SKY GARDEN










桜香   rui ***






こんなに暖かいと、桜の蕾もだいぶ膨らんできてるだろう。
もしかしたら、ポコポコと数個は咲いているかもしれない。

いつのまにかだいぶ暖かくなってきて、日中ならTシャツやシャツ1枚でも過ごせそうだ。
そんなに変わった気がしないのに、時間は確実に流れているらしい。





類は、いつもの非常階段からいつものように手摺に肘を乗せるとその腕で顎を支えた。


撫でるように過ぎてゆく暖かい風が気持ちいい。
思わず目を細めると、かすかに響いた笑い声。
驚きを隠しつつ、その声のする方を睨んだ。
そしてそこにいつも思い描いている笑顔を確認して、類はホッと表情を緩めた。


「なんだ、牧野か」


安心したような声を吐き出す類に、つくしは相変わらずの笑みを返した。


「あたしで、すみませんねー」


類は、憎まれ口をききつつも自分の横に同じように並ぶつくしの為にほんの少し横にずれる。
だいぶ身長差があるはずなのに、少し類が前かがみになるせいか
少し顔を傾けただけで、つくしの顔を間近で見ることになる。


それを想像しただけで、早まる心臓。


どこにでもいそうな女に、なぜこんなにドキドキするのだろう。
その理由は分かってはいるのだけど、認めてしまうとますます傍にいれなくなってしまう。


傍にいたいのは山々なのに、自分の気持ちは認めることができない。
けれど、そもそも傍にいたいのは、つくしを想ってがゆえのこと。



いったい自分は何をしたいのだろう?



結局いつもぐるぐると考え込んで答えが出ずに終わる葛藤に、今日もまた振り回される。



「なにしてたの?」
「桜、もう咲いてるかなー、って思ってさ」


つくしの問いかけに、類はなるべくつくしの顔を見ることのないようにと、つくしがいる側に肘を付いた。
そして真下に見える桜の樹に視線を送っているであろうつくしを想像しながら、類も桜に視線を落とした。


花の香りは甘いイメージがあるのに、なぜか桜は甘く感じることがない。
樹につく花だからだろうか。
花の香りか、葉の香りか分からなくなるほど桜の香りは緑(あお)を感じさせる。


「桜ってさ、なんか独特な香りがするよね」


つくしは深く息を吸い込みながら桜の香りまでも肺に入れようとしているようだ。


つくしの言葉に、まったく同じことを思っていた類は驚いて思わず視線を送る。


まるで自分の頭の中を読まれたみたいだ。


途端に早くなる鼓動。さっきとは比べ物にならないほど早いリズムを刻んでいる。
なんでこんなに自分の心は正直なのだろう。
類は赤くなっているであろう頬を、頬杖を付いている掌で隠した。
もし、頭の中を読まれてるとしたら、一大事だ。



気が狂いそうなほどの想いにかぶせている、ポーカーフェイスの薄い布。
醜い、司への嫉妬心。
ときにはつくしと楽しそうに話している、あきらや総二郎にまで腹が立つこともある。



ここまで考えて思わず頭を抱えたくなった。



『いったい自分は何をしたいのだろう』



さっきの問いが再び蘇る。



ほんとは答えなんて、もうずっと前に出ている。


「牧野を自分だけのものにしたい」


ただそれだけだ。


けれど。
そのただそれだけのことが、叶うことはないに等しいことも知ってる。
だから、わざと張っている予防線。
自分の気持ちを分からないフリ。




こんなめんどくさそうな恋愛、ほんとは願い下げだ。
ほんと勘弁してほしい。




こっそりと隣を伺うと、今度はこっちの考えなんててんで分かってない風に
のんきに鼻歌なんか歌ってるつくしの横顔。

(あぁ、そうだ。こいつはこーゆーヤツだった)

類は自分の腕に顔を埋めながら、笑いをかみ殺す。
その仕草につくしは、不思議そうに首をかしげながら視線を再び桜へと戻した。



「満開になるのは、いつごろかなぁ」


ポコポコと咲き始めてる数個の桜を数えながら、つくしが口を開いた。


「さぁ」


類は、ゆっくりと体を起こす。


「花沢類の誕生日のころかな?」


自分の誕生日なんて覚えてくれてたんだ。
そのことが妙に嬉しい。


「・・・・・・じゃ、そんときにここで花見でもしようか?」

「花見?」

「そう」

「じゃぁ、あたしお弁当作ってくる」


にっこりと微笑むつくしに、類はため息まじりの笑いを零した。



当分、このめんどくさい恋愛からは抜けられそうにはないらしい。

つくしの笑顔に、これだけ振り回されてる自分。

だったら、どっぷりと浸かってみるか。


類は、早鐘のような心臓を隠しながら、じっとつくしを見つめてみる。
見つめられたつくしはというと、数秒固まったあと桜と同じ色になった頬を膨らませながら
「こっち見るなっ」と怒っている。



どうして、こいつがいいんだろう。
そうして、こいつじゃなきゃだめなんだろう。



それは、こいつに特別な感情を持っているからだ。
その特別な感情を何と言うか・・・・・・






────そろそろ覚悟がいりそうだ。







桜の香りを全身に纏いながら類は想う。


桜の香りはつくしに似ている、と。


普通の花のように、甘い香りを零すことはないけれど

それでも、花なのだ。


類にとって、目を奪われてしょうがない花なのだ。





この日の決断を、桜が咲く季節になると思い出すことだろう。

淡い薄紅色の花びらと、緑(あお)い香りと共に。





それは、切なさと共にか
嬉しさと共にかはまだ、分からないけれど・・・・・・






おしまい






■■■■■アトガキ■■■■■

ず、ずびばぜん〜(号泣)
本来UPすべきお話ではないような気がします。

3人称の初もの・・・。でも、でも、1人称とごっちゃになっちゃったーーー(><)
やっぱり、難しいなぁ・・・。
チャレンジものでした。え、えへ。

2004,3,26  momota




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