類 Scene1
いつもいつも傍にいたんだ。
名前を呼べばすぐに返ってきたし
常に体の一部は触れていた。
それは
手だったり
脚だったり
髪だったり
額だったり
口唇だったり。
だからこんな時は、どうしていいか分からなくなる。
何もない無音の部屋。
今まではそれでよかった。
むしろ、その方がよかったんだ。
けど。
俺はTVのリモコンに手を伸ばすと、スイッチを入れる。
そしてそのままベットの上でゴロリと半回転。
うつぶせのまま頬杖をつく。
自然に目に写る、彼女の背中。
けれど、どうすることもできなくて。
TVをつけたのは、いつも騒々しい彼女の代わり。
ふわりと窓から流れ込む風が薄いカーテンを揺らす。
それと同時に、誕生日に買ったイスに座る彼女の髪も揺らした。
ハラハラと元いた場所に戻る漆黒の髪。
それを見た瞬間。
ドキリと鳴る心臓。
どうしていいのか、分からないけど。
分からないけど。
心の奥で溢れる欲求。
触れたい。
いつものように。
───彼女に触れたい。
俺は思わず、口を開く。
「ごめん」
明らかにその一言を期待していたであろう彼女はゆっくりと振り返る。
瞳に涙をためながら。
今にもこぼれ落ちそうな涙を、グッと抑える音が聞こえそうだ。
「・・・・・・あたしも、ゴメン」
それだけ言うと、再び背中を向ける彼女。
俺は初めて、彼女のテリトリーであるイスに近付く。
さっき些細なことで口げんかをしてから、彼女も俺のベットに近付かなかったように
俺も彼女のイスには近付かなかった。
けど、恋愛とゆうのは時にはコチラが折れる事も必要なようだ。
ゆっくりと、俺から歩みよる。
後ろからそっと彼女の肩に触れる。
肩から腕へ
腕から指へと俺の指を移すと、そっと彼女の手を引いた。
ゆっくりと立ち上がった彼女からは、いつもの香水の香り。
彼女を立たせた代わりに、俺がイスに腰をおろすと
ゆっくりと自分の膝に彼女を誘う。
「重いからヤダ」とごねる彼女をあやしつつ、そっと抱きしめた。
ホワリとした温もりの安心感。
それだけで、落ち着く感情。
再び風が吹き込む。
ゆっくりと彼女の髪が頬を撫でてゆく。
俺は彼女の首筋に鼻先を埋めた。
「ひゃ」と声を上げた彼女。
苦笑しながら抱きしめる腕に力をこめる。
「類?・・・・・・初めてのケンカだね」
ちょっと気まずそうに俯く彼女の首筋に昨夜の熱の名残を見つけて
頬が緩んだ。
「たまには、いいでしょ」
「・・・そだね。類の「ゴメン」なんて滅多に聞けない」
くくくく、と笑いを堪える牧野に
触れ合える喜びを隠しながら
もう、牧野なしではダメなんだ、なんてことを実感した初ゲンカの午後。
おしまい
2004,6 momota
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