君のためにできること rui ***
緑色の空気を、胸いっぱいに吸い込む。
体中が、春の色に染まるようで少し嬉しくなる。
レジャーシートの上で、ゴロリと横になるとあっという間に眠気が襲ってきた。
「花沢類?!寝ないでよー!!」
牧野の声が聞こえるけど、もう限界。
こんな日に、寝るなってほうが無理でしょ。
おまけに今日は早起きだったんだ。
「んー・・・」
あいまいに返事をしたけど、もう意識はまどろみの中で。
ゆっくりと、眠気に体を預けながら今朝のことを思い出していた。
5月にしてはやけにあったかい朝で。
暑い、と言ってもいいくらい。
珍しく人に起こされる前に起きた俺はテレビのリモコンに手を伸ばすとそのまま電源をONにする。
特にチャンネルを決めることもなくポチポチとランダムに巡る。
そんなことをやっていると、牧野から電話が来た。
珍しいな、と思いつつ携帯を手に取る。
牧野からの電話は
「今日は天気がいいらしいので、外でお昼を一緒に食べよう」
「お弁当はあたしが作るから」
「11時に森林公園で待ち合わせ」
と、これだけ告げると「忙しいから」と勝手に電話を切った。
なんなんだよ。
しかも11時待ち合わせなのになんでこんなに早く電話かけて来るんだよ。
今、まだ7時半なんですけど?
テレビの画面で、時間を確認する。
いつもの俺なら、絶対に起きてない時間だ。
はぁ、あいつがあんなに張り切ってるってことは
なにか落ち込んでるな・・・?
それでも、久しぶりの牧野とのデート。
約束の時間までにはまだたっぷりと時間があるけれど、俺はシャワーを浴びるべくむっくりと起き上がった。
「・・・あんた、なんであんな時間に電話かけてきたの」
「ひゃぁ!!」
「起きてるんなら、目を開けなさい!」とぷりぷり怒っている牧野を無視して言葉を続けた。
いろいろ考えてたら、目が冴えてきてしまった。
「寝れなかった?」
「・・・・・・」
「司となんかあった?」
「・・・・・・」
ゆっくりと瞼を開けると、そこには木漏れ日を背中いっぱいに受けて座る小さな牧野の背中。
頭の下で組んでいた腕を、左腕だけ残して少し体を起こした。
風がそよぐたびに、背中の模様が変わる。
それはまるで、牧野の中に吸い込まれるように見えて───
あんたの心ん中も、透けて見えればいいのに。
そうすれば、あんたが欲しい言葉、言ってあげれるのに。
何も言葉を発しない牧野にそっと背中越しに声を掛ける。
「大丈夫だよ」
小さく震えてる牧野はゆっくりと振り返る。
笑顔のまま、頬を伝う涙。
司を想っての涙だとは分かっていても、今は俺の手で牧野の涙を拭い去りたいと思う。
それは俺の自分勝手な思いなのだけど。
牧野もそうして欲しいから、俺を誘ったんだよね?
俯き加減で、涙を落とす牧野を自分の隣へ誘う。
「ほら、ここ。おいでよ」
頭を支えている腕とは反対の手で、ポンポンと芝生でフワフワのレジャーシートを叩いた。
戸惑いながらも、ゆっくりと靴を脱ぎ無言で近づいてくる。
俺の胸の辺りで子供のようにうずくまる牧野を、そのまま抱き寄せた。
「大丈夫だから」
何が大丈夫なのか自分でも分からないけど、牧野を安心させる言葉が思いつかない。
「もう大丈夫」そう何度も同じ言葉を繰り返し続ける。
「・・・う〜・・・くっ・・・」
牧野の口から漏れる嗚咽は少しづつ大きくなって───
「泣きたい時は、泣いていいんだ。我慢してるから余計つらくなる・・・」
そんな俺の言葉にゆっくりと頷く牧野の背中をゆっくりとさすり続けた。
次第に収まっていく、背中の震え。
そのうち小さな寝息が聞こえ出した。
頬の涙の跡が少しづつ乾いて
牧野の寝顔に、木漏れ日が影を作る。
「・・・・・・ずっと、そばにいるから」
牧野の耳元で囁く。
そばにいる
これが俺の牧野にできる唯一の事。
牧野が司を想ってたっていいんだ。
少しでも、俺を必要としてくれるなら。
あんたのためにできること。
ずっとそばにいる───
だから牧野も急ぎすぎないで。
おしまい
→text →nijitop
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