫁としての立場もある。



「せっかく、気分も盛り上がってきたんだし……」
「盛り上がってんのは、類だけでしょーがっ!」



グイグイと、手首を動かせば動かすほど締め付け感が強くなる。
攻撃的になればなるほど自由を拘束される、罠にかかった小動物のような自分。
このまま散々抵抗して、疲れで動けなくなるのを待たれるのだろうか。



勘弁してよ、もう。
諦めきれずに半泣きで、両腕をバタバタしてると類がするりとあたしの体と腕の 間に押し入る。



ちょうど、腕を縛られてる所為で
まるであたしが類を抱きしめてる形になってしまった。



「んふふー」
「なにが、んふふーなのよ。きもちわるい」
「小指の赤い糸じゃないけど、赤い糸で繋がってる牧野に抱きしめられてるみた い」



なにが赤い糸だ。
そんなか弱いもんじゃないじゃないかっ!



憎まれ口を利きながらも、あたしは手首の紐を取ることに必死だ。
類の柔らかい口唇が、頬に落ちても。
瞼に落ちても、必死でもがいてみる。
けど、耳朶に落ちたキスで状況が変わる。



「……ね。あんま暴れないほうがいいと思うよ。俺を煽りたいんなら別だけどね 」
「………な、なんでよ」



類の視線で促される、答え。
肌襦袢は襟元がだいぶ緩くなり、下着をつけてない胸元が今にも零れそうになっ ていて。
裾よけは裾よけで、もうほとんどその用途を成してないほど、太腿を露に晒して いた。



「ギャッ!!!」



自分の格好を今更、改めて知る。



「ね?でも、もう遅いけどね」



満足そうに頷いた類は、襟元から侵入させた指をゆっくりと胸の先端まで運ぶ。
弄るように何度か擦られた後、その行為を続けられたまま再び口唇を重ねられる 。
あたしから零れる甘い声は、そのまま類の体内に飲み込まれていく。



額の汗が、じわりと増した。



しつこいくらいに、何度も擦られた胸の先は
少しの刺激にも敏感になり、素肌に直接触れる襦袢の生地すらも恨めしい。



「どうする?やめれる?」



あたしに抱きしめられたまま、類はにっこりと悪魔の微笑みを零した。



今なら。
今なら、まだ大丈夫。



あたしはふぅと、深く息を吐くと「うん」と大きく頷いた。



「へー。やめれるんだ。こっちはこんななのに?」



グイと、太腿の間に指を押し入れられた。
自分でもわかる、潤いを零す場所。



かぁーと、瞬時に顔が赤く染まる。



「やめ、やめれるよっ」



これ以上、そこで指を動かさないで欲しい。
それでも、体は反対のことを望んでる気がする。
交わる視線を、無理やり逸らした。



それを見た類が、しょうがないなぁと言うように片手であたしの腰を押さえ込み
ゆっくりと反対の腕を、足の間まで深く進める。
触れるか触れないかの感覚だったものが、徐々にはっきりとした感覚を残してゆ く。



「んっ。い…やぁ…」



やむことのない刺激は、体の自由を奪うばかりか
あたしに与える高揚感までもを、増やし続ける。



「これでも?」



「やめれる?」



微妙な間を置きながら問われる類の意地悪な質問と、卑猥な水音が部屋に響く。
脚の間で蠢いている指の動きに合わせるように、腰が動いてしまうのを自分でも 止められない。
広い部屋の壁際で、いやらしく絡み合うあたしは一体何を望んでいるのだろう。



「も、い…や……」



目じりから零れる水滴は、涙なのか汗なのか。
それすらも、よくわからなくなってきてる。



壁に押さえ込まれ、しゃがみこんだ姿勢のまま攻められ
思うように体を動かすことができない分、より一層刺激を的確に感じるのだ。



「……どうする?」



いつのまにか額に汗を浮かべた類が、あたしを見上げた。



「ど、どうしもしないっ!」



体は、グチャグチャのくせに。
どうしても、類に身を任せることのできないあたしは涙目で睨むことしかできな くて。



「ほんっとに、素直じゃないんだから…」



呆れ返ったように、あたしからするりと体を離した類は
首元に指を差し入れると、ネクタイを緩めた。
ぐったりと壁に体を預けたままのあたしは、そんな類の仕草に改めて惚れ直して みたり。



「ま、そんなとこも好きだけどね。……おいで」



類に促され、あたしはゆっくりと類の上に跨った。
散々、煽られた体がゆっくりと類を飲み込む。
可愛くないことばかりを口にしてるけど。
やっぱり、この熱を収めてくれるのは類しかいなくて。



おずおずと、縛られたままの両手を、仰向けの類の胸元に添えた。
すべてが埋まると、深く息を吐いた類はゆっくりと腰を突き上げ始める。
その動きと、自分の動きをタイミングよく合わせると
体の奥から、ザワザワとした何かが迫る。
今までの、体の表面から与えられる刺激とは少し違う。
あたしの内から、じわじわと侵食してくる快感はとて生暖かくて根が深い。



「…ン…あっ……」



出そうと思ってるわけじゃないのに、零れてしまう声。
そんなあたしを見て、類はグイとあたしの両手を絡め取る赤い紐を引いた。
あたしの上半身も、自然と類に密着する形になる。



「る、類……」



類の行動の意図がわからなくて。
問い掛けるように零した声に、類は答えのかわりにニコリと笑う。



グイグイと突き上げ続けてる腰は、いくらも衰えることなくあたしを翻弄しつつ
紐を押さえてる手とは反対の手で、あたしの胸の先を押しつぶすように擦った。



「ひゃあ!」



じわりとした刺激から、突然襲ってきた痛いほどの快感。
それから逃れようにも、あたしの腕は類にしか解けない。
何度も何度も、擦られ続ける胸の先端。
何度も何度も、突き上げられる腰。



頭の中は、いかにしてその快楽から逃れるべきか。
壊れてしまいそうなほどの、快楽の先へ行くべきか。



迷いながらも、与えられる快楽のすべてを逃さないように、無意識に受け入れる 体。



(も、もうッ……)



上下に動かされる腰の動きに耐えられなくなった頃。
胸の先端を弄っていた指を、あたしの一番弱い部分へと移動させた類は
攻めるリズムに合わせて、突起を優しく擦り続けた。



こんなタイミングは、あたしの昇りつめるタイミングとぴったりで。
さすがあたしを知り尽くしてる、類。ちょっと怖くなるくらいだ。



「る…い…っ。だめっ。あたし…も…やっ…」



フルフルと顔を振ると、あたしは、もうたまらないといった風に類を見下ろした 。
上気した頬は、もう隠しもできない。



「いいよ」



優しく言った割には、行為は乱暴に感じるのだけど。
グイグイと再び紐を引かれ、あたしはついに両手を伸ばしたまま類の胸に突っ伏 す形となった。
そうなってしまえばもう抵抗もせず、そのまま類の与えてくれる快楽に従うだけ だ。



両手が自由になった類は、跨るあたしの太腿を押さえると
勢いよく腰を打ちつけ始める。

散々弄られたあとだ。
達するのは、簡単だった。



類の苦しそうな、吐息。
あたしの、篭るような嬌声。
汗で張り付く、ただ纏っているだけの薄い布地。
緩められた類の喉元が、ごくりと動くのが見えた。



「俺も…っ……」



真っ白な世界の片隅で、真っ赤な紐の端がチラチラと蝶々みたいに舞っていた。



















「………どうするのよ…遅刻だよ」



部屋に篭ったままの、熱気。
鏡に映る、おかしな格好の自分。



「んー。じゃ俺遅刻ついでに、シャワー浴びてこうかな」



暢気に、鼻歌なんか歌ちゃって。
なにその、スッキリした顔は!
遅刻の言い訳を、必死で考えてる自分がバカらしくなってきた。



無意識に、赤い紐から解放された手首を擦る。
色が移ってしまったのではないか、と思うくらいきれいな赤い輪。



さすがにこれに着物じゃ、隠しようがない。
恨めしく自分の手首を眺めながら、もう殆ど脱げかかっていた襦袢と裾除けを脱 ぐ。



たしか、まだ下ろしてないワンピースがあったはず。
ワンピースがアレなら、バックは…靴は……、と



まだまだ甘い痺れが残ってるというのに、それを無理やり振り払い頭の中で何通 りものコーディネイトを組み立ててみる。
そんなあたしをみて類は、苦笑をしながらバスタオルを引っ張り出してさっさと
バスルームに向かってしまった。



「あー、なんか一緒に遅刻するなんて…。ほんと夫婦みたいだよね」



なんて、捨て台詞を残して。



「『みたい』じゃなくて、夫婦なのよっ!このバカ亭主!!」



半泣きで、赤い腰紐を投げつけてみた。
それはあたしの行動とは裏腹に、ひらひらと柔らかく舞う。



まるで類へと繋がる、
小指ではなくあたしの手首から伸びる赤い糸のように見えた。






おしまい












■■■■■アトガキ■■■■■

こちらは、陽菜しゃんちの裏開通&お誕生日おめでとう、でプレゼントさせていただいたお話です。
久しぶりのエロ。
つくしちゃんの、喘ぎ声が大変気恥ずかしかった!(じゃ、書くなよ)

でも、しっかりと楽しみ、悩み、一生懸命書きましたー!
いつもよくしてくれる、陽菜しゃんのためにがんばりましたよ。

着物は私、七五三、成人式、子供の七五三時と数えるほどしか着てないため
着付けが、私の文章上あってるかどうか、知りません(←!)
こんな感じだったよなーってなのを思い出して書いたので、まったくもって信用しないように。
ウソも、突き通すことが大事です。

ちょっと強引な類くんですが、ま、つくしちゃんも本気で嫌がってるわけじゃないので(困ったもんだ)
新婚さんなんだなー(ヒューヒュー)って見てやってください。

ではでは、言い訳もこの辺で……。

陽菜しゃん、我が家でのUPの快諾どうもありがとう♪



2006,6,17    momota




→text   →nijitop   →nijiotonatop