SKY GARDEN
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niji
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blog-pass 1 rui and tukushi
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眺める景色はいつもと同じなのに、いつもとの距離が縮まっただけで
こんなになっちゃうなんて、思ってもみなかった。
心臓が飛び出しそうというのは、こういうことを言うのか――――
ばくばくと激しく鼓動を刻む音が、自分の耳にすら届いている。
実際、カットソーがいつもより上下に動いてるのは見間違いじゃない。
普段憎まれ口ばかりきいてるので、こういう雰囲気に弱い。
ちらりと斜め上を見上げると、薄茶の髪がしっとりと揺れた。
淡い碧の瞳は、だいぶ先を見据えていて、きょろきょろとどこか雨宿りでもできるところを探しているんだろう、
あたしの動悸なんて、気にしていないようだった。
「・・・・・・結構強くなってきたね」
どうでもいいことだったけど、間が持たない。
「わかってるんなら、もっとこっちこないと」
類はぐいと私の肩を抱いた。
1つの傘じゃ、私には充分でも類とあたしじゃ大分無理がある。
なので類が近づく分、離れていたあたし。
それが強制的に、近づけられた。
「・・・・・・ほら、肩濡れてるけど」
私の動悸は最高潮で。
きっとこのままだと、全身が心臓に支配されてしまう・・・・・・、なんて思っていたら
ふわりと香る、あたしの大好きな匂い。
強制的に密着度が増した分、より一層、類のシャンプーの香りを浴びてしまい、今度はふらつく足元を隠すので精いっぱいだ。
「・・・・・・聞いてる?」
少し強めの口調に、あわてて類に向き直る。
「き、聞いてる!聞こえてる!」
あたふたとしたあたしを、まじまじと眺めてから「たぶん無理だと思うんだけど・・・・・・」なんて、珍しく低姿勢なお願い。
「俺の腰、抱いてくれるとだいぶ歩きやすいんだけど」
・・・・・・。
類の腰と顔を一巡してから、自分の手を眺めてみた。
・・・・・・・・・。
無理だっつーの。
あたしの顔色を見ただけで答えがわかったように、類は軽く頷いた。
なんだか馬鹿にされてる感がないわけでもない。
けどこれ以上くっついたら、あたしきっと沸騰するから。
今でも半分煮立ってるっていうのに、これ以上密着しろって?
想像しただけで、くらくらする。
くらくらするのに・・・・・・
くらくらするんだけど
もっと、ぎゅってしたいあたしもいるんだ。
緊張と恥ずかしさの中で、肩に感じる類の腕の重みすら愛しい。
「こ、腰に腕は回せない・・・・・・けど・・・、」
言葉の続きを促すように、視線をあたしに落とした類にこっそりを耳打ち。
「なるべくくっつくよう、ど、努力するっ」
努力しないとくっつけないのかよ、なんて突っ込みを受けたけどしょうがない。
だって、あたしは今、類に夢中なんだもん。
夢中すぎて、あたしの心臓が追いつかないくらいなんだもん。
もじもじと俯くあたしの横で、「ま、頑張って」なんてさらりと言いのけた類に
えい、っとぎゅっと体を押し付けてみた。
類をドキドキさせるなんて、無理だと思うんだけど。
悔しかったから。
あたしばっかりドキドキしてて。
あたしばっかり好きすぎて。
案の定、ちょっと驚いたように体を引いただけで、類は歩みすら止めない。
別にいいんですけど。
あたしの心臓も、だいぶペースがわかってきたようで息苦しくはなくなってきたし。
いつか、類の香りを纏うのが当たり前になった時には、きっと相合傘だって自然にできるようになってるんだろう。
なんて、近くて遠い未来を夢見つつ
ぎくしゃくとした動きを悟られないように、類を見上げる。
そんなあたしに気付いた類も、かすかに微笑んだ。
けどね。
あたし、気づいちゃったんだ。
相変わらず感情は読み取りづらいのだけど・・・・・・
類のほんのり赤くなった耳元と頬。
あれ?
あれれれ?
これって、もしかして・・・・・・
半信半疑というか、確信に近い直感。
それでもまだ、確実じゃなくて。
憎まれ口で誤魔化しつつ
「類、意外に……というか、かなりあたしのこと好きでしょ?」
より一層、赤みが増す頬。
わざと視線を逸らされたあと、隣で深く息を吐かれ
「・・・・・・いいからこっちみるな」
と、呟かれた。
そして捨て台詞のように「あんたの魅力は、鈍いところだからね?」なんて。
どういう意味よ!
おしまい。
2011、10、17 momota