SKY GARDEN










空港にて ―名前のない関係―   rui ***







ゆっくりと仰向けに体を倒すと、容赦なく突き刺さる光に顔を歪める。



「なんだか日に焼けそうだよね」



そう口にする牧野もすでに鼻の頭が赤い。
なにをするでもなくぶらぶらとここまで歩いてきてしまった。
防波堤の端に二人で腰を下ろしてからもう30分。



今日は司が休みが取れたとかでほんの少し帰国する。
それの出迎えに牧野に呼び出されたんだ。


まったく。
こっちに1日もいれないんだったら、こなきゃいいのに。
飛行機に乗ってる時間のほうが長いだろう。


なんてことも思ったのだけど。
牧野の嬉しそうに弾んだ笑顔を見せ付けられると・・・
そんな皮肉も口にできないわけで。


チラリと横目で隣の牧野を盗み見るけど・・・
やっぱり、鼻歌なんか歌っちゃって。
あぁ〜あ。つまんないの。



総二郎やあきらも、呼び出されてるはずだろうけど・・・・・・
あいつらは空港で涼んでるんだろうなぁ。



俺、どうしてもあの騒がしい空港が苦手で。
司の乗ってる飛行機が1時間遅れなことをいいことに、こっそりと抜け出すつもりでいたんだけど・・・・・・
なぜか俺の後ろに牧野もいて。
結局、2人でその場を後にした。




ぶらぶらと落とした足の下は、ゆっくりと浪打ち揺れる蒼。
耳に残る音はコンクリートの防波堤にぶつかる波音。
見上げる空は、痛いほどの白。



ここからは飛行機が離陸するのが良く見える。
何もない広い滑走路は、じりじりと陽炎が立ち昇っていて、見るからに熱そうだ。
じっとしていても、汗ばんでくる肌だけど・・・
牧野がいる側は、ナゼかくすぐったくて何度も腕を擦る。



「花沢類?時計だけでも外しとけば?日に焼けて・・・痕ついちゃうよ?」



日焼けのあとなんて、本当はどうでもいいんだけど・・・
牧野の言葉に時計をつけてる左腕を持ち上げる。
丁度、腕を上げた影が顔に重なってほんの少しの安らぎ。
パチリと時計を外すと、そのままポケットに突っ込んだ。


ちょうどそのとき大きな音を立てて飛行機が俺たちの上を通り抜ける。



「そろそろ、つく頃かな?司・・・・・・」


半年ほど会っていない親友の顔を思い浮かべた。


「ん。行く?」





ゆっくりと立ち上がった隣の気配に、俺も体を起こすとデニムの裾を払った。
はたはたと砂が零れ落ちる。




ほんとはもっと牧野とこうしてたかったけど。
しょうがない。



司のお出迎えしてやらないと、不貞腐れるだろうから。



髪の乱れを直すついでに、牧野に視線を送ると
緊張のためか、日焼けのためか・・・
ほんのり赤く染まる頬を牧野は隠しもしないで離着する飛行機を目で追っている。



そんな牧野に視線を送る俺のことなんか気にもしないで。





あぁ、俺は
こんな名前のない関係をいつまで続けるんだろう。





司が牧野を迎えに来るまで?
牧野が司のもとに旅立つまで?



それとも
それとも・・・・・・・・・



牧野がこの腕に飛び込んでくるまで?




ゆらゆらと揺らめく陽炎が牧野をどこかに連れて行ってしまいそうで
急に不安になった俺は随分先を歩く牧野の背中に、声を掛けた。





こっちにおいでよ。
司よりも、俺にすれば?




「ねー!牧野ー!」




両手を広げて微笑む俺に、あんたはどうするだろう。





髪を乱す風から頭を庇うように腕を上げ、振り返った牧野は
両手を広げる俺の元にうれしそうに駆け寄ってきた。







え?まじ?







想像もしなかった牧野の行動に思わず後ずさった俺の腕を摘むと、牧野は得意げに笑う。





「ね?やっぱり!痕残ってる!」





牧野の指がそっと俺の時計の痕をなぞる。





俺の頭ん中なんてちっとも知らずに無邪気に笑う牧野を見て
なんだか気が抜ける。



牧野に意識してもらうには、まだまだ魅力が足りないらしい。



苦笑しながら、司の元へと一歩一歩距離を近づける牧野を見つめる。



ホントは分かってる。
たった数時間しか一緒にいられなくても、こっちに帰ってくる司の気持ち。



俺も、そうだもん。
たとえ、司の帰国を心待ちにしてる牧野でも、一緒にいたい。
1時間でも。30分でも。



だから、ホントは嬉しかったんだ。
空港から、俺のあとを付いてきてくれて。



嬉しかったんだ・・・・・・




俺の時計の痕と、牧野の鼻の頭の日焼け。
司に見せ付けてやろう。



照れ隠しのためだけに呼び出されたんだ。
それくらいのいじわる、なんてことないだろ。なんて思いながら牧野の背中を追った。







おしまい




2004,10,21    momota






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