SKY GARDEN
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キス     rui ***







牧野の形のいい口唇が薄く開かれる時、心臓が大きな音をたてた気がした。
あぁ、牧野に聞こえてなければいいな、そう思った。













「花沢類、シャツのボタン取れそうだよ?」

そう言って俺の手を上に上げる。



11月にしては珍しく暖かい日で、最近では寒さのため敬遠してた非常階段でまどろんでいると牧野がやってきた。
お昼を食べた直後でもあり、少し眠気にも襲われる。



「・・・───ん?ボタン?」



やわらかに降り注ぐ太陽で温められた、コンクリートがどうしようもなく心地いい。



「うん、ほら」



ココ、といって右腕の袖口に視線を落とす牧野。
それにつられて俺も視線を落とす。
あぁ、たしかにボタンが取れそうだ。



だからどうするべきか、も眠くて上手く考えられない。



「いいよ、べつにこのままで───」
「花沢類、このシャツの下になんか着てる?」
「・・・Tシャツきてる・・・けど。なんで?」



牧野の意図することが分からなくて首をかしげた。
牧野は苦笑しながらカバンから何かを取り出す。



「じゃぁ、脱いで。縫い直してあげるよ、ボタン」



カバンから取り出したものは、なんだかこまごました裁縫道具が入っているらしく
針を取り出すと、ボタンにあわせた色の糸を器用に針に通した。



そして、彼女の唇が軽く開かれたと思うと糸を口にする。
プツリ、という音と共に途切れる糸。




その動作に眠気も忘れ、一瞬見とれる。




「花沢類?・・・脱いじゃうと寒い?」



牧野の言葉で我に返るとまさか見とれてた、とも言えずに俺は大人しくシャツを脱いだ。





器用に糸でボタンを括りつける牧野の動作はとても面白く、食い入るように見つめていると
牧野の吹き出す声が聞こえた。


「ぶぶッ!!」
「・・・なにさ」
「だ、だって、花沢類そんなにじっと見てて・・・。ぷっ!!ご、ごめん」
「だって面白いんだもん」



「ハイ、できた」そういってボタンに口唇を近づける牧野。



薄く開かれた口唇を見た時に、心臓が掴まれた様に苦しくなった。
あれ?と思っているうちに激しさを増す心音。



彼女の口唇がボタンに触れる。
再び、心地よいプツリ、とした音が響いた。



差し出されたシャツを受け取る時も
「そろそろ5時間目始まるから帰る」と告げられた時も









牧野の口唇しか見れなかった。









牧野がいなくなって、再び大人しくシャツを羽織るとボタンに目をやる。






さっき、ここに牧野の口唇が触れたんだ・・・・・・






ゆっくりとボタンを人差し指でなぞりながら、白い肌にうっすらと色づいていた牧野のピンク色の口唇を思い出す。
と、途端に思い浮かぶ情景。






NYのマンションで不意打ちのキス。
それは、いとも簡単に牧野の口唇の柔らかさまでも蘇らせる。






あぁ。
なんだ、俺牧野にキスしたかったのか───






あの激しい鼓動の理由はそれか・・・。






みょうに納得して
そのままゴロリと暖かさを維持しているコンクリートに横になる。











そして、俺はゆっくりと彼女の口唇が触れていったボタンに自分の口唇を近づけた。





おしまい



2003,10,16  momota





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