SKY GARDEN
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類   Scene13








「……壊れた」


夜中の1時の電話は、しょんぼりした声だった。





「…壊れたって…なにが」


誰?とも、類?とも確認しなかった。
だって、こんな時間にかけてくる人は一人しかいないから。

重い腕を上げ、ゴシゴシと目元を擦ってから、時計を確認した。
ぼやけて、よく見えない。
パチパチと何度か瞬きをすると、やっと焦点が合ってきた。
目の前の、目覚まし時計は1のところを指していて。
あたしは、しょうがなくベットに起き上がった。



「……テレビ」
「は?」
「テレビが壊れた。牧野、直してよ」



自分の耳を、疑いたくなった。
なぜ、夜中の1時に類のテレビを直さないといけないのだろう。
なぜ、この人はいつも突拍子もないことを言い出すのだろう。
なぜ、この人はあたしが寝てるとは思わないのだろう。



聞きたい事はいっぱいあるのだけど、まずは肝心なことを聞いてみよう。



「なんであたしが、類のテレビを直せるのよ」
「だって、この間牧野の部屋のテレビが写らなくなって、バンバンって叩いてたじゃん」



頭を抱えたくなった。



「いくら俺が叩いても、治らないんだもん。牧野がやってくれたら、直る気がする」



ちょっと待て。



「今から、車行かせるから」



はい?



あたしは慌てて、電話を切ろうとする類を呼び止めた。



「ちょ、ちょっと待ってよ。今何時だと思ってるのよ。類のおうち、テレビいっぱいあるでしょ?ほかの部屋でみなよ」
「やだよ。寒いもん。俺、自分のベットでシーツに包まってテレビ見たいの」



なんなんだ、このワガママ王子様は。
明らかに、口を尖らせてるのがわかるしゃべり方だ。



「……いいよ、もし仮にあたしが類のテレビを叩いたとしよう。もしだよ、もしの話」
「ん」



「もし」の部分を、強調したつもりなんだけど。
類には、まったく届いてないだろう。
軽く前髪でもいじりながらの、「ん」に聞こえる。



「あたしが叩いても、直らなかったら……?」
「んー、でも牧野この間、直せてたじゃん」
「だーかーらー。この間は、たまたまだよっ!しかも、うちのはコツがわかってるから出来るの!類んちの高そうなテレビなんか恐ろしくて叩けないよ!」
「えー。でも直るかもしれないでしょ?とりあえず来てよ。ね?じゃ」



……この人、普通じゃない。
わかってたことだけど…あたしの都合なんて、お構いなしなんだ。



あたしは仕方なく、もぞもぞとパジャマにパーカーを羽織る。



さすがにむかついたので、この格好で行ってやる。
んで、寝てたことを思いっきりアピールしてやる。



それでも、髪くらいは櫛を入れたほうがいい?
髪を洗ったまま、くるりとひとつにまとめただけだ。
メイクは?ファンデーションくらい、塗ったほうがいい?リップくらい塗る?



って、んもーーーー!



それじゃ、寝てたことをアピールできない!



ここは、ぐっと我慢してスッピン、パジャマで行くことにした。



■■■■■



思いっきり、むっつりとして類の部屋のドアをあけた。
んだけど……



「あ!きた」



ベットの上で嬉しそうに微笑んだ類をみて、こちらも思わず微笑み返しそうになる。



……いけない、いけない。



コホンと咳払いをし、自分を戒めながら、無言でなにも写ってないテレビへと近寄った。



恐る恐る、トンっと突っついてみるけど。
やっぱり、電源は入らない。



類に視線を送ると、ね?という表情で、頷かれる。



あたしは覚悟を決めて、思いっきり叩いた。
けど、やっぱり電源は入らない。
そもそも、こんな薄型テレビ、どこを叩いていいのかわからないのだけど。



ふと、壁際に視線を落とすと……
今にも外れそうな、コンセント。



のそのそと、あたしは屈んでコンセントを入れなおす。



瞬間、室内に無機質な声が鳴り響いた。



……。
なんなんだよ。



「すげー!牧野!直ったじゃん」



嬉しそうに、何度もパチパチとリモコンのチャンネルを押しまくる類に怒りがめらめらと燃え上がってきた。
この人は、ベットから一歩も降りなかったのだろうか?
ただリモコンを押してみただけで、壊れたと思ったのだろうか?



「……コンセントくらいみてよ」
「なに?」
「…類がテレビをみたいだけのために寝ていたところを起こされ。車で運ばれ……結局は、コンセントを入れに着ただけじゃないのよっ!あたしは便利屋かっ!!!」



なんでこんなに怒ってるのか、わかってない類。
きょんとした顔をしてる。



ああぁ、なんであたしはこんなに怒ってるんだろう。
夜中に起こされたから?
わざわざ、類のおうちにこさせられたから?



違う。



久しぶりに類に会うのに。
類が、ちっともそんな素振りを見せないからだ。



こんなことでも、呼び出されて。
類に会えて、嬉しいと思う自分が悔しいの。



「じゃ、帰るから。車、いいよ。タクシーで帰る」



ぐし、とパーカーの袖口で、頬を拭う。
こんなことで泣いてバカみたい。
泣いてることに、気づかれるのもイヤだ。



わざと視線が合わないように、俯いた。



「怒ってるの?」
「……」


怒ってるけど…。類の顔を見れないのは自分が情けない所為だから、ほっといてくれていいよ。
あたしは無言のまま、ドアに向かって歩き始める。


「……ごめん。ほんとは、俺がコンセント抜いたの」
「ハ?」
「牧野に、会いたかったから」



……。
この人は、ほんと突然なことばかりだ。
思わず避けていた視線を合わせ、数m先の類と見つめあったまま次の言葉を待ってしまった。



「珍しく仕事終わったのが早くて……って言っても、12時過ぎてたけど。部屋に一人でいたら、あんたのことばかり思い出すんだもん」



「普通に呼び出しても、絶対きてくんないと思った」と、そっぽを向きながら告げられた声はとても小さかった。
けれど、その声の小ささが…やけにリアルで。
形ばかりの怒りは、すっかりとどこかへいってしまい
その変わりに愛しさがむくむくと湧き上がる。



どんな顔して、コンセントを抜いたんだろう。
どんな思いで、ウソの電話をよこしたんだろう。
滅多に見せない照れたような、類の横顔を想像したら…
たまらなくなってしまった。



「バカ。普通に、会いたいって言えばいいでしょう?」



そうしたら、もっとおしゃれして。
パジャマなんかじゃなく、ちゃんとデート用の服を着て。
夜中だけど、メイクもしっかりして。
数週間ぶりの類の笑顔を見るのを楽しみに来たのに。



「今日、泊まってても…イイ?」



あぁ、きっと顔が真っ赤だ。
嬉しそうな顔が、ばれてないだろうか。



「…ベットひとつしかないけど?」



類の上目遣いの目が、やけに子供っぽく見える。



「……そんなの知ってる」
「じゃ、久しぶりにベッ……



あたしは慌てて、類の口元を両手でふさいだ。
だって、絶対ベットへの誘い文句だと思ったから。
明日は早起きだけど…誘われると断れない気がするんだもん。



類はモゴモゴしながら、優しくあたしの指を解いた。



「なんだよ。『久しぶりに、ベットで一緒にテレビが見れる』って言おうとしたのに」



キラリと類の瞳に宿った、意地悪な笑み。



「なに言われると思ってたの?」



久しぶりに類の意地悪攻撃にあうが、なにぶん久しぶりすぎて抗体が出来てない。
慣れてる時なら上手くかわせるんだけど…今日はこちらが不利だ。
このまま真っ直ぐ見詰め合ってたら、あっさりとやられる。
じりじりと攻め寄る類に、あたしはツンとそっぽを向いてしらんふりした。



「ベット…誘われると思った?」
「……っ!」



真っ直ぐな正解に、あたしはそっぽを向いてたにも関わらず言葉に詰まる。
いかんいかん、ここで反応したら類の思うツボだ。
絶対、これワザとだもん。



「……大丈夫だよ。これからベットにも誘うと思うけど1回だけだから」

「……!!!」



ふんふん、と聞き流していたのに。
最後の最後で、反応してしまった自分が情けない。





おしまい。





2006,1,16     momota






ぽん太しゃんの、リク第二弾。
お題「テレビ」です。
……遅くなってごめんよー(T▽T)

ほら、ね?やっぱりうちのルイルイは、1回じゃ気がすまな……(ゲフンゲフン)
若いって、スバラシイ…(爆)





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