司 Scene4
「だからさー、悪かったって」
しょんぼりとして見せてる、司。
思いっきり睨みつけてやると、申し訳なさそうに口角を下げるけど。
ほんとに、心からそー思ってんの?
と、言うのも。
これで5回目のドタキャン。
忙しいのもわかる。
司じゃなきゃ、だめなのもわかる。
だったら、約束しないでよ、って話。
「『悪かった』っていつもそう言うけどさ。だったら、中途半端な約束すんな、って話よね?」
無理やり笑ってみたけど。
司が引きつってたところをみると、上手く笑えてなかったんだろう。
「しょうがねーだろうよ。こっちだって約束破るために、おまえとの時間作ってるわけじゃねーよ」
明らかに、むっとしてる。
悪いけど、あたしはもっと怒ってる。
けど。
今までとちょっと違うのは、ここで司が怒りを爆発させないところだ。
「な、つくしちゃーん。機嫌直してくれよ。昨日のデートの変わりに今日、3時間空けてもらったんだぜ」
なにが「空けてもらった」よ。
さすがに5回目はヤバイと思って、無理無理明けさせたんじゃないの?
イラつきは、かわいくないあたしまで呼び出した。
「あぁ、そう。約束しないほうが、時間取れるんじゃない?」
なんて、イヤミまで言ってみた。
「つくしちゃーーん。あと、2時間半しかねーよ」
何をそんなに時間を気にしてるのか。
不審な顔をしたあたしに気づいた司は、さっきとはまったく違く、口角を上げた。
「ベットいかね?」
「いかない」
即答。
なんなんだ、コイツは。
「あたしに触ったら、右パンチだからね」
思わず口から出た言葉。
「……触らなかったら、いいのかよ」
意外な答えに、あたしは何か間違ったかと、ドキドキしながら頷いた。
「う…ん。触らなかったら……」
触らないで、なにか出来るわけでもなし。
あたしは自分の言った言葉を、一語一句思い出しながら答える。
途端、ぐぐぐと目の前に司の顔が迫ってきた。
思わず、後ずさり。
それでも、ぐいぐいと司の顔が迫る。
「ちょ、ちょっと!なにすんのよ!」
「何にもしてねーだろ?おまえが言ったんだぜ。触るなって」
何を企んでいるのだろうか。
あたしは、にやにや笑いの司から少しづつ離れようとするのだけど。
その分、司もジリジリと迫ってくる。
そのうち、あたしの背中が壁にガツンとぶつかった。
ヤバイ。
って、あたしのほうが優勢なはずだ。
だって、司はあたしに「触れない」んだもの。
何度もそれを言い聞かせるんだけど。
どうも心臓が収まってくれない。
そのうち、あたしの左側に司の右手が置かれる。
びくりとして、右側に避けようとした瞬間、そちら側にも司の左手が伸びて。
すっかりと、司の中に閉じ込められてしまった。
おずおずと見上げたあたしは、司の満足そうな笑顔を見る羽目に。
「……触ってねーだろ?」
勝ち誇った顔は、いつ見ても憎たらしい。
それでも、高鳴る心臓。
ふと、司の影が徐々に近づいてくるのに気づいた。
驚いて顔を上げると、ゆっくりと近づく司の口唇。
ちょ、ちょちょちょっとーーーー!!
ぎゅっと目を瞑る。
ドキドキと、音を立ててる心臓はきっと司にも聞こえてる。
ここまでして、やりたいのか!この男は!
でも。
いつまでたっても、何も触れない。
あたしは恐る恐るまぶたをあげると、睫が触れ合うくらい近くに、司がいた。
「触って、ねーぞ?」
なんなのだろう。
こんな意地悪をして、楽しいの?
意地悪を仕掛けたのは、あたしのほうだけども。
それでも、それは約束を破ったお仕置きのつもり。
ベットに行こうなんて言わなければ、あたしだってあんなこと言わなかった。
結局、やりたいだけじゃないか。
そう思ったら、なんだか悲しくなってきた。
今までの怒りや緊張、5回のドタキャンや、2週間ぶりの司の笑顔。
なにもかもが混じってきて。
ぼろぼろと涙が零れた。
「な、おまっ。何泣いてんだよ!」
驚いた顔で、司が慌てた。
「だって。……司が意地悪する」
まるで、子供のいいわけだ。
「意地悪じゃねーよ。おまえが触るなとか言うからだろ?」
あたしの涙を拭おうとしてか、頬に伸ばした指先を司はハッとして引っ込めた。
伺うように、あたしの顔を覗き込む。
「……いいよ」
あたしがポツリと呟くと、ゆっくりと頬の涙を拭ってくれた。
「……ったく、へんな条件だすなよ。抱きしめるのさえ、一苦労だ」
ふわりと司の胸に包まるた。
やっぱり暖かい司の胸。
抱かれたくないわけじゃないよ。
抱かれるだけ、になりたくないだけ。
その辺、わかってるのかなぁ。
優しく触れる司の腕に、あたしもゆっくりと司の背に腕を回す。
それに気づいた司がギュッとあたしの背中にある腕に力を込めた。
髪、こめかみ、瞼、頬、口唇と優しく触れてく司の口唇。
鎖骨まで降りたところで
「……今日はやらないよ」
最後の意地悪。
5回のドタキャンを反省しなさい。
「別にいいぜ。あと30分で、してほしくさせるから」
自信満々の笑顔。
ほんとに、なんなんだろうコイツは。
「さぁて、お許しも出たことだし。本気出していきますかね?」
怪しげに微笑む司に、すっかりと忘れていた心臓の高鳴り。
……やっぱり、触れるのを許可しなければよかったと後悔するのは
司の言った通り、30分後だった。
おしまい
2006,1,1 momota
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