SKY GARDEN










空港にて ―苦手な理由―   soujirou ***






「で、類は?」


不貞腐れたように問う俺に、牧野はまるで自分が悪いかのように俯いた。
そしてそれを見た俺も、牧野に対して八つ当たりをしてしまったようでますます気分が悪くなる。


「あ、花沢類は・・・寝坊。あと1時間くらいで・・・着くって・・・・・・」
「かー。類は寝坊・・・っつーかアイツ、迎えに来る気なんて最初っからちっともねーだろう」


今頃のんびりと着替えでもしてるんだろう。
それかシャワーでも優雅に浴びてる頃かもな。


無意識に舌打ち。
その想像が、おそらく正しいことの確信。
丁度瞳が隠れるくらいで揺れていた前髪を後ろに梳く。
その仕草をイライラしながら何度か繰り返してた俺に、牧野が遠慮がちに口を開いた。


「美作さんは?」
「あー。あきらはデート。直でこっち来るって」


ふーん、と頷いた牧野を横目で見ながら途中で買ったくそまずいアイスコーヒーを口元に運ぶ。
コイツと2人きりななぜか苦手だ。
まずいコーヒーでさえ、今は感謝したいくらいのアイテムだ。
会話をしなくてすむから。


でも、何が苦手かって・・・
正直、よく分からない。



まわりにいくらでもいる女と一緒だろう?
なんでそいつらの前みたいに上手く振舞えない?
こんなのまるで、初めてのデートみたいだ。



特に女として意識してるわけでもない。
それなのに、いくら考えても牧野との居心地の悪さの理由を知ることが出来ないでいる─────



「ね。飛行機が離着するとこ見に行かない?」



ふわりと左隣から、空気の流れを感じた。
牧野を見るとさっさとエレベーターに向かって歩き出してて。
俺も、しょうがなくそのまま牧野のあとを追う。


















「前も・・・・・・ここで花沢類の旅立ちを見送った気がする」



飛行機も見飽きてきた頃、牧野がボソリと呟く。



「・・・静追っかけて・・・フランス行ったときか?」
「うん。あの頃とは・・・何もかもが・・・違うね」



それは、何を指していってるのかなんとなく予想がついて
ゆっくりと牧野の横顔を見つめた。


「そーだなー。ま、上手くまとまるとこにまとまったんじゃねーの?」



日も暮れた滑走路には、明かりが転々と付いている。
ホワリとまわりを照らすオレンジの灯りは柔らかく空気を照らしていて。
そこだけ優しさに包まれているようだ。


さっきまでのイラつきも、薄く引き延ばされたみたいにどうでも良くなっていて。
ただぼんやりと大きな音を立てて飛び立つ飛行機を眺めていると、牧野が遠慮がちに口を開いた。


「・・・西門さんは?あの頃と・・・なにか変わった?」
「は?俺?」


急に振られた質問に、俺は適当な答えを探す。


「あー・・・まぁ、少しは大人になったっつーか・・・大事な事がわかったっつーか・・・」
「ちゃんと、好きな人見つかったの?」


いきなりの核心に心臓がドキリと高鳴った。


「見つかったというか・・・それがお前らが言うほんとの恋愛かどうか・・・確かめてる最中・・・・・・」


決まりが悪くて、そのまま俯く。
それでも、牧野の視線を感じて頬が赤く染まるのが分かる。



かーーーーっ。
こんなの俺らしくねーじゃんっ。
苦手なんだよ、こーゆー雰囲気。
おまけに相手が牧野だしよー。
あきら〜早く来いよ〜。



誰かに話を振りたいけど、振る相手もいりゃしない。



相変わらず牧野とは話が詰まりがちで。
けれど、適当なことを言うのも憚れる。



コイツには嘘を言っちゃいけない気がするんだよな。



牧野の表情がふわりと揺らぐのを瞳の端で知る。



「そか。よかった。あたし、けっこう心配してたんだよ」
「なにがだよ」
「西門さん、ちゃんと恋愛できるのかなーって」



ぐい、と手すりに体を押し付けると牧野は幾分風が強くなってきた蒼い空を見上げた。



「美作さんはね、いくら不倫って言っても・・・ちゃんと恋愛してる。人を愛することを知ってる人だよ。けど、西門さんは・・・なんか違うんだよね」
「・・・・・・」
「どっかで本気にならないように線を引いて恋愛してるんだよ。あ、でもそれがいけないって言ってるわけじゃなくて・・・ そうゆう風な恋愛は・・・最後には自分を傷つけるよ・・・?」



あ、そんな恋愛経験の少ないあたしが西門さんに言える立場じゃないんだけどね。って申しなさ気に俯く牧野。



「・・・あぁ・・・わかってる」



素直な返答に驚いたのか、牧野が顔を上げた。



気づいたんだ。


なぜ、牧野が苦手なのかを。
なぜ、牧野の周りの雰囲気が戸惑うものなのかも。



牧野は、真実(ほんと)のことしか言わないからだ。
そして、心ん中の真実(ほんと)をみるからだ。

まるで、目の前でオレンジを放つあの灯りみたいに。
自分の心の中を、すっかりと照らし出されて。
かといって、それが強引なやり方とかではなく、照らし出した真実を優しく包む。



俺の周りは、いい加減でだらしなくて。
嘘で固めてる女ばかりで。


少しでも自分を良く見せたくて。
少しでも俺の気を引こうと。


要りもしない見栄や、嘘。
それを当たり前のように身に着ける。


けど牧野は違うんだ。
いつも、本当のことしか言わない。


俺に好かれようなんてこれっぽっちも思ってねーから。


牧野との空間が戸惑うのも当たり前だよなぁ。
俺、慣れてねーんだもん。


こんな真っ直ぐなヤツ。



「ははっ、やっとわかった」



急に笑い出した俺に、再び牧野が固まる。
おどおどと、こちらの様子を見ていたけど、俺の笑い声につられて牧野の押さえ気味の笑い声もこの蒼い夜に響く。



「・・・・・・西門さん。そういう笑顔の方が・・・かっこいいよ」
「なに言ってんだよ。俺はいつでもかっこいいんだよ」
「ハイハイ、すみませんでした。西門さんはいつでもカッコいいです」
「・・・なーんか投げやりだよなー」


ゴシッと、牧野のわき腹にエルボーをかます。


「いたいってー。司に言いつけるからね」
「って、司と言えば・・・そろそろじゃね?」


慌てて時計を見ると、牧野はゆっくりと頷いた。


「ん。そろそろかも。行こうか」










ゲートの前には、類とあきらも着ていて。
俺らを見つけると、珍しいものでも見るような視線を投げる。



あー、そうだろう。
俺と牧野じゃギャグにもなりゃしねーよ。



けど、いいんだ。
ずっと気になってたことがすっきりしたから。


鼻歌なんて歌ってる俺を類が胡散臭そうに見つめていた。




おしまい






2004,10,21    momota




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