滋 Scene1
ただ、前みたいにみんなでくだらない話で笑いあいたかっただけなのに。
なんでそんなに怒るのよ。
前にもこんなことあったなぁ、なんて考える。
ザクザクと大股で前を歩く、デカイ背中。
くるくるした天パの髪の毛。
モデルのように、長い手足。
すれ違う女の子はみんな振り返る。
それがたとえ眉間にしわ寄せた顔をしてる男でも、ね。
「司ー。あたし、ヒール履いてるんだけど」
「・・・・・・しらねーよ。んなの」
ほんとに、歩くスピード落とさないよあの男・・・・・・。
ワザと聞こえるようにため息をつきながら、相変わらずズンズンと歩き続ける司の背中を追う。
他人を寄せ付けないままの背中。
全てを否定してるみたい。
つくしや類くんのこと。
さっきのあたしの言葉。
あたしの存在。
そして、司自身の存在も・・・・・・
そう思うと余計に気になっちゃうのがあたしの性格で・・・・・・
「つーかーさーくーん。司ぼっちゃーーん」
大きな声で、呼びかけるもまったく無視。
人とぶつかるたびに舌打ちしながら、どこに向って歩いてるのか・・・・・・
だんだん、踵と踝の辺りが擦れてちりちりとした痛みが走る。
うーっ。ちょっと痛いかも。
やっぱり、ヒールのある靴で走るもんじゃない。
それでも、あたしは司を追わないわけにはいかなくて。
あたしの一言で傷つけてしまった、彼をほっとくわけにはいかなくて。
「ごめん」
何度言ったか分からない言葉。
「何がだよ」
聞こえてるんなら、言い訳くらい落ち着いたとこで言わせてよ。
「・・・・・・ここのくそまずいコーヒーでも飲んでみない?」
あたしは、息を弾ませながら真横にあるファーストフード店を指差した。
■■■■■
平日の昼間のせいか、お店のなかはガラガラで。
ぶすったれたイイ男と、息が上がりっぱなしのイイ女。(でしょ?)
店員はあたし達のことどんな風にみえるんだろう、なんて思いながらホットコーヒーを注文。
ただ暖められてただけのコーヒーを受け取ると窓際の、一番陽の当たる場所に腰を下ろした。
「あらためて。・・・・・・さっきはごめん。あたし、司のこと傷つけたよね・・・・・・」
ペコリと頭を下げたあたしを、司は見もしない。
つまらなそうに、肘を付き窓の外を眺めてるだけ。
「謝る必要なんてねーだろ?俺は傷ついてなんてねーんだから」
・・・・・・だったらなんでそんな顔してるの?
なんで、そんな泣きそうな顔してるのよ。
喉元までせり上がってきた言葉をぐっと飲み込む。
「・・・・・・あたしは司のこと、傷つけた、って思ったから謝ってるの」
「しつけーな。俺は傷ついてなんかねーって言ってんだろ?あいつらのことなんかもうとっくに吹っ切ってんだよ」
フン、とガラスを一枚隔てた通りを眺める横顔。
寒そうに、首をすくめながら歩く人たちはみんな何かに急いでいて。
そんな人たちを、目で追うだけの司の横顔。
「・・・・・・じゃぁさ、つくしや類くんたちと・・・・・・遊べるよね?」
ほんの1時間前と同じ言葉。
司は通りを眺めてた視線を、ゆっくりとあたしに移した。
吹っ切ったんでしょ?
傷ついてなんてないんでしょ?
「・・・・・・それはダメだ」
「なんで?だって、もう吹っ切れてるんでしょ?」
「・・・・・・吹っ切れてる」
「・・・・・・嘘だ。ちっとも吹っ切れてないじゃん。吹っ切れてんなら、会えるはずでしょ?」
司の視線が刺さるようだ。それでも、あたしは感情にまかせたままの言葉を止められない。
「司、傷ついたままじゃんっ。あの2人はちゃんともう前に進んでるよ。
傷も、痛みもちゃんと受け入れて、2人で進んでる。司だけだよ。止まってるの。動けないでいるの、司だけだよっ」
お願いだから、一人だと思わないで。
つくしの傍に、類くんがいたように。
あなたの傍にもあたしがいる。
司が進んでくれないと、あたしも進めないよ。
興奮した感情はなかなか収まりがつかなくて。
いくらでも溢れてくる、涙を袖口で拭う。
けど、いくら拭っても拭っても溢れてくるものを止めることが出来ないであたしはもう、拭うのをやめた。
お店の人が、遠慮がちに隣を通り過ぎたのを合図に司のため息が零れた。
「・・・・・・ほら、鼻水・・・ふけよ」
司が差し出した手には、薄いグレーのハンカチ。
あたしはソレを奪い取ると、思いっきり鼻をかんでやった。
「豪快だな」
「だって、司が鼻水ふけっていったんじゃん」
ずずずと鼻をすする。
そんなあたしを、司は少し困ったように笑った。
「本当に、もう、俺の中で整理がついてんだ・・・あいつらのことは」
「じゃ、なんで・・・・・・」
「・・・・・・牧野や類が・・・気ーつかうだろ?それに、俺とあいつらの間に入る滋は、もっと気を使う・・・・・・」
ハイ?
あたし・・・ですか?
思わず椅子からずり落ちそうになった。
いつからそんなに、人のこと気にするヤツになったの?
いつからそんなに、周りが見えるようになったの?
いつからそんなに・・・・優しくなったの?
止まっていた涙も、再び落ち始める。
さらさら、さらさら。
流れるように、落ちる涙。
今までつくしがうらやましくてしょうがなかった。
つくしになりたくてしょうがなかった。
なんでも手に入れてたあたしが唯一心から願ったもの。
────司の隣。
もしかして、もう少しがんばれば届くのかなぁ。
■■■■■
「ぷぷっ。そういえば司、ハンカチなんて持ってたんだね。なんかキャラじゃなーい」
あたしはポケットに入れた司のハンカチを握り締めながら、隣を歩く司を見上げた。
「・・・・・・お前、いっつもなんか食ってて口の回り汚してんだろーが」
そう言って、笑った司。
好きな人の日常に、自分の存在が組み込まれるってなんて幸せなんだろう。
心から
そう
思った。
おしまい
2005,1,12 momota
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