怒り tukasa ***
目に映る、色とりどりのドレスやタキシード。
ざわざわと落ち着かない空気に、イライラ気味の感情をもてあまし気味で。
何か気を紛らわすものがないかとあたりを見回すのだけど。
それは、いかに自分がこの場所に不自然かを実感するだけで・・・・・・。
どんなに高価な服を着ていても。
どんなに高価な宝石を付けていても。
この中では息苦しく、喘ぐだけの自分。
いかにもあたしと違う人種の人たちで溢れてる会場は、気分を沈みこませる原因に充分だった。
深いため息と、愛想笑いの繰り返しの中、思い浮かべるのは司のことだけで。
こんな場所では猫をかぶる司のことだ。
きっとキレイな女の人たちに言い寄られてるんだろうなぁ・・・
なんてことを考える。
今日は、椿お姉さんの30回目のお誕生日。
司のときと同じく、日本の道明寺邸でパーティーが開かれているのだけど・・・・・・
司のときと違うのは、司とあたしの関係。
司の望んでた未来に、ほんの少し近づいた関係。
けど・・・
まだ、婚約したことはナイショ。
道明寺家のごく一部の人しか知らない。
今、発表しちゃうとちょっと取引上のこととかでもなんかややこしくなっちゃうみたいで・・・
って、まぁ平たく言うと
取引先の人が自分の娘をどうか、って言ってきてるらしくて。
(どうやら、どっかで司のことを見かけたお嬢様が、大層気に入ったらしい)
簡単には発表できないみたい。
で、結局は別行動。
あたしは、司の婚約者ではなく、あくまでもゲストとして参加してるってワケ。
それでも、視線は自然に司を探しちゃってて・・・・・・
”キョロキョロすんなよ!”
昨日司に言われた言葉。
心に留めて、あくまでもスマートに、さりげなく、司のくりくり頭を探した。
がやがやといろんなとこで聞こえてくる談笑の声は、大きな塊になってけっこうな大きさだ。
そんな中、同じ場所で探してても埒が明かない。
あたしはフワフワの絨毯を踏みしめながら、そっと場所を移動する。
ボーイさんが進めてくれるアルコールにも手を出さないで
人とぶつからないように
笑みも絶やさず
慣れないヒールにも気にしながら
見慣れた背の高い後ろ姿を探す。
けど
部屋の中にはどうしても見当たらないで・・・
ゆっくりと、庭へと続くドアに手をかけた。
そして先に視線だけを庭に送ると・・・・・・
あたしでさえ知ってる政界の人や、芸能界の人、キレイな女の人に囲まれてる司がいて。
おもわず、硝子に張り付いてしまう。
(やっぱり・・・・・・)
予想はしていたことだけど、いざ目の当たりにすると結構ショックだ。
薄い硝子から伝わる、ひんやりとした空気が指先を少しづつ冷やしてゆく。
あたしは硝子にかけた手をゆっくりと下ろした。
だって
そこには、いつもの司ではなく
「道明寺司」がいて。
あたしの知ってる司なんだけど、バカ話して笑い合ってる司ではなく
大人の笑みを零す司。
あたしとケンカして言い合ってる司ではなく
大人の嫌味をするりとかわす司。
なんだか遠い人みたいだよ、司。
「どしたの?」
後ろから掛けられた声に驚いて振り返ると、しっかりと正装した花沢類がいて。
まわりがざわざわしてるのに、花沢類の声がすごく優しく聞こえた。
「司んとこ行かないの?」
にっこりと微笑む花沢類に、知っている顔があった安心感からかこちらもつられて笑みが零れる。
「あ・・・なんか忙しそうだから・・・後ででいいかなーなんて」
あはは、と笑うあたしに花沢類は全てお見通しのように頷くとゆっくりと手をさしだした。
「だめだよ、遠慮なんてしてちゃ。あんたらしくもない」
それでも、あの中に入って行く勇気なんてないよ。
花沢類の腕を取るのをためらっていると、ぐい、と腕を引かれた。
そして、庭へと続くドアを思いっきり開けるとずんずんと花沢類にしてはめずらしいペースで司の元へと進む。
「ちょ、ちょっとっ!待って。待ってってば!!」
こっちにも心の準備っつーもんがある。
一生懸命訴えるんだけど・・・
なんだか花沢類はめんどくさそうに視線をよこすだけで、真っ直ぐに司に向かっている。
案の定今も司の周りには、キレイな女の人がたくさんいて。
中でも、着物を着た女の人がべたべたと司の腕にまとわりついてて。
さっきまでは戸惑い気味だった心境にも、さすがにイラ付きが混じる。
「司!」
花沢類が声を掛けると、司が笑顔のままゆっくりと振り返った。
けど・・・
花沢類の腕の先にあたしがいるのを見ると顔色が変わる。
んもーーー。目が怒ってる!絶対怒ってる!!
あたしは慌てて、花沢類の後ろに隠れた。
「・・・・・・類、どうしたんだよ」
「んー。ちょっと紹介しておこうと思って」
司の周りでキャピキャピはしゃいでた女の人たちが、一斉にこちらを見てる。
「・・・何をだ?」
「コレ、俺の彼女」
ぐぐぐと腕を引かれ、花沢類の後ろに隠れていたあたしはみんなの目に晒されることになる。
か、彼女って・・・
しかも、コレって・・・あんた・・・
悪い冗談はやめてよ。
呆然と花沢類の横顔を見詰めた後、司に視線を送る。
あぁ司の顔が、怒りに引きつってきてる。
けれど、あたしのことなんて見向きもしないで花沢類のことを睨んでいる司。
「オイ、類。冗談だよな?」
「違う。俺の彼女。牧野つくし」
「・・・・・・」
司が暴れださないのが余計に怖い。
知らん振りしながら応える花沢類に、あたしも反論しようとした瞬間司の怒鳴り声が響いた。
「だーーーー!!!何言ってやがんだ!!牧野は俺の彼女だ!!」
一瞬にして、パーティー会場が静まり返る。
「ってことですから、よろしく」
花沢類は、まわりのあんぐりと口を開けたままのゲストに向かってそう言うと、満足そうに微笑んだ。
あわわわわわわわわ。
やーらーれーたー。
「そんなの、さっさと言わないから変な女にまとわりつかれるんだよ」
なんて捨てゼリフを残して、くるりと振り返ると何事もなかったように室内へと向かう花沢類。
マジですか・・・・・・・・・
こんな状況にしといて・・・行っちゃうのね、花沢類。
だんだん小さく、人垣に飲まれてゆく花沢類の背中を睨んでみるけど状況に変わりはなく。
さっきまでは、気恥ずかしい音のはずだったピアノの音が今はまるで慰めの音に聞こえる。
そんな中
花沢類が変な女呼ばわりした女の人が、じりっとあたしににじり寄ってきて。
10cmくらい身長差があるので、必然的に見下ろされる形になる。
「一般人って、どんな手でも使って・・・。みっともない」
まるであたしが汚い手をつかって司をたぶらかしたように、呟かれた。
さすがに、カチンとくる。
(あたしは、好きな相手と一緒にいるために親の力使ったりしないわよっ!)
心の中で呟くと、なおさら怒りも倍増で。
睨み返すと、その彼女も視線を逸らす気がないらしい。
見えない糸で視線が繋がる気がする。
それがどんどん研ぎ澄まされてきて。
一言でも、何か言葉を発したら「ぷつん」と切れてしまいそうな緊張感。
それを遮ったのは、司だった。
「・・・ちょっと来いよ」
さっきの花沢類のときとはだいぶ違って、強めにぐい、と腕をつかまれ
そのまま引きづられるように司の部屋まで連れて行かれた。
あんなこと言い放ってしまったあと、あたしと消えた、なんてことになると一大事なんじゃないの?
けど、ほんとは、それがちょっと嬉しかったりもする。
ドキドキとしてる胸を隠しながら、大人しく司に引きづられ、少し乱暴にソファへと促される。
「・・・・・・なんでオマエはそうなわけ?」
イラつき気味の低い声。
腕に残る赤い司の指の痕を擦りながら、気まずさげに顔をあげると
声と同じような表情の司がいて。
「何が?」
「なんで思ってることをちゃんと俺に言わねーんだよ」
「・・・言ってるじゃん」
「いわねーから、今みたいなことになってるんだろ?」
ぐぐっ、と言葉に詰まる。
今後ごたごたするであろう取引先での出来事を思う。
たしかに、あたしが悪い。
大人しく、待ってればよかったんだ。
勝手なあたしの想像で(・・・その想像は当たってたんだけどさ)イライラして。
ついつい気にしてたのを・・・花沢類も気にしててくれて。
ここは素直に謝ろうと、口を開くと同時に司も顔を上げた。
「ごめ・・・・・・」
「なんで、類なんだよ・・・・・・」
「え?」
「なんでいつもお前を助けるのが、類なんだよ」
今みたいなこと、って・・・
仕事関係のことじゃなくて・・・花沢類のことなの?
いまいち、上手に理解できない頭で一生懸命考えてると司の呟くような声。
「オマエのこと・・・類は分かってて、俺はちっとも分かってない、って思い知らされた気に・・・なるんだよ」
さっきまでの勢いは何処へやら・・・で、一瞬で空気が変わる。
ホントはこんなこと言いたくない、という表情でチラリとあたしに視線を投げる司。
「オマエのこと、一番知ってるはずなのに。類が出てくると・・・・・・わかんなくなるんだ」
司はゆっくりとあたしの横に腰を下ろすと
キレイな指を組み、そのまま目元を覆うように額に持ってくる。
そんな仕草が、とても寂しげに感じて。
あたしは、ゆっくりと横から司を抱きしめる。
「ごめん。・・・・・・ごめんね」
気にしてないフリをするのが上手くなって。
自分の気持ちを押し殺すのが得意になって。
誤魔化しが一番嫌いな司に、一番やっちゃいけないことしちゃってたんだ。
ごめんね。
自分に似合わない服は、脱ぎ捨てる勇気。
それは、嫌なものを嫌と言うことと同じで。
・・・けれど、司までなくしてしまう気がして。
すっかり目を逸らしてたんだ。
「ただでさえ、ややこしい恋愛だったから・・・・・・変なクセついちゃったのかな・・・・・・」
ボソリと呟いたあたしの声に反応するように、背中に回された腕に力がこもる。
「そんなクセ・・・・・・つけてんじゃねーよ」
「しょうがないじゃない。ついちゃったんだもん・・・・・・」
肩に感じる、司の重み。
大事な重み。
彼の存在の証。
「いつか、類にかっさらわれそうだよなぁ・・・・・・確かに類のほうがお前のことよく分かってる」
「あぁ・・・そうかもねぇ・・・」
司の存在の証だった、肩の重みが急にふわりとなくなって。
あたしの目の前10cmできょとりと目を見開く司に、あたしは笑いを噛み殺しながら続ける。
「でも、司のこと一番よく知ってるのは、あたしだよ」
花沢類のアレだって、一種の優しさだとは思うのだけど。
それを素直に受け入れられる司じゃないってのも、知ってるよ。
「あたしが一番だよ?」
「そうか・・・俺が一番じゃなくても・・・お前が一番俺のことを知っててくれるなら・・・それでいいか・・・」
あたしの言葉に満足そうに頷く司。
そんな司を見て、あたしもやっぱり満足気に笑みを返した。
そんな中ゆっくりと甘えるようにあたしの胸元に顔を埋めた司からふわっと香るコロンの香り。
・・・もう。大人なのか、子供なのか分からないじゃない。
しかも、普通は反対なんじゃないの?何てことも思うのだけど。
「・・・・・・もう、類のやつに・・・彼氏ヅラなんてさせんなよ」
ポロリと零した本心に、嬉しくなって
あたしから口唇を落としてみた。
おしまい
2004,11,17 momota
→text →niji top →niji odai
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