嫌い rui ***
最近、変だと思う。
花沢類の後姿とか。
花沢類の細くてキレイな指だとか。
日に透けてキラキラ輝いてる、プラスチックのような髪だとか。
とにかく、花沢類に関することを自分の意識下に入れるだけで
おかしくなる。
今まで、こんなことはなかった。
もちろん、あんなに整った顔立ちの男の子に微笑まれちゃったりなんかすると
ドキドキしてたけど。
ほんとにただドキドキしてただけで・・・
甘い痛みを伴うようなドキドキじゃなかった
のに。
ふぅ、とため息を零すと体を少しだけ起こした。
さっき、気分が悪くなってやってきた保健室。
校医がいなかったので勝手にベットに横になってしまった。
少し休んだせいか、体はだいぶ楽になってて。
いろんなことを考えてた頭の中は反対に重くなってる。
司と別れてから、もう当分恋愛なんていいや、って思ってたのに。
なんでか花沢類のことばかり目に付いて。
司と別れたからって、花沢類が必要以上に優しくしてくれるわけじゃない。
むしろ、今までとかわらないで付き合ってくれてる。
そしてそれは、西門さんや美作さんも同じで。
彼らには何も感じないのに。
どうして花沢類だけにこんなに反応してしまうんだろう。
どうして花沢類の傍はあんなにも居心地がいいんだろう。
そして気づいてしまう、花沢類に対してのあの感情。
司と別れてから、もう身分違いの恋はしないと決めたのに。
あんな想いはもうしたくない。
あんな想いもさせたくない。
司を追いかけられなかった自分に、また恋をする資格なんてのもないと思う。
それでも
どうしても
あの、醜い感情。
独占欲が、消えない。
言ってくれたよね?
『すきなのかも』
普段あまり自分の感情を口にしない花沢類。
彼が零した言葉は、切ないくらいあたしの心に響いた。
まだ、好きでいてくれる?
あたしは、あなたへの一歩を踏み出してもいい?
今までのあたしの恋愛は、すごくややこしくて。
なかなか好きって言えない恋だった。
花沢類にする2度めの恋。
今度はちゃんと、好きって言いたい。
胸を張って、この人が好きって。
太腿を覆い隠しているベットの白いシーツ。
そこにポタポタと広がる、淡い染み。
辛い恋は、もう嫌だ。
けど
花沢類がほかの人を想うなんてことも、絶対にイヤだ。
イヤだよ・・・・・・
バタバタとすごい足音で、誰かがここに近づいてくるのが解る。
ここは一番端の部屋になるのできっとこの足音の主は保健室が目的なんだろう。
あたしは急いで濡れてる頬を拭おうと、何かないかと枕元を見回した。
それと同時に、ドアがスライド。
あたしは思ったよりも早い展開に、思わず息を潜めた。
あたしには関係無い人だって思ってたから。
けど・・・
だんだん足音が近づいてきたと思った瞬間引かれる白いカーテン。
シャッ、と小気味いい音と共に現れたのは
花沢類。
息を乱して。
汗を零して。
「・・・平気・・・なの?」
途切れ途切れに零された言葉に、頬が濡れたままなのもお構いなしに花沢類の顔を凝視してしまう。
「・・・平気だよ。ただ気分が悪くなっただけ」
「・・・・・・でも・・・泣いてる」
ベットの足元に立ち尽くしたままの花沢類が呟くように言葉を落とした。
「こ、これ・・・・・・ち、ちがっ」
見慣れない花沢類の様子に気を取られていて、自分が泣いてたことを忘れていた。
あたしは慌てて頬を指で拭う。
そして言い訳を考えるけど、ちっとも思い浮かばなくて。
答えを求めるように送られる視線に、こちらも逸らすことが出来なくて。
結局、言い訳を考えてた時間は花沢類を観察してしまう時間に変わる。
走ったとこなんて見たことない、花沢類。
息が上がってるのも。
汗が頬を伝うのも。
そんなに真っ直ぐに向かってこないで。
あたしは自分が傷つくのがイヤで、花沢類への想いに戸惑ってる。
そんなずるい人間なんだよ。
なんだか、こんなあたしに好かれている花沢類がかわいそうに思えて。
真っ白な花沢類が真っ黒になってしまう気がして。
それでも花沢類を好きなことは止めることができなくて。
どんどん汚れていく花沢類を思い浮かべて悲しくなってしまった。
そして、せっかく収まっていた涙も再び頬をぬらしだした。
「・・・う・・・うーーーーーっ・・・・・・」
空気の流れとギシっという音で、枕元においてある椅子に花沢類が座ったのが解った。
「何で・・・・・・泣くの?」
「嫌いだよ、花沢類なんか」
自分が、自分で考えているよりもずっと醜い人間に思えてくるの。
花沢類がキレイすぎて。
花沢類が眩しすぎて。
あたし自身がすごくずるがしこい人間に思えてくるんだよ。
かみ合わない会話に、花沢類が首を傾げた。
「・・・・・・俺のこと嫌いなのは構わないけど、なんで泣いてんのか教えてよ」
花沢類の質問にあたしは、声を荒げる。
「胸の奥が痛いのよっ」
「胸の奥?・・・・・・心臓?」
「違うわよっ。心の奥っ。ずーーーーっと奥ッ!」
「・・・そんなの俺のせいじゃないけど」
「花沢類のせいだよっ!全部花沢類のせいっ」
このドキドキも。
胸の奥のほうで燻る甘い痛みも。
自分が醜く思えるのも。
この涙のワケも。
ゆっくりと近づく影に顔を上げると、やっぱりゆっくり近づく花沢類の顔。
そっとなぞられた頬に落とされるキス。
「あんたの全部が俺のせいだなんて。これ以上光栄なことないね」
そういって、こめかみから伝う汗をTシャツで拭う。
なんでそんなに行動とセリフが一致してないのよ。
息を上げながら、汗を零しながら
落ち着いたセリフを吐く花沢類。
けど、それはあたしも一緒。
「嫌いだよ」
「いいよ、別にあんたが嫌いでも俺が好きだから」
好きで好きでしょうがないくせに
その大好きな人を目の前に「嫌い」と零すあたし。
自分に言い聞かせるように、「嫌い」と零すあたしに花沢類がワザと不思議そうな顔をする。
「・・・・・・そんなに連呼すると、まるで逆の意味に聞こえるけど?」
微笑んだ花沢類の顔はなんだか全てお見通し、という顔をしてて。
いつもよりだいぶ大人のように思えた。
花沢類・・・
もう少し。
もう少しだけ、このままでいい?
花沢類の隣にいるあたしを想像しても、素直に笑える日まで。
ちゃんと花沢類のことを好きな自分を、抱きしめてあげれる日まで。
自分のことが嫌いじゃなくなる日まで、もう少しこのままでいさせてね。
おしまい
2004,8,17 momota
→text →niji top →niji odai
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