SKY GARDEN
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はじまり     rui ***







「なんか・・・降りそうだよね・・・」

グレーの空を見上げながら「花沢類、傘持ってきた?」なんて聞かれる。

牧野の視線を追って、俺も重苦しい空を見上げた。
何層にも広がる雲。
それは今後の天気をすんなりと予測させるのに充分で。




「俺、手ぶらだけど」




牧野に向かって両手を胸の位置まで持ってくると、広げて見せた。
デニムのポケットには携帯と財布。




それだけ。




空を見上げていた視線を、俺の手元に移す牧野は苦笑しながら歩くテンポを早める。




「・・・そうだよねぇ」




・・・・・・なんだよ。
その、「そうだよねぇ」にはどんな意味が含まれるのさ。
少しムッとしながら牧野の後に続いた。






牧野の肩までの髪は、真夏の暑い空気に溶け込むように揺れている。
じっとりとした熱気とは反対に、サラサラとした音まで聞こえてきそうだ。


デニムのポケットに、親指だけ差し込みながら牧野の真後ろを歩く俺は
必然的に前方から流れてくる彼女の柔らかな香りに包まれる。


たったそれだけのことに眩暈を起こしそうになる。




なんだよ、俺。
思春期の青少年じゃあるまいし。
牧野の香りで欲情するなんて。




「あ、きたっ」




牧野の声で空を見上げる。
ぽつり、と大き目の雫が頬にあたった。



「花沢類!走ろう!!」



最初の一滴が落ちたのを合図にするかのように、ポツリポツリという音と共にアスファルトがどんどん黒く染まっていく。
さっきまでじりじりと暖められてたアスファルトからは、湯気がでるんじゃないか、なんてこと思ってみたり。



「花沢類ってば!早く!」



牧野はじっとアスファルトを眺めていた俺の腕を慌しく引くと、そのまま公園の屋根がついているベンチまで駆け抜けた。





「はぁー、結構濡れちゃったね」



牧野の顎のあたりで切りそろえられている毛先から、ポタリポタリと落ち続ける雨の雫は彼女のTシャツに
作る染みを少しづつ広げていて。

とどまる事なく落ちる雫に、「あぁ結構濡れたんだ」なんて改めて実感してみたり。

牧野はカバンから取り出したハンカチで、ベンチに座らせた俺の頭を拭く。



先に自分の頭拭けばいいのに・・・・・・



そんなことを思いながらもされるがままになっていると、
目の前には牧野の胸元があるわけで。





!!
なんなんだよ、さっきから俺は────





顔に血液が集中する感覚に
今、顔が隠れていてよかったと心からホッとする。




が、そんな思いも牧野の一言であっさりと打ち砕かれる。




「あ・・・れ・・・?花沢類・・・耳真っ赤だよ?どうしたの?」









誰かこの、天然をどうにかしてくれ────








なんだって、こう鈍いくせに変なとこに気がつくんだ?





「・・・なんでもない。今度はあんたの番」



顔を見られないように、俯きながら立ち上がると
無理やり牧野をベンチに座らせる。
そして牧野から奪い取ったハンカチで彼女の頭をゴシゴシと拭き出した。



「いたっ!痛いよ!!花沢類、もうちょっと優しくしてよーっ」



バタバタと暴れる牧野を両膝で押さえつけると、今度は丁寧に髪を拭く。


俯き加減の牧野の頭から、ちらりと覗く白い項。





・・・っつ。
再び顔が赤く染まるのが分かる。





何時から、こんなにドキドキするようになった?
何時から、こんなに牧野に目を奪われるようになった?
何時から、この想いは・・・はじまってた────?






この想いのはじまり。
それはきっと、俺が牧野とのなんてことない未来を想像したときから





こっそりと、はじまってたんだ。




おしまい


2003,10,29 momota




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