暑さもだいぶ和らいできて。
日中に日焼けの心配もしないでよくなってきた、なんてこと考えながら牧野を待つ。
牧野との久しぶりのデート。
実際牧野とゆっくり会えるのは、1ヶ月ぶりくらいで。
こちらとしては毎日逢いたい気持ちを抑えながらの30日。
どんなにこの日を楽しみにしていたか。
それなのに、牧野の横には・・・・・・
なぜか和也がいた。
バレバレな口実
「それ、なに?」
あらかさまに不機嫌さをかもし出しながら、その不機嫌の原因を指差す。
「な、なんだよっ、花沢類だけのつくしちゃんじゃないんだからねっ」
牧野の後ろに隠れ、ホンの少しだけ見える司ほどではない天パの柔らかそうな髪と、幼さの残る黒い瞳。
怯えた様子を隠しもしない和也は、守ってもらうことに慣れてる証拠だろうか。
牧野は、ため息を零しながら自分の後ろに引っ込んでいる和也を引っ張り出した。
「・・・・・・どうしても一緒に行くって・・・・・ごめん、ちょっとだけお茶でもしてやって」
疲れたように囁く牧野に、文句の一つでも言ってやろうと思ってた気持ちがしゅるりとしぼんでしまった。
おそらくここまで来る間にいろいろ攻防があったんだろう。
うんざり気に見つめた丸い瞳は、怯えながらも奥のほうで何かを訴えかけてきて。
以前にも、こんな和也を見たことがある。と記憶の波を探る。
司たちとやりあった3on3。
牧野を守るために、一生懸命だった和也。
いつもの様子と違い、やつとは一番かけ離れた男らしさなんつーのを垣間見た気がして
ちょっと意外に感じたことを、思い出した。
なんかあるのか…?
不意に感じた、不自然さ。
だけど、相変わらず牧野の後ろで恨めしげに俺を見つめる瞳に、そんなことはすっかりと抜け落ちてしまった。
なんだかんだと言った所で、きっとコイツはどこまでもついてくるだろう。
だったら、さっさと言う通りにして早く牧野と二人きりになりたい。
忙しすぎる日々の中で、唯一時間を気にせずに過ごせるのが牧野の傍だけなのだから。
覚悟を決めると、ちくりと刺さる視線。
牧野に引っ張り出されながらも、それでも牧野の腕にしがみついてこちらを睨んでいる和也。
自然と、牧野と和也が繋がっている箇所に目が行く。
・・・・・・牧野に触るなよ。
俺の視線に気づいた和也が、慌てて牧野の腕から離れた。
なんとなく、気まずい雰囲気が漂う中俺は無言で歩き出した。
その後に続くように、パタパタと牧野と和也の足音がする。
「つくしちゃん、つくしちゃん!これからどうする?どうする?」
「つくしちゃん、明日の講義は何時から入ってるの?」
「つくしちゃん、明日のランチ一緒にとろう?」
・・・うるさい。
あぁ、イライラする。
和也の口から牧野の名前が出てくるたびに喉元まで出掛かってる言葉をどうにか飲み込んで。
それでも、それはけして消えることなく、胸の辺りでモヤモヤと渦を巻いている。
そんな気持ちがこもってたのか、歩くペースがだんだん速くなってきて。
牧野の咳き込む音で我に返り、思わず後ろを振り返った。
「ケホッ。ご、ごめっ。花沢類・・・・・・もうちょっと、ゆっくり歩いて・・・・ゴホ」
赤い顔で喉を鳴らしている牧野の顔を見て、謝るべきだとは思う。
けど、なんだか素直に謝るのがくやしい。
別に牧野がいけないって思ってるわけじゃないけど。
牧野の背中を、優しげに撫でている俺とは違う腕。
それが視界に入るたびに、やっぱり和也を連れてくるべきじゃなかったと思うんだ。
確かにさっき和也が言ったとおり、牧野は俺だけのモノじゃないよ。
それは解ってる。
でも、たまにしか一緒にいれない時間。
それがどんなに大事か。
そして、それを俺はどんなに楽しみにしていたか。
牧野も解ってくれてるって思ってた。
もうちょっと和也に強く言ってもいいんじゃないの?
それとも、牧野は・・・俺ほど2人の時間を大事には思ってないの?
すうっと、瞳に冷たい光が差し込むのが自分でも解るくらいだ。
俺の変化には敏感な牧野のことだ。
きっと解ってるだろう・・・・・・・と思った瞬間不意に差し出された牧野の右手。
「どしたの?具合でも・・・悪い?」
反射的に、触れられるのを拒むかのように牧野の右手を振りはたいてしまった。
───やばっ!
驚いた顔で見上げる牧野。
そのうち、怯えた表情になると視線を逸らした。
俯き、震えるまつげの先で、涙を堪えてるのが分かる。
そんな牧野に、謝ることも出来ないで。
言い訳すらも、しないで。
・・・・・・コレじゃまるっきり子供じゃないか。
あぁ、ダメだ。
今日はこれ以上ここにいたら本気で牧野を泣かしてしまいそうだ。
そうなる前に――――
「ごめ。俺、帰るわ」
驚いて、見上げる牧野の瞳。
そしてそこに走る、悲しみの色。
それを見た瞬間、
俺は、自分で言ったはずの言葉に囚われて動けなくなってしまった。
妙な沈黙を破ったのは、和也の一言だった。
「じゃ、つくしちゃんは僕とデートだ!」
「ちょ、ちょっと和也くんっ、なに言ってんのよ」
慌てて和也に詰め寄る牧野を置いて、俺はその場を後にする。
なんなんだよ、一体。
なにがデートだ。
俺のほうが先だったじゃん。
後から邪魔してきたのは、和也のほうじゃないか。
むかつくむかつくむかつく。
足早に去ってゆきたいのは山々なのだけど、やっぱり2人が気になるわけで。
「花沢類ッ!」
嬉しいことに、俺の名前なんか呼んでくれる牧野。
けど、振り向くことも出来ずに人ごみの中に紛れ込もうとした瞬間聞こえてくる和也の声。
「僕、もらっちゃうからねっ!いいんだね?花沢類!つくしちゃんが取られてちゃっても」
ほんの少し震えてる、和也の声。
思わず振り返ると、数十メートル後ろで佇む2人。
牧野も、あんぐりと口を開けたままで。
・・・・・・口、閉じろよ。なんてことも思うのだけど和也のただ事ではないセリフに、俺はゆっくりと二人のもとへと戻る。
こんな状況なのに、牧野のホッとした表情に
胸がちくりと痛んだ。
「ぼ、僕だって、つくしちゃんが大好きなんだ!」
だから何だってんだよ。
俺だって牧野が好きだ。
「だから、僕にだって・・・・・・つくしちゃんの隣を歩く権利くらいあるよね?」
むかついてはいるものの、涙目で訴える和也にどうしていいかわからない。
「・・・・・・それは、トモダチとして?それとも・・・」
戸惑ってるのは、牧野も同じようで
困ったように和也を見上げてる。
そんな中、牧野の言葉を遮るように和也が一歩前に出た。
「もちろん、恋人としてだよっ。」
牧野の腕に寄り添う和也を睨みつけてから、反射的に反対側の腕を引っ張った。
牧野の、小さな悲鳴と共に倒れこんでくる細い体。
「これ、俺のなんだけど」
和也の口から出た「恋人」という言葉に反応してしまう。
友達としての付き合いなら、別に俺が口出すことじゃない。
そんなのは牧野の自由だから。
けど、恋人なんて。
そんなのは絶対に許さない。
牧野のことは誰にも譲る気はない。
そう、司にだって。
ほかのヤツが牧野を抱きしめたりするなんて。
ほかのヤツがいつも自分がしていることを牧野にするなんて。
想像しただけで・・・・・・
むぎゅ、と抱きしめた体から伝わる暖かさが自分の感情に合ってなくて
少し戸惑う。
けれど、すっかり慣れ親しんだ牧野の感触はほんの少しの落ち着きを呼んでくる。
胸の中は、あせりや苛立ち、突然こんなことを言い出した和也への猜疑心でいっぱいなのだけど。
抵抗することも忘れたように、俺の胸でじっとしてる牧野を見て
和也が、ほんのちょっとだけ寂しそうな顔をしたのがわかった。
「つくしちゃん・・・すごくもてるんだから。僕じゃなくても・・・狙ってるやついっぱいいるんだ。
花沢類・・・・・もっと、つくしちゃんのこと守ってあげてよ」
「どうゆうこと?それ」
意外な和也の言葉に
和也と牧野を見比べると、慌てて牧野が俺から体を離しながら作り笑いをする。
とっても似合わないそれは、余計に気になること・・・コイツはわかっているんだろうか?
ほんの少しの隙間すらも、許されないというように俺は牧野を抱く腕に力を込めた。
「ち、ちがうの。なんでもない」
「ダメだよ、つくしちゃん。こうゆうことはちゃんと言わなきゃ」
二人の会話に、なにか隠し事をされているのはわかる。
「牧野」
子供をしかるように、少しきつめの口調で牧野の名前を口にする。
俺の目を見てた牧野は、はぁ、と深いため息を零すと、お手上げ、というように顔の横で両手を広げた。
「・・・わかった。話すよ」
牧野が話すと言ったのに、実際話し始めたのは和也で。
「つくしちゃん、同じ講座の山本ってやつにしつこく言い寄られてるんだよ。
いくら僕が言ってもそいつちっとも相手にしてくれなくて。花沢類に来てもらおう、ってつくしちゃんに言ったんだけど・・・」
チラリと牧野に視線を送ると和也はモゴモゴと口をつぐんだ。
反対に、今度は牧野が諦め口調で語りだす。
「・・・・・・そんなことで、花沢類のこと呼び出したくなかったの。忙しそうだし・・・」
「でも、忙しそうなんて言ってらんないよ!この間なんて・・・」
「和也君っ!」
和也の次の言葉を遮るように牧野が怒鳴った。
牧野の慌てように、なんだかいやな予感がする。
「・・・この間なんて・・・なに?何があったのさ」
「・・・・・・つくしちゃん、襲われそうに・・・なっちゃって・・・・・・」
頭の奥がクラリとした。
牧野に誰かが触れた?
しかも、それは牧野を無理やり奪う為に?
コレは、俺だけのものなのに。
俺以外、触れることなんて許されないのに。
そう、許されない。
絶対に。
「・・・ざ・・い・・・はな・・・る・・・花沢類ッ!!」
ふと、気づくと牧野が俺の顔を覗き込んでいて。
「大丈夫?なんかすごい怖い顔してた・・・・・・」
「・・・ん、平気。で、あんた平気だったの?そいつに何もされなかった?」
不思議なことに、俺は随分落ち着いていて。
さっきまでの俺とは大違いだ。
けど、よくわかる。
落ち着いている分、染みこむように全身に広がる怒り。
「うん、和也君が大声で叫んでくれて・・・・・・それに、あたし強いし!」
確かに、普通の女よりは強いと言っても、男の本気なんて知らないだろう?
牧野が見知らぬ男に組み伏せられて、抵抗する姿を思い浮かべゾクリとした。
散々疎ましかった和也に、感謝すらしたいぐらいだ。
「ね、牧野。約束して。これからは何でも早めに言って。俺もすることあるから」
「ごめん」と、牧野が俯きながら口にする。
そして、ん?と顔を上げると「すること?」と俺に聞き返した。
「そ、すること」
「ふふっ、そうこなくっちゃ!花沢類!」
黙って聞いていた和也が、嬉しそうに俺に駆け寄る。
俺たちの会話をまるでわかってない牧野に聞こえないように、和也が囁いた。
「花沢類、好きなだけじゃ・・・守れないよ。想ってるだけじゃ・・・つくしちゃん守れないよ」
もっともな和也の言葉に、俺はゆっくりと頷く。
そうだ。
いくら好きだからって、気持ちが牧野を守ってくれるわけではない。
牧野への想いでは誰にもまけるつもりはないけど、
「ん。そうだ。想ってるだけじゃ・・・ダメなんだ」
自分自身に言い聞かせるように何度か口にする。
そんな俺を見ていた和也。
和也と視線が合うと、ゆっくりと恥ずかしげに微笑んだ。
「よかった!わかってくれて。さ、じゃ行こう」
和也が、にっこり微笑むと左手で俺。右手で牧野の腕を掴む。
「ちょ、ちょっとどこに行くの?!」
牧野が慌てた様子で聞くと和也は舌を出しながら悪びれもせず言った。
「つくしちゃんの名前使って、山本のヤツを呼び出したんだ。きっとアイツのこのこ来てるよ」
ぼけっと待ってる山本を想像したのか、和也はぷ、っと吹き出した。
「なんでそんなことするのよーー!」
反対側でぷりぷり怒ってる牧野を見ると、俺も笑いかけた。
「いいよ。丁度いい。『すること』、知りたいんだろ?」
「な、なにー?花沢類のその笑い・・・なんか怖いんですけど」
和也に連れられて、例の山本君が待つ場所へ向かった。
「あれだよ」
和也が小さな声で耳打ち。
ほんの数メートル前に、通りを気にしているごく普通の男の背中。
ヤツの心中を思うと、怒りがますます沸いてくる。
きっと、牧野のことでも考えているんだろう。
女を無理やりにでもものにしようとする、そんな卑劣な考えがそもそも許せない。
「ども。こんにちは」
後ろから、ヤツの肩をポン、と叩いた。
ほんとは、触るのすらいやだったけど。
1回はヤツに触れることになるんだ。1回も2回もたいして変わらない、と自分に言い聞かせながら爽やかな笑顔を作ってみる。
「・・・だれ?」
怪訝そうに伺うヤツに向かって、後ろにいる牧野を呼び出した。
途端に、凍りつく目の前のろくでもない男。
「・・・あ・・・・・・あ…」
「誰って・・・牧野のカレシ。この間、牧野がお世話になったみたいで────
数十cm下で赤くなったり青くなったりしている顔に向かって、グーのまま右手を突き出した。
鈍い音と、牧野の短い悲鳴。
アスファルトに膝を突いて頬を押さえているヤツの胸元を掴んで持ち上げた。
それだけでがたがたと震えてるヤツに向かって
「もう牧野に手、出さないでくれる?・・・今度は、手加減しないからね」
そう言うと、ブンブンと顔を縦に振る。
襲われた牧野の恐怖はこんなもんじゃない。
ほんとは、まだまだしたりないけど・・・
隣で口元を押さえている牧野の前で、これ以上はね。
ガグガグと膝が震えてる山本を回れ右をさせて、背中をグイ、と押した。
ヤツは弱弱しく、一歩を踏み出す。
「じゃぁね。ばいばい」
わざと、明るく言ってみた。
もちろん返事なんて帰ってくるはずもなく。
ま、返事なんてする元気があったらもう1発お見舞いしてたけどさ。
頬を掌で押さえながら、すごすごと歩き出したヤツに今度は和也が声を掛けた。
「あ!山本くん!山本くん!」
まるで忘れ物を届けるかのような和也の声。
そんな中振り返ったヤツの頬に、和也の平手がきれいに決まる。
「コレは、僕からね」
にっこりと笑う和也とは反対に呆然と立ちすくむ山本。
「ナイスファイト」
笑いを堪えながら和也に視線を送ると、照れたように微笑んだ。
その後に寄ったカフェで衝撃の事実を聞くことになる俺たち。
「は?!」
3つのグラスが並ぶテーブルが、がたりと揺れた。
「じゃぁわざと、今日じゃましてたってこと?!」
牧野が和也に詰め寄る。
俺にいたっては、なんとなく思い当たることがあったのでそんなに驚いたわけじゃなかったのだけど。
「だって・・・アレくらいお芝居しなきゃ花沢類、本気になってくれなそうだから・・・・・・。
余裕かましてると、いつかさらわれるよ、ってことでね」
ふふふ、と得意げに笑う和也を殴り飛ばしてやろうかと思った。
一体俺の、どこに余裕があるというのだろう。
牧野のことに関しては
こんなにもいっぱいいっぱいなのに。
こんなにも不安なのに。
こんなにも牧野が全てで。
こんなにも牧野を失うのが怖い。
和也に伝わってないということは、鈍感牧野にも絶対に伝わってないってことで。
コレは、今晩一晩かけて俺の想いを思い知ってもらいましょう、と牧野を見ると
やっぱり、また口をあんぐり開けていて。
「牧野、口、閉じれば?」
今度は、ちゃんと言ってみた。
そして、お芝居にしてはやけに上手すぎた和也のことを少し考えた。
おしまい。
2006,6,1 momota
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バレバレな口実。
久しぶりに和也を書いてみたけど……。もっと、なよなよさせたほうがよかったかなー?(笑)
報われない恋は恋なりに、綺麗なものだと思うのだけど。
和也はやっぱり、「つくしちゃぁ〜ん」って追いかけてるのが合ってる気がします。
実は、これキリリクで書いたお話でした。
どれかわかるかなー?(笑)おんなじセリフが出てきるので、バレバレなんだけど(爆)
ところどころ付けたしをして、こちらのお題でUPです。
よかった…日の当たるところに出れて(苦笑)
次は、何を書こうかな〜。
→text →niji top →niji odai
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