明りのある街 soujirou ***
「西門さん、今日はデート?」
牧野のいい加減呆れているような口調で問われて、俺は窓の外に向けていた視線を室内に戻した。
人のせいか、暖かい飲み物のせいかわからないけど
カフェの中は、ムッとした暑さを保っていて。
動き回る店員は半袖だし
今がいったい何月なのか一瞬忘れる。
けれど、周りの装飾が嫌でも目に入り
もうそんな時期だった、と思い出すのだ。
色とりどりの光を放つツリーや、のんきな笑顔を振りまいているサンタの置物。
やけに明るいクリスマスソング。
あたりをぐるりと見回すと、椅子の背もたれに預けていた体を少し起こす。
テーブルの上に置かれていた、少し覚めてしまったモカに口をつけた。
「んー。誰とだっけ。ま、そのうち電話かかってくるっショ」
牧野に飛び切りの笑顔をくれてやると、再び視線を窓の外に向ける。
「もー、女の子待たすなんてサイテー!!」
牧野がなんか怒ってるけど・・・・・・
お前が待たされてるわけじゃねーだろう。
ふん、と途切れることのない人波を見つめ続けた。
どうも、幼い頃からこの時期が苦手だ。
たかがイベントだろ?クリスマスなんて。
周りはやけに幸せそうな顔ばかりで。
お前ら、ほんとに幸せなのかよ?
上辺だけじゃねーのか?
と、聞いてみたいもんだ。
それでも、偽善的に浮かべる笑顔に
ソレをぶっ壊したくなる。
おまけに、皮肉にも自分の誕生日が12月で。
一番嫌いな時期に、自分が生まれたんだと思うと
なんとも言えない気分だ。
「そう言えば、総二郎おととい誕生日だったんだろ?」
あきらが、さも興味なさげに言うのが少し腹ただしい。
・・・せめてお前らくらい覚えててくれよ。
類の様子を盗み見る。
・・・・・・。
眠そうに欠伸を一つ。
そうだよな、こいつだって気にしちゃいねーよな。
ま、俺だってこいつらの誕生日になんかしようなんて思ったことねぇしな。
お互い様か・・・・・・。
再び視線を戻そうとした瞬間、牧野と視線が絡んだ。
驚いてる・・・顔か?ありゃ。
「そうなの?誕生日だったの?」
牧野の言葉に俺は頷く。
「3日。12月3日で22歳になりましたー」
「わ、おめでとう!あたしも12月なんだよ。ま、下旬だけどね」
12月は何かと忙しいから、忘れられちゃうんだよねー、と笑う牧野。
なるほどね。
そういう取り方もあるんだ。
真っ直ぐすぎる牧野の瞳は、オレには眩しくてつい逸らしてしまいがちだ。
それは今でもそうであり
昔からでもある。
逸らさないで、見返し続けたら何か変わったのかな、なんて考える。
司のように、ずっと見つめ続けたら
なにか変わってた?
・・・・・・なにか変わってた?って
オレは何を望んでる?!
不意に浮かんだ声に、動揺を隠し切れない。
あわてて、すっかり覚めたモカを全て飲み干した。
けど慌ててたせいか、思いっきり気管に液体が流れ込む。
ゴホゴホとむせるオレの背中に、「大丈夫?」の声と共に柔らかい感触がいったりきたり。
その感触に、いつもは滅多なことでは速さを変えない心臓が激しく高鳴った。
女の手に触れられることくらい、なんて事ない。
普段は、もっとすごいことをさせてるくらいだ。
なんなんだ?この痺れるような胸の痛みは。
激しくなる鼓動と共に、訪れる胸の奥の痛み。
この痛みには、見に覚えがある。
そうだ。
サラを思うと必ず訪れてた痛み。
幼い頃よく一緒に過ごした、女の顔を思い浮かべて
思わず舌打ちをした。
なんで────
むせていたせいで乱れていた呼吸が落ち着いてくる。
「さんきゅ。もう、収まった」
なみだ目で顔を上げると、俺の顔を覗き込んでいる牧野の顔との距離が数センチだったわけで。
目の前でみるみる顔が赤くなる牧野を見ながら
オレは初めて神に祈ってみた。
────頼むから、顔が赤くなりませんように。
「なに、赤くなってんだよ」
「だ、だってっ。西門さん急に顔上げるからっ」
「・・・・・・見とれんなよ」
「見とれてないわよっ。むかつくわっ」
いつもの調子を取り戻せたことに、安堵のため息を気付かれないように零した。
それと同時に
はぁ、と大げさなため息が聞こえたかと思うとあきらが立ち上がる。
「俺、そろそろ行くわ。妹達(アイツら)の買い物付き合わなきゃなんねーから」
ジャケットを羽織ながら、そう口にすると
おまえら、いい加減大人になれよ、と捨てゼリフを残して行ってしまった。
類は類で、退屈そうに窓の外を眺めていて
「そろそろ出るか」と声を掛けると、視線だけ俺によこした。
「西門さん、デートなんじゃないの?」
コートを手に持つと、心配そうに言う牧野がかわいくて。
少し、笑えた。
俺は、司みたいな強さもない。
類みたいな、優しさもない。
牧野に対して何をしてやれるだろう、と思う。
俺がしてやれること。
俺だけが、牧野にしてやれること。
それはまだ分からないけど。
けど
一つだけ分かったことがある。
顔も、名前も思い浮かべることの出来ない相手よりも
牧野と一緒にいたいと思ってる自分。
「・・・・・・もう、いねーよ」
牧野の頭をクシャリと撫でた。
「西門さん、いつか刺されるよ・・・・・・」
牧野の声を背中に受けながら、ガラスのドアを押し開けた。
類のあとに続きながら、すっかり日の落ちた街を歩く。
華やかすぎる街は、それが終わったあとの寂しさを想像させるのに充分で・・・・・・・
少しだけ、切なくなった。
電飾を落とされた木々は、寂しそうに立ち並び
もう、道を行く人に見上げられることもなく立ち尽くすんだ。
また、12月がくるまで。
ただただ、立ち尽くすんだ。
なんでこんなこと考えてるんだ、と首を振ると牧野の頭にポンと触れた。
「牧野、お前の誕生日、司帰ってくるって?」
「んー、無理みたい」
視線を足元に落とした後、寂しそうに微笑む牧野。
「じゃ、俺がお祝いしてやるよ」
「・・・は?」
「お前の誕生日、一緒にいてやるよ」
「えぇぇぇ?!」
「ハタチも過ぎてるのに、女が一人で誕生日迎えるなんて寂しいだろ?」
驚いてる牧野の、後ろで・・・・・・
おーおー。
類のやつが睨んでる睨んでる。
「じゃ、来年の西門さんの誕生日、あたし一緒にお祝いしてあげようか?」
「は?」
類の様子に気づく様子もなく牧野は大きな瞳をクルリとさせると、にっこり微笑む。
予想外の牧野の言葉に、思わず笑いが零れた。
「おう、じゃあ頼むぜ」そう言いかけて、思わず口をつぐむ。
・・・・・・けど牧野。
誕生日だけじゃなく、その後も俺のそばにいてくれるわけじゃないだろう?
1日で終わりだろう?
そこまで考えて、不意にナゼ12月か嫌いなのか、分かった気がした。
楽しいことが終わったあとの寂しさが、いやなのだ。
楽しければ、楽しいほどその後の切なさや寂しさは大きくて。
大事なほど、失った時の喪失感は大きい。
「・・・・・・いや、オレにはちゃんといますから」
「ほんっとに、むっかつくわねー」
鼻を赤くしながら、フンと横を向く牧野。
本気で怒ってる牧野。
さっきの言葉が冗談じゃなかったと分かって、心の奥で何かがジワリと零れる。
牧野、やっぱり一緒にすごしたいみたいだ、俺。
幼い頃に描いた暖かい幸せ。
今はまだ、どんなものか想像もできないけれど。
「まき・・・」
「きゃっ」
牧野が短い悲鳴を発したのとオレが声を掛けたのが同時で。
瞬間、短い風がオレと牧野の間を駆け抜けた。
類が牧野の腕を思いっきり引いて、駆け出したのだ。
ったく。
めずらしく、ゲラゲラ笑いながら走る類の背中を追いかけて走る。
なかなか掴めない牧野の腕を、いつまでもいつまでも追いかけようと思った。
一日だけの幸せがあれば、もしかしたら一年過ごせるのかもしれない、そんな風に思ったから。
おしまい
■■■■■アトガキ■■■■■
ニッシー、誕生日おめでじゅ。
っつーことで、期間限定のショートストーリーです。
あんまり内容がないのと、ニッシーがニッシーキャラじゃないので(滝汗)
1週間限定です。
12月3日、ニッシーの誕生日にお蔵行きになります。
えー、書いててめちゃめちゃ恥ずかしかったです。
おまけにつくしはその気がない(たぶん)ので、書いてて不憫で(よよよ)
つくしはね、ちゃんと司を待ってるのですよ。うん。
ニッシーは気付くのが遅すぎですね。←・・・誕生日なのに、この言われよう(爆)
ごめんね、ニッシー♡
そして、ハッピーバースデー!
2003,11,27 momota
|
→text →nijitop
|