写真 tukasa ***
その日、バイト帰りに何気なく覗いた郵便受けには
長方形の小さな幸せが詰まっていた───────
道明寺がNYへ行ってから3ヶ月。
ほんのちょっとだけ、彼がいない空気、場所、雰囲気に慣れてきた。
そしてそれは想像してたよりも、だいぶ寂しかったりする。
日々の生活は、家族で過ごし始めたせいかめまぐるしく過ぎてゆくのだけど
ふとした時に感じる違和感みたいなものには未だに慣れない。
なにか足りないものがあるような。
大事なものをどこかに置いてきてしまったような。
無意識のうちにいない人の背中を探している感覚。
その「いない人」って言うのは、実は今一番逢いたい人だと気付いたときに感じる寂しさは言葉にするのが難しい。
その寂しさの中ほわっと思い浮かぶ道明寺は、バカにしたように笑っているのだけど。
瞳にはちゃんと、優しさとか、暖かさみたいのが宿っていて・・・・・・
なんだかんだ言っても、結構一緒にいたんだもんね───
なんてことを考えて、余計しんみりしてみたり。
道明寺のことを考えないように目一杯バイトの予定なんか入れてみるんだけど
それは無駄な抵抗だったようで。
昼間忙しければ忙しいほど、一人になった時間は道明寺でいっぱいになる。
しとしと飽きもせずに降り続く小雨を、カサの隙間から見上げながら思い浮かべるのはやっぱり道明寺の顔で。
カサを握っている右手は冷たくて。
暖かい道明寺の掌を思い出して、胸の奥が痛んだ。
「お月様でも見えれば、このおもっくるしい感情からも少しは浮上できるのに・・・・・・」
ため息と共に吐き出された言葉。
誰に言うわけじゃなかったけど、少しで浮上させたくて。
この沈みがちな気分の原因を、他のものに置き換えたかった。
それでも、最後は司に関することにたどり着いてしまって。
今さらながら、自分の中での道明寺がしめている割合の多さを認めざるをえなくて。
頭をブンブンと振ると、大股でバシャバシャと水溜りを踏みしめた。
アパートの前に着くと、部屋の窓を見上げる。
そこに明かりが灯っているのを確認すると、ほんの少しホッとする。
落ち込んでる気分をほんの少し浮上させてくれる、家族たち。
一緒に過ごせる幸せを感じながら、郵便受けを覗いた。
と、そこには不自然なふくらみの封筒。
・・・・・・あれ?
がさごそと取り出すと、宛名を確認。
うち宛だ・・・・・・しかも、あたし宛。
間違ってない。
けど・・・送り主の検討すらつかない。
そんなことを考えてるうちに、雨でうちの住所がにじんできた。
あたしは慌ててカサの中に封筒を納めるとアパートの階段まで駆けた。
そして、送り主を見ようとカサを閉じる。
ポタポタとカサから伝い落ちる雨を振り払うと、そのままアパートの階段をゆっくりと進む。
左手に持った封筒の送り主。
そこには、きったない字でいつもいつも頭から離れてくれない名前が書いてあった。
え?なに?
道明寺だ・・・・・・
階段の途中だったけど、あたしはカバンを置きカサを手すりに掛け慌てて封筒を開けた。
早く開けないと、道明寺がいなくなってしまう感じがして。
そんなわけないのに、道明寺のコロンの香りすらしてくる。
それだけのことが、こんなにも胸をいっぱいにさせる。
いつもならもっと丁寧に開けるのだけど。
今はそんな余裕ちっともなくて。
ビリビリと破り捨てるように開けた口から中身を一気に零した。
そこに、ぽとりと掌に落ちてきた長方形の箱。
それはインスタントカメラで。
その後に、ハラリとメモ用紙が出てきた。
『オマエが文句言ってた写真。こんなかに入ってるからそっちで現像しろよ。司』
用件のみの、短い手紙。
それだけなのに、会うことも出来ず声を聞くことも出来ない今。
道明寺を感じることが出来る今一番のもの。
あたしは、道明寺がNYに経ってから初めて声を出して泣いた。
道明寺の優しさと、そして花沢類の優しさを想って・・・・・・
『せっかく道明寺と写真撮ったのに。写ってたのは、頭だけだったんだよ』
『2ショット?』
『うん。最後の1枚だったから、それに賭けてたんだけどね』
『ふーん。残念だったね』
10日ほど前の、非常階段での花沢類との会話。
優しさが滲む瞳で見つめられて・・・あたしは慌てて話題を変えたんだっけ・・・・・・
きっと、花沢類が言ってくれたんでしょ?
自分の気づかないところで、心配してくれる人がいる。
なんて幸せなことなのだろう。
そして・・・・・・
いつも気にしてくれてる愛しい人の存在。
失くしたくない、人────
いくらでも溢れてくる涙を、あたしは拭いもせずに
ただただ、道明寺と花沢類の優しさを抱きしめた。
カメラと小さなメモを握り締めて部屋の前まで来たのだけど。
見なくても分かる瞼の腫れ。
・・・・・・だって、重いもの。
おまけに、鼻も赤いと思う。
ずずず、と鼻をすすると瞼に掌を置いてみる。
雨ですっかり冷えてる掌は、泣きすぎて浮腫んでいる場所にはちょうどいい冷たさだ。
やっぱり、熱持ってるし・・・・・・
瞼の熱が掌に移ると、今度は逆の掌を乗せてみる。
また新たに沁みこむ様に伝わる冷たさに、気持ちが良くてしばらくその感覚を楽しんだ。
そして両手が熱でほんのりと温まってしまうと、いつものようにドアノブに手を触れた。
けど・・・この扉を開けた向こうにいる家族は・・・
こんな顔のまま帰宅したあたしを、なんて思うだろう。
ただでさえ、凹みがちなあたし。そんなあたしに気遣わせ過ぎてるって言うのに。
・・・・・・少し散歩でもして、もう少し腫れが引いてから戻ろう。
どうしても、いつも暖かく迎えてくれる両親や弟に心配をかけたくなくて。
あたしはこっそりとカサをアパートのドア横に立てかけるとそのまま道明寺からの素敵なプレゼントを握り締めながら階段を下りる。
まだお月様は出ていなかったけど、雨は上がっていて。
濡れているコンクリートの上を、あの日買ったローファーで歩む。
お月様は見えなくても、浮上できた・・・・・・
そんな風に思いながら。
路地裏を曲がりながらカメラをいじってみる。
まだ、何が写っているかわからないけど。
でも、きっとこの中には
赤い顔をして、少し不貞腐れたような顔の道明寺がいるだろう。
そして、その道明寺がなんて愛しいか実感するあたしも、いるだろう。
あたしは道明寺を抱きしめるように、そっとカメラを抱きしめた。
道明寺があたしを想っていてくれる限りいくらでも強くなれる、そう思いながら。
ほんの少し、雲の隙間から姿を現しだしたお月様。
遠慮がちな月明かりの元で、何度も何度もカメラを取り出し、頬を緩めながらそれを眺める。
ふと気になってフィルム数に目をやると、1枚しか減ってなくて。
そこが道明寺らしいというか・・・何と言うか・・・・・・
けど、この後の26枚のフィルム。
それが全部埋まっても、隣に道明寺がいると確信できる。
それを『幸せ』というのかも知れない。
おしまい
2004.10.26 momota
→text →niji top →niji odai
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