おまえじゃないと…… tukasa ***
「おまえ、誰の女に声かけてんのかわかってんのかよ」
・・・・・・司の落ちついてる声が、余計に怖い。
くるりと振り返った目の前の少年は、なにが楽しいんだかニヤニヤしながら司に視線をおくる。
「あぁ?誰?あんた」
ぎゃーーーー。
「あぁ?」なんて!!
な、なんて命知らずなっ。
おもわず、ナンパをしてきた少年に同情する。
やけに愛想のいい少年は、司に振り向きざま、明らかに司を値踏みするような視線を投げ続けてる。
司のこめかみに、青筋が走ってるのがみなくても分かるわ・・・。
いつものことなのだけど、最近やけに機嫌が悪いことを思い出して
あたしは司をなだめようと、司とナンパ少年の間に入ったけど
あっさりと司に後ろに追いやられた。
あたしが青くなってるのも知らずに、そのナンパ少年はよっぽど自分に自信があるらしく司に突っかかっている。
「あれ?お兄さん、この娘の彼氏?」
ナンパ少年は相変わらずニヤニヤしながら、司の後ろに追いやられたあたしと司を交互に見る。
「なんかさー、あってないんじゃない?おたくら」
少年の一言が、あたしの鼓動を一瞬止める。
・・・・・・分かってるわよそんなこと。
ちくりと心の隅に刺さる、言葉。
どうせあたしは普通よっ。
司みたいに、気品みたいなものや人をひき付ける容姿を持っているわけでもない。
「あんたに言われる筋合いないわよ」
思わず、一歩踏み出して声を荒げたあたしをにっこりと見つめる少年。
「だから、そのおにーさんよりも俺と遊ぼうって言ってんの!」
あたしまで、顔が引きつるわ。
なんだか会話もかみ合わないし。
この少年の意図もちっともわからない。
けれど、さっきの心の隅に刺さった言葉を抜くことができずにそれ以上強気な言葉も出せなかった。
チラリと司をみるとやけに落ち着いた表情だ。
・・・こめかみの青筋もナシ。
あ、あれ?
あたしの気のせいだった?
なんて思った瞬間、いつもと変わらない調子の司の声が聞こえた。
「・・・そか、俺とコイツは合ってないのか」
「あ?解ってくれた〜?じゃ、この娘少し貸してよ。ちゃんと後で返すから」
ハイ?
あとで返す?
あたしはモノじゃないのよっ。
さすがに、あまりにも腹がたってなにか言い返そうと思った瞬間、やけに優しい司の声。
「でもな、少年。覚えとけよ。合ってても合ってなくても、好きになっちまえばそんなの関係ねーんだよ。お?なんか落ちたぞ?」
ドゴッ。
なにか落ちたぞ、と言われて思わず自分の足元を覗き込んだ少年の顔に向かって、司が膝を振り上げた。
そしてそれは見事に、少年の鼻にヒット。
うめき声をあげながらその場にうずくまる少年に向かって、司は腕を組んだまま言い放つ。
「・・・・・・ナンパもいいけどよ、相手選べよ。こいつはな、お前みたいなやつがナンパする女じゃねーんだよっ」
「司・・・・・・」
「・・・・・・なんだよ」
「やっぱり、あたしたちって合ってないのかな?」
「んだよ、あのバカに言われたこと気にしてんのか?」
「だ、だって・・・・・・」
たしかに自分でも思う。
司と並んで歩いていると、周りの視線が司に集まって。
そのあと、必ず自分に注がれる。
司の横にいるのが、まるっきり普通なあたしに対しての中傷やら同情やら。
「なんであんな普通の子なの?」
「全然似合わない」
「彼氏も選び放題だろうに・・・」
あらかさまに口に出されることもあれば、かすかな表情でも伝わるそれ。
そのたびに、心の中に重い何かが溜まり始める。
俯きながら歩くあたしに、ほら、とさっき買いに行ってくれたばかりの(これがナンパの原因なんだけど)
カフェラテを差し出される。
「言ったろ?好きになっちまえばかんけーないって」
そうだけど。
気になりだしたらきりがないあたし達の間にある壁。
もちろん、あたしも努力してる。
司の世界へ合わせられることは、合わせようと思う。
けど、それにも限りがあって。
立ち止まってしまうこともたくさんある。
そんな時は、いつも司が手を引いてくれるけど。
こんなんで、いいのかな?
司に無理をさせてるんじゃないか?
あたしよりも、もっとふさわしい人がいるんじゃないか?
好きだけじゃ、どうしようもないんじゃないか、って思うんだよ。
すごく不安になるんだよ。
思わず、司の瞳を見つめる。
「・・・・・・よけいな事考えんなよ。俺は、おまえじゃなきゃやだからな」
まるで、あたしの心の中を読まれたような答えに固まった。
「な、ななななによそれ」
「どーせ、「もっとほかにー」とか「あたしよりもー」とか思ってたんじゃねーの?」
ビクリとしたあたしを、やっぱり、という表情で見下ろす司の瞳はやけに優しくて。
「おまえなー、もっと自信持てよ。この俺様が好きになったんだぞ?
俺がお前を好きなだけで────充分だ」
自分のセリフに照れたのか、司はあたしの手からさっきのカフェラテを奪い取る。
ズズズズ、と音を出しながらストローが茶色に染まってゆく。
あぁ、そう言えば昔はコイツ、こんなの飲むやつじゃなかったっけ。
まずいだの、庶民の味だのバカにしてて。
けど・・・いつのまにか
知らない間に、こっち側にも来てくれてるんだね。
あたしだけじゃなく、司もがんばってくれてるんだね。
なんだか泣きたくなる。
あたしは鼻をクスンと鳴らすと、司の方に向き直った。
「・・・後悔しないでよっ!」
「何をだよ」
「・・・さっきのセリフ」
「セリフ?」
「『おまえじゃなきゃやだからな』って」
ストローを口にしながらいきなりむせる、司。
真っ赤になって「繰り返すんじゃねー」なんて騒いでる。
けど、嬉しかったよ。
『好きなだけで、充分』
うん、そうだ。
好きな人と想い合える確率なんてほんとに少ない。
好きな人が、自分を好きでいてくれる。
それがどんなにすごいことか、今はよくわかる。
「やっぱ、こんな野獣、あたしじゃないとダメだよねっ」
「・・・・・・お前も、言うようになったじゃねーか」
見上げると、青筋を立ててる司。
ぷぷぷ、と笑いを堪えてると横から伸びてきた腕に頭を絞められる。
「ぎゃぁぁぁぁぁ。痛い痛い!!ごめんって」
パシパシ司の腕を叩いて、ギブアップを宣言。
それでもなかなか腕を緩めてくれなくて。
こうなったら最後の手段。
「司っ、あたしもあんたじゃないとやだからねっ」
途端に緩まる司の腕。
えへへ。
やっぱ、あたしの方が一枚上手?
さっきの司のたった一言で、こんなに上昇できる自分もゲンキンなもんだな、なんて
涙目でこめかみを押さえながら司を見上げると、真っ赤になって硬直してて。
足元には、まだたいして減ってなかったカフェラテがまあるい染みを広げていってた。
「お、おおおまおま、おまえが変なこと言うから落としちまったじゃねーかよっ」
急にアタフタとしだした司がかわいくて。
「じゃ、今度は一緒に買いに行こう?」なんて囁くついでに、頬にキスを零してみた。
おしまい
2004,5,18 momota
→text →niji top →niji odai
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