総二郎 Scene1
カラリと向かいの席でグラスが鳴った。
・・・・・・グラスが鳴ったなんて、ヘンか。
氷が解けただけの音なのだけど。
俺には、グラスが鳴ったように聞こえたんだ。
今までどうにか誤魔化してきたのに。
真実を知ってしまった俺の中の何かが鳴ったみたいに。
「西門くん、いつもそうだよね」
グラスに付いてた口紅の跡から視線を上げる。
「今は何人の女の子と寝てるの?」
真っ赤な唇から発せられる言葉は、チクリチクリと毒を含むもので。
まぁ、俺も毒を含まれた言葉を吐かれることをやってんだけどさ。
「んー、数えんのめんどいからいちいち数えてないけど?」
にっこりと微笑むと、目の前のモカに口をつけた。
「・・・・・・サイテー」
涙ぐむ女を前に「あれ?コイツってこんな女だったけ?」なんて思ってしまう俺は相当鬼だろうか。
「俺、気づいちゃったんだよ」
自分に向けた言葉だったけど、つい口に出してたみたい。
目の前の女が、わざとらしく涙を拭うと「なに?」というように視線を上げた。
「・・・・・・あんた達みたいな女が泣いても、なんとも思わない」
意味がわからないというように女は首をかしげる。
「けど・・・あいつが泣いてると・・・どんなことをしてでも涙を止めて・・・笑って欲しいって思うんだ」
そう。牧野の泣き顔は見たくない。
こっちまで泣きたくなってくる。
どうしていいか・・・・・・分からなくなるんだ。
牧野は、笑ってるだけでいいんだ。
笑ってるだけで、俺が幸せなんだ。
・ ・
「あ、あいつって誰?」
引きつりながら問う目の前の女は、何を期待してるのだろうか。
グラスにベッタリと付く紅がやけに毒々しく見える。
「ん?アンタみたいにスグに寝たりしない女」
パシッ、と頬に熱さを感じる。
「アタシが寝てやってたのよ。カン違いしないで」
さっきまで涙ぐんでた女か?と思うくらいな捨てゼリフ。
軽いミュールの音を響かせながら、カフェのドアを思い切り押し開ける後姿。
ばいばーい。
ガラス越しに、ヒラヒラと手を振る。
まだ半分以上残ってる、目の前のグラス。
カラリカラリと鳴るグラス。
牧野がよくオーダーしている、アールグレイのアイスティー。
あの女がこれを頼んだのは、まったくの偶然だけど。
ここに牧野がいる錯覚を起す。
けれど、それはグラスに付く紅で現実に戻されるんだ。
カラリとグラスが鳴る。
そのたびに甘い痛みが増してきて。
一気に目の前の温くなったモカを飲み干すと立ち上がった。
さて、この心の隙間を今夜は誰に埋めてもらいましょうか。
おしまい
2003.7.20 momota
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