SKY GARDEN
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つくし   Scene2




ハァと大きく息を吸うと吸った分だけ吐き出した。
ひんやりとした会議室、といっても普通の会議室ではなく会社の上層部のみが使用できる
4、50畳はあろうかと思われる部屋だったので、ずいぶんと冷え込んでいたのだけれど。


なんだって、こんなに無駄な空間が多いんだろう。


金持ちへの偏見てワケではないのだけど、と言い訳をしながらも呟きに零れるのは
今一番自分の近くに存在する人が、超のつく金持ちだからかもしれない。


どんなに無駄が多い生活か。
どんなにわがまますぎる生活か。


セレブなんつー言葉を耳にするだけで、思わず舌打ちしてしまうほどだ。
あたしには、そんなものに憧れなんて一切抱いてない。
むしろ、司や花沢類たちが一般人だったらもっと付き合い易かっただろうと思うほど。


だけど……一般人のF4を想像したら、思わず口元が緩んでしまった。
あまりにもありえなさ過ぎる4人。


そんな4人を想像の中で楽しみながら、視線で部屋をぐるりと見渡す。


会議に使用する机はきれいな円座を描いていて。
ぐるりと部屋を一周している。
一周するのに何分かかるんだろうか。
この円の直径は一体何mあるんだろうか。
前にいる人と話をするには、大声を出さなければ聞こえないではないか。
おまけに、会議に使用するプロジェクターは、ん百万と聞いた。
自動で閉まる、暗幕。
でかすぎる、モニター。


たかが数十人の会議をするのに、なんでこんな立派な設備の、無駄にデカイ部屋でしなければならないのだろう。
一般人であるあたしには、ちっとも分からない。


不意に時計に目をやる。
12時をほんの少し過ぎていて。
あたしはランチのことを、ぼんやりと考えた。


今日はあんまり食欲ないけど、どうしたものか。


ランチのことを考えると、思い浮かぶのは同期の女子。
せっかく、司のことは隠して入社したのに。
あらかさまに、視線を送ってくる司にあっさりとバレてしまって…。
それ以来、一緒にお昼を取る友人は誰もいなくなってしまった。


まぁね、社長の彼女と一緒に仕事して、やりにくいのは分かるけど。
仕事上で、あたしと司をペアで考えるのはやめて欲しい。

何度か訴えてみたけど。

『最初っから言っててくれれば…』と言われてしまった。


つーか、どうやって言えって言うのよ!


「あたしの彼氏、ここの社長でーす!」って知り合って2,3ヶ月で言えるほど
あたしの心臓は丈夫じゃないのよ。


女同士のこんな世界は、英徳で充分慣れていたけれども。
むしろ、そんなやつらとの付き合いはこっちから願い下げなのだけども。
こういった一人ではキツイ仕事をこなさなければないらい時は、素直につらいと思う。


資料を集め。
ワードに打ち出し、コピーをして、閉じる。
言葉にすりゃ簡単だけど。

上司からは、もう一人担当する子の名前が挙がってるのだけど
あっさりと、忙しいから一人でやってくれる?といわれてしまったのだ。
オマケに、彼に頼んでやってもらえばぁ?と来たもんだ。


そこまでいわれちゃ、ムキになるのがあたしの性格。
二人で2日はかかるところを、一人で1日で済ませてしまった。


けれど、その所為か今日はなんだか調子悪い。


夕べから、少し咳き込んではいたのだけど
どうにかごまかしてきた。
けど、それもそろそろ限界のような気がする。


さっさと書類を置いて、今日はやっぱり早退させてもらおう。




「これだけやっとけば平気でしょ」



誰もいない部屋で呟くと、空調を調節して入り口からぐるりと部屋を見渡した。
忘れ物はないか、遣り残したことはないか。
等間隔に並べられた書類の数を数え確認すると、制服のポケットからカードを出し暗証番号を入力しながらロックを確認。


ほんの少し、緊張が取れる。
乾燥してる所為か、喉の奥が張り付くように感じる。
ケホンと軽く咳き込むと、より一層何かが篭った感覚。
ひりひりと、張り付く感じがイヤだ。


けれど、それよりもなんとなく、足元が軽い気がする。


おかしいな。


額に手を当ててみるけど。
自分じゃ、ちっとも熱があるのかなんてわからない。
それでも体が浮いてるように軽いのは分かる。

ちょっと待って。
なにか歪んでない?

目に入る光景が、ぐにゃりと歪む。足の下にあるのは、リノリウムの硬い床。そのはずなのに、柔らかなクッションを踏んでいるようだ。
そう意識したとたん、体からすべての力が抜けそうになった。
よろよろとどうにか壁際までたどり着くと、壁に体を預けてみる。
相変わらず足元は柔らかなクッション材だったけども、体を支えてくれる壁がある所為か、ホッと息をつく。
そしてそのまま力が入らずズルズルとしゃがみこんでしまった。


あー、ヤバイ。


子供の頃の、懐かしい感覚がよみがえってきた。
くるくると回る天井を追いかける。


「熱があるんだ」
そう確信した瞬間体の熱を感じた。


けれど、ここは会議室ワンフロアーの階。
誰か呼ぼうにも、せめてエレベーターまでは行かなければ。



んもう、最悪。



ずるずると四つんばいになってエレベーターホールまでたどり着くと
司がいるはずの、39階へのボタンを押していた。


あれ?
あたし、司んとこいっても仕方ないよね?
分かってるんだけど。


なんだか無性に会いたくて。
具合が悪くて弱ってる所為か、司の安心する胸の中が恋しくて。
こんなときは、自分を卑屈に考えがちで。
あの会議室のように、あたしは無駄なものなんじゃないかなんて考えてしまって。


正直言うと、ここんとこずっと考えてたこと。
あたしは、司にとってたまたまものめずらしかったタイプで。
この間、偶然聞いてしまったあたしへの悪口の所為かもしれない。


『社長も、物好きだよね。どうせ一時期だろうけど』
『金持ちには、あーゆータイプの子が、珍しいんじゃない?』


散々、英徳でも聞こえてきた悪口。
ホントは、司はそんなやつじゃないって分かってるんだけど。
ちゃんとした言葉で確認したくて。


額から、幾つもの汗が玉になって落ちる。
動悸もなかなか治まらない。


司、どこ?
あたし、無駄なんかじゃないよね?
司の傍にいても、いいよね?



ふわりふわりとした感覚は、エレベーターが上昇していることを教えてくれるけど。
今現在何階にいるか、とか。
どこまで来ているのか、とかはちっとも分からなくて。


四角い箱の壁際に体重をかけ、震える膝を両手で押さえる。
もう少し。
もう少しで、司がいてくれる。
根拠のない励ましで自分を勇気付けながら
エレベーターのドアの向こうに司がいてくれるのなら、いつまでも待ってようと思った。



ドアが開いたとこまでは覚えてる。
うん。
で、そこになぜか花沢類がいて。


あたし、熱の所為で幻覚でも見てるのかと思ったんだけど。


驚いた顔であたしを受け止めてくれた感覚が、慣れ親しんだものじゃないのだけは分かったんだ。



















「なんで調子悪いのに仕事してんの?」


花沢類に不思議そうに、覗き込まれた。
救護室のベットに寝かされて、頭にはひえぴたまで貼られてる。

相変わらず、な花沢類。
あたしの額のひえぴたを、珍しそうにいじってる。


「んー、どうしても仕事休めなかったの。会議の書類のこともあったし」

「書類?だって、あんた一人で仕事してるわけじゃないんでしょ?」

「アハハ、なんていうか…。一人でしてるようなしてないような……」



こんな女の世界のドロドロを花沢類に言ってもなぁ、なんてことも思うのだけど。
あたしは、熱の所為にしてポツリポツリと零してみる。
ほんとに不思議だ。
言いにくいことも。
話したくないことも、花沢類にはなぜか話せてしまう。

答えを欲しがってるわけじゃない。
同情してほしいわけでもない。
花沢類は、ただ聞いてもらいたいだけの自分を受け止めてくれるから。




「司の彼女って時点でこうなることは分かってたけど…。このこと、司には言ったの?」

「言ってないよ。こんなくだらないことで、司の時間取らせたくないし」


飽きたのか、さんざん弄り回してたひえぴたを、花沢類はあたしの額に押し付けた。


「けどさ、あんたはいっつもこんな世界にいるんだね」


笑いを堪えるように言う花沢類に、誰の所為なのよ!と突っ込んでみようと思ったけどやめた。
この仕事を始めて
司や花沢類は好んでこんな世界にいるわけじゃないって、なんとなく分かったから。



「ところで、どうして花沢類はここにいるの?」

「会議予定」

「へー、花沢類が使うんだったんだ」


あの無機質な会議室を思い浮かべた。
仕事モードの花沢類を思い浮かべると、妙にしっくりきて思わず笑ってしまった。


「あとで、あきらなんかもくると思うけど」

「美作さんも?そっか、じゃF3が揃うんだね」

「そだね。あきらがきたら、ここに顔出すんじゃない?牧野に会いたがってたから」

「美作さんが?」

「ん。だから、それまで寝てな」


軽く、ウン、と返事をした気がするのだけど。
花沢類に会って安心した所為か、さっきまでの妙に卑屈な感情はすっかり消えうせていて。
心地よい花沢類の声に導かれるように眠りに落ちていった。















「うわ」

丁度ドアを開けたら、真横に人影があってあたしは持っていたバックを落としそうになった。
さらりと揺れた前髪が、懐かしさを呼んで自然と笑顔になった。


「久しぶり、美作さん」


あたしがスカートのポケットからロッカーの鍵を取り出すのを待って、美作さんがバックに手を伸ばした。


「大丈夫!持てるって。少し寝たら、だいぶ楽になったから」


慌ててバックを取り返そうと手を伸ばすけど、優しく遮られた。
ほんと、彼はこういうのに慣れてるのだ。
小さなバックは、あっさりと美作さんの手に渡る。


「いいって。それより、大丈夫か?司も類も、どうしてもぬけらんないらしくてよ。俺が送り、頼まれた」


「俺はアイツ等ほど重要な位置にいるわけでもないしな」と、車のキーをチャリと手の中で動かす。


普段なら、意地でも電車で帰るのだけど。
さっきの倒れそうになったときを思い出して、素直に甘えてみることにした。



「司がキーキーしてたけどよ、あいつがいなくちゃなんも始まんないらしくて」


苦笑しながら言う美作さんに、司が暴れてるとこを想像してあたしも笑った。
以前の司なら、どんなことをしてもあたしの為に会議を抜けてきただろう。

司も、大人になったと言うことなのだろうか。
スーツを上手に着こなしてる司を思い出し、ほんのちょっぴり寂しくなった。


「類に、ちょろっと聞いたけど……。平気なのか?」


あぁ、そうだ。
今度は美作さんと一緒に歩いてるところをみられたら、なんて言われるか。
そんなことを考えたら、うんざりとしてきた。


「あぁ、平気平気。もうさ、慣れたもんよ」

「そうか……」

優しく頷きながら、チラリとあたしを窺うように視線を落とす美作さん。

「牧野。……これは俺が思っただけのことなんだ。だから、流してくれていい。俺はどちらの味方につくとか、どちらとくっつけばいいとか、思ってるわけじゃねーから」


言いにくそうに軽く咳払いする美作さんを、ゆっくりと見つめ返した。


「……心配をかけたくないために何も言えないのと、そいつの前では本音を零せる相手。どっちが大事なのかな、って」


美作さんの言う、「そいつ」がチラリと横切った。
花沢類だ。



司と花沢類。
どちらも、大切だ。


花沢類の気持ちも、本当は分かってるの。


分かってて、甘えてる。



触れられたくない、話題だった。
逃げ出したい欲求をギュッと閉じ込める。



あんなにも司を欲して、司に会いに行ったのに。
あえなくても、満足してる自分は
きっと、花沢類に会えたから。
あたしは自分に優しくしてくれる人なら、誰でもいいのだろうか。


黙っていると、美作さんのほうが困ったように謝罪する。


「悪い。おまえを困らせるつもりじゃねーんだ。俺だって、人に自慢できる恋愛してきたわけでもねーし」


この人は、なんて優しいのだろう。
後ろめたいことばかり考えてるのは、あたしの方なのに。
お金持ちは無駄に余裕がある分、人に優しく出来るのだろうか。

なんてイヤミなことまで思ってしまう。


「今まで、ちっとももてた事なんてなかったのに……」


ボソリと呟いた声に、美作さんは優しく肩を抱いてくれる。


「おまえの魅力は、ある程度つきあわねーとわからねーからなぁ」



褒められてるのか。
けなされてるのか。



「ゆっくり考えろよ。おまえが一番幸せになれるのを一番に考えろ」


「振られたほうの面倒は、俺に任せていいから」と笑う美作さんに、なんだか涙が零れてきた。



「恋愛レベル底辺のおまえに、なんでTOPレベルの男二人が惚れちゃうかねぇ。まぁ、あの2人も中身的にはおまえと同レベルだけどな」


その通りなので、だまって俯いた。
恋愛レベルが底辺だって、好きになる感情を止めることはできない。
むしろ、底辺だからこそ感情のままに動くことに躊躇する。


「俺とか、総二郎にしとけば?楽だぜ?司と類、どっちも選ばなくていいからな」


意地悪そうな顔で笑う美作さんに、あたしもつられて笑ってしまった。
司や花沢類以上に……
美作さんや西門さんは…手ごわそうだ、と。




今のあたしには、司も花沢類も。
そして、美作さんも…みんなそれぞれ大事で。
誰かを選ぶなんて、おこがましい気すらしてくる。


けれど、いつかはそんな日が来るのだ。
この人のそばにいたいと、節に願う日が。
今日以上に。



ちゃんと自分の言葉で。
伝えたいことを伝えきれる言葉が見つかるまで、もう少しこのままでいてもいいだろうか。



目上にある美作さんの顔を見上げると、あたしの視線に気づいた美作さんが優しく微笑んでくれて。



こんな優しい人がいるのなら――――
あんなだだっぴろい無駄な会議室も、悪くないのかもしれない。
そんなことを思った。


おしまい



2006、11、8     momota



あまりにも更新なさすぎ、ヤバイデショ!!ってことで
昔に書いたやつを引っ張り出して、ちょっといじってUPです。

しかし、どーしても総二郎を出すことができなかった。
しかもこれ、一体どういったジャンルの話だ?的で。
自分でも悩むほどです。

「司ラブ」を貫くのか。
「花沢類すき…」になるのか。
(……オヤ?あきらは?)

私次第!!←特権。

ニヒヒヒーーーー。






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