告白 rui ***
ふと思う。
あたしもいつか言われてしまうんじゃないかって。
「もう、いらない」
はらはらと螺旋を描いて落ちてゆくこの紙のように。
私も、ゆっくりと落ちてゆくのだろうか─────
もともとの性格なのだろうけど・・・
あまり物や、人に執着しない類。
それは、この部屋も物語っている。
いくつものしわを作るシーツの中で、絡み合う足をわざと離すと
ベットのそばに落ちているバスタオルを引き寄せる。
ベットのそばのテーブルには、携帯電話と腕時計、それと・・・いくつもの名刺。
それをよく見ようと手を伸ばすと、名刺の一枚がはらりと床に落ちた。
そこには、知らない会社、知らない名前。
ベットにうつ伏せのまま落ちたそれに手を伸ばす。
スタンドの明かりでうっすらと浮かび上がる自分の腕。
伸ばした手とは反対側から、ひやりとした空気が流れ込んでくる。
四角い紙を拾い上げながら視線を類に向けると、そこに思い描いていた薄いグリーンの瞳はなくて
真っ白い、シーツが皺をよせていただけ。
あぁ。類が起き上がったから・・・
さっきの冷たい空気を思い起こす。
「・・・類、これ」
冷蔵庫から、ミネラルウォーターのペットボトルを持ち出した類に向かって手を差し出した。
「あぁ。いらない」
あたしの手の中にある小さな紙に視線を移す類は、小さく口を開いただけ。
「捨てていいよ」
何の戸惑いも見せない口調にどきりとする。
あたしの心中を知ってか知らずか、手の中のものを取るとそのまま
頭の高さからそれを落とした。
くるくる
くるくると螺旋を描きながら落ちるそれ。
類にとっては、意味のないもの。
けれど、その持ち主には・・・・・・
大事な繋がり。
あたしも、いつかは・・・・・・
落ちてゆく物を最後まで見ていられずに
ベットから身体を起こすと、落ちていたバスタオルで何も纏ってない体を覆った。
背中に感じる類の視線。
「いらない」「捨てて」
自分に必要のないものを切り捨てる鋭さ。
あたしもいつか、こんな風に言われてしまうんだろうか・・・
あたしがいくら体中で想いを叫んでも
まるでおもちゃを捨てるように
「もういらない」と────
最近こんなことばかり考えてる自分が嫌になる。
頭を軽く振ると、両足を下ろしてベットから立ち上がる。
大事なものを手に入れてからの方が不安が大きいなんて
知らなかった。
思わず両手に力が入るのと同時に、肩に柔らかいものが当たる感触。
ふわりと香る、類の香り。
肩越しに後ろを振り返ると、まず飛び込んできたのが類の色素の薄いサラ髪。
優しくあたしの肩を這う、形のいい口唇。
透き通るような上目遣いの瞳。
後ろから伸びてきた腕で、胸元でバスタオルを押さえる手を軽くほどかれる。
「・・・牧野?」
背中ごと抱きしめるように彷徨う類の手は、あたしのそんな考えを一瞬で吹き払ってしまうけど
そのまま類の与えてくれる、快楽に身を任せてしまうけど
まだ、必要としてくれてる?
まだ、愛してくれてる?
これからも、ずっとそばにいてくれる?
類・・・・・・?
あたしの上から体を離して、乱れる呼吸を整えながらベットに横になる類。
その分だけベットが沈む。
類の重みを感じないことがなんだか不安で・・・
まだ激しく上下する胸元を隠しもせず、滴り落ちる汗すらもそのままに
類の胸に飛び込む。
そんなあたしを、はじめは怪訝そうに見ていた類。
類の汗ばんでる胸元によりいっそう頬を押し付けると、類がちょっと笑ったのが分かった。
類の胸が軽く揺れたから。
あたしの背中に類の腕が回る。
「・・・・う・・・いらない」
さっきまで、頭の中を占領していた言葉が類の口から零れだした。
「・・・え?」
顔を上げようとしたあたしを軽く押さえつける類の顎。
あたしはもう・・・いらないの?
手が震える。
類の表情が見えない不安に、ぎゅっと瞳を閉じた。
「もう、いらないんだ」
額に触れる類の口唇。
それが柔らかく動くのが分かった。
「牧野以外、なにもいらない・・・・・・」
背中に回っている類の手に力が込められた。
「今、めちゃめちゃそう思ってる」
類はあたしの心の中が読めるのだろうか?
なぜ、いつもこんな風に言ってほしいことをすぐに口にしてくれるんだろう。
なぜ、あたしの不安をすぐに拭い去ってくれるんだろう。
ミネラルウォーターのペットボトルが汗をかくこの部屋で
『牧野以外、なにもいらない・・・・・・』
最上級の告白。
おしまい
2003,11,7 momota
→text →niji top →niji odai
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