つくし Scene1
「まーきのっ。明日楽しみにしてっから」
「あ!俺も俺も!」
じゃれるようにやってきた、西門さんと美作さんがあたしの前で立ち止まった。
「明日?明日って、なによ」
………。
なにこのドン引き具合。
明らかに引いてる雰囲気を消すように、わざと明るめの声で聞いてみる。
「あは。な、なんかあったっけ?」
「あは、じゃねーよ!こいつ、ほんとに女か?」
「おまえ、周りを見てみろよ……。ピンク色真っ盛りじゃねーかよ!」
散々二人に責められるけど、まったくもって話の通じてないあたしには
チンプンカンプン。
一方的に責められてて、だんだん腹も立ってくる。
「女じゃなくて結構です。あんたたちに女に見られても、ちっとも嬉しくないわ!」
ふん、と捨て台詞を残すとお弁当の蓋をパチンと閉めた。
そう。あたしは、唯一ホッとできる時間、お昼休みだったのだ。
ぐびぐびとウーロン茶を半分ほど飲み干すと
ナフキンをキレイにたたんで、お弁当箱の上に置いた。
わざとらしく頭を横に振りながら、横に腰を下ろした西門さんはあたしの肩に手を置く。
「いいか、牧野。男は司だけじゃねーんだ。もっと、周りをよく見ろよ。イイオトコがいっぱいいるだろ?」
「は?」
「そうそう、おまえは男に関しちゃ環境に恵まれすぎてんのがネックだよな」
美作さんまで、あたしの目の前に腰を下ろす。
真横に西門さん。目の前に美作さん。
まるで、「な?」って言われてるように、グイ、と肩に置かれた西門さんの手に力が篭る。
慌てて、腕を振り払おうと思ったけど。
意外に強く抱かれていて、ちょっぴり驚いた。
特になんの感情も抱いてない二人だけど。
ここまで整った顔を近づけられると、なんだか緊張してくる。
「だ、だから、なんなのよっ」
あたふたとしてるあたしが面白いのだろうか、二人はわざとらしい笑顔を零した。
「明日、ちゃんとくれる、っていうなら教えてやる」
「だからっ、何をあげるのよ。わからないんだもん、あげれないよ」
「約束したら、教えてやるって」
あぁ、瞳がキラキラしてる。
これにやられる女の子も多いんだろう、なんて思いながらも吸い込まれそうな二人の瞳に心臓がバクバク。
「ね?」
「ね?」
そのキラキラさわやか笑顔が2つ、どんどん近づいてきて。
なんなのよ。
なんであたし、こんなとこで襲われそうなのよ。
珍しく暖かい非常階段は、逃げるにも場所がない。
じりじりと追い詰められながら、ゴクリと喉がなる。
「ほら、うんって言っちゃえよ」
「な?つくしちゃーん」
ああぁ、ダメだ。
「う、う……」
「まーきの!なにしてんの?」
美作さんの背後から、突然かぶさった黒い影に思い切り腕を掴み上げられた。
そのまま引っ張り上げられたため、西門さんのアゴに思い切りあたしの肩が当たってしまったり。
美作さんに、ウーロン茶を零してしまったり。
つめてー!とか。
いてーー!とか、声が響く中、あたしは突然現れた花沢類に腕を引かれ、非常階段を下ろされている。
「ったく、油断も隙もない」
「え?」
「なんでもない。久しぶりだね」
にっこりと微笑まれたあたしも、微笑み返す。
「うん、久しぶり」
あぁ、この人は大丈夫だ、と思う。
惑わされる容姿は持っているけども、惑わそうという意思を感じない。
もちろんドキドキはするけど。
「ね?花沢類。明日、何の日か知ってる?」
ずっと気になってた。
「明日?しらなーい。あの二人、なんか言ってたの?」
「明日、なんかくれ、って」
「ふぅん」
花沢類も、知らないのか。
じゃ、たいしたことないのかも。
誰か誕生日だった?
うんうんと考えるけど、やっぱりわからなくて。
そのうち、携帯のアラームがぴりぴりと鳴り出した。
「あ。5時限目、始まっちゃう」
あたしは携帯を閉じると、花沢類に向き直った。
「ありがと。なんかワケわかんなかったけど…助かったよ」
「イエイエ。どーいたしまして」
ペコリと、花沢類が頭を下げる。
「今度、なんかお礼するよ。花沢類ケーキ好きでしょ?ご馳走するよ」
手を振りながら、急いで言いたいことだけ告げてみる。
あたしの頭の中は、5時限目のことでいっぱいだったし。
「……あ!じゃぁケーキより…明日、チョコレート食べたい」
振り向きざまに、花沢類の笑顔が飛び込んでくる。
「ここんとこ忙しくてさ…。疲れてたから、なんか甘いもん食べたいなーって」
いかにも凝ってるように、花沢類は首を左右に動かした。
「う…ん。チョコレートでいいの?」
「ん、それで充分。そんなたいしたことしてないし」
「わかった。じゃ、明日チョコレートね」
あたしは忘れないように何度か口の中で『チョコレート』と繰り返すと
校舎へと向かうべく花沢類に背中を向けた。
チラチラと何度か振り返ってみるけど。
いつまでも手を振ってくれる、花沢類。
それがなんだかとっても嬉しそうで。
「お姫様、奪還」
なんて、呟いてたことなんてちっとも知らなかった。
おしまい
2006.2.8 momota
こんなに鈍感な人、いるわけない。
と思いつつ、黒い類降臨(笑)
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