空港にて ―鬼退治― akira ***
からからと、アイスティーをストローで突付く牧野。
司と離れて4年。
司と離れてる所為かしらねーけど、やけに大人びて見える。
司と一緒にいる牧野は、いつもギャーギャーと言い合っていて。
こんなに年相応に見えるなんて・・・まったくもって想像すらしていなかったんだ。
ふと、牧野と視線があって微笑まれた。
なんだか盗み見していた気がして、慌てて意識をまわりに向けた。
ほんの少し、暑い室内。
結構な数のテーブルがあるけど、搭乗の時間まで時間を持て余してる奴らや
見送りの家族なんかでだいぶ埋まってて。
そんな中、あの頃よりもだいぶキレイになった牧野に、まわりのヤローどもは露骨な視線を送りつけ
類に睨まれてる。
今日は司の帰国日だ。
約束通り、司は4年で帰ってくる。
ほんとは嬉しくてしょうがないはずだろうに、当の牧野は実際に会うまで不安なのか
緊張でこわばった顔を隠さない。
総二郎が、椅子に座りなおしたのを合図に、
俺も目の前のコーヒーに口をつけた。
まわりから送られる、これまた別の種類の視線に気づいてあたりを見回すと
左後ろにいた高校生くらいの女の子たちが「キャッ」と声を上げた。
何かを期待してるかのような視線に、にっこりと挨拶。
その途端、ありえないほどの悲鳴。
「ったく、なにやってんだよ、あきら」
総二郎の呆れたような声が響く。
「だってよー、親父の会社に入ってから女遊びしてる暇もないんだぜ?」
テーブルに肘を置くと、わざと疲れてる顔をしてみる。
体勢を変えたことで、キシリとなる椅子。
その音で牧野が顔を上げた。
「ばかだなー、暇なんて作るもんだろ?そこんとこうまくやれよ」
俺らの会話を聞いていた牧野は「またそんなことばっかり言って・・・・・・」と笑う。
からからと背の高いグラスをストローで掻きまわしていた右手を止めると
牧野がゆっくりと頬にかかる髪を耳にかけた。
チラリと覗く項に、心臓が俺とは別の生き物のように高鳴る。
な、なに牧野に欲情してんだ!俺は。
自分を戒めながら、そうなってしまった理由を「最近遊べてないからだ」などど勝手に位置づける。
けして牧野に対して抱いた感情ではなく、「女」に対して抱いた感情。
女だったら別に牧野じゃななくても、そう思ったはずだ。きっとそうだ。
あの、項に触れてみたい、と。
ゆっくりと指を差し入れ、項を現すとそこに口唇を落とす。
そこを充分堪能した後は、ほんの少し開いている口元に移動して・・・・・・
でも、そんなすぐにキスはしない。
下唇。
口角。
上唇。
ゆっくりと甘噛みしながら、甘い吐息が洩れてきたところで初めてしっかりと口唇をあわせる。
きっと牧野はゆっくりと瞼を閉じて・・・・・・
って・・・。オイ。
だからなんで牧野なんだよ。
・・・・・・。
頭を抱えたくなった。
せっかく押し込めていた感情を、またもや復活させてしまったのか俺は。
だからまだ、会いたくなかったんだよ。
ハァと深く息を吐く。
自分の気持ちを悟ってから、ほかの女と遊ぼうなんて思えなくて。
かといって司のいないここで、司を想ってる牧野を誘う勇気もなく。
類は、すげーよなーぁ・・・・・・
おそらく俺よりも、牧野の傍にいて。
自分の想いを殺しつつ、牧野の幸せを願う。
今もゆったりとした視線を牧野に送り続ける類は、とても幸せそうで。
他人から見たら無表情でも、付き合いの長い俺らからみりゃ、微笑んでる類の顔。
ほんとに、楽しそうな───類。
なんでみんな牧野なんだろうな。
なんで牧野は司なんだろうな。
目の前には、こんなにいい男が3人もいるっつーのに。
まぁ、総二郎はどうだか知らないけど、そのうち2人はオマエのこと好きだっつってるのに。
そんなことに気づきもしないで
オマエは、司だけを見てる。
牧野の視線の先にあるものは・・・・・・
司だけ───なんだな。
俺の視線に気づいた類が、顎で牧野を指した。
──なんだよ?
瞳で聞き返すと、再び顎で牧野を指す。
つまらなそうに外を眺める牧野は、ウインドウの外よりもずっと遠くを見ていて。
目の前にいるのに、触れられないみたいだ。
(な ん か は な し か け て よ)
類の口がパクパクと音のない言葉を紡ぐ。
は?
話しかけろって・・・・・・
急なことに、何を話していいのかわからない。
あぁ、そうだ。
いつも、そうなんだ。
牧野が相手だと、調子が狂う。
「えっと・・・・・・牧野?」
恐る恐る声を掛けた俺を、類が笑いを噛み殺しながら伺ってる。
っだよっ。
オマエが話しかけろって・・・・・・
文句の一つも言いたいくらいだけど、牧野が眩しそうに振り返るからそのまま口をつぐむ。
「つ、司は・・・何時に着くんだっけ?」
「たぶん、7時すぎくらい・・・だと思うよ」
店の時計で時間を確かめた俺は
その時間まであと、1時間はあることを確認。
あーあ。
司に牧野を取られるまで、あと1時間か。
あ。違うか。
取られるんじゃなくて、返すんだ。
司がNYへ経つ直前、頼まれた。
『牧野を、頼むな』
ごつりと胸元に送り込まれた拳に、ナゼだか牽制の意味も込められてる気がして・・・・・・
苦笑したんだっけ。
「どうする?そろそろゲートんとこで待つ?」
類が牧野に声を掛けると「そうだね」なんて返事が返ってきて俺らは店を出ることにした。
あと数時間後には、愛しい人が親友の腕に飛び込むのを見届けなくてはならない。
ちょっとはへこむかもなぁ。
弾むような足取りで先を進む牧野。
その背中を見ながら隣を歩く類に文句を一つ。
「なんだよ、さっきの」
「なにがー?」
「話しかけろって・・・・・・」
「あぁ、だってあきらってばずーっと牧野のこと見つめてて・・・・・・話しかけたそうな顔してたから」
「ば、ばかやろー!んなわけねーだろうが」
「そう?」
めずらしく、アハハハなんて笑い声が隣から響く中
類には隠し事できねーなぁ、なんてしみじみ思った。
全てを解ってるだろう類にこれ以上強がる必要もなく。
俺はゆっくりと肩の力を抜く。
そうするとほんの少しだけど・・・足取りも軽くなった気がした。
少しづつ、ゲートに近づく中
牧野に色目を使う男達に睨みをきかせ
(本人がまったく気づいてないっつーのが、性質わりーよな)
ワザと、牧野の肩を抱いたりしてみる。
俺のそんな行動を追うように、類も牧野の腰に腕を回した。
案の定、牧野は真っ赤になってアタフタと俺らを見回して怒る。
「ちょ、ちょっと!!いきなりなんなのよッ!」
バタバタと腕を振り回す牧野に、俺と類は顔を見あわせて笑った。
「俺、一体なにしてんだろうなー・・・・・・」
総二郎にからかわれて、ぷりぷり怒って少し先をゆく牧野の横顔を見ながら
誰に言うでもなく、呟いた。
自分の気持ちを伝えもしないで。
それでも、人のものになってしまうのもいやで。
トモダチという関係にすがりつき
自分をごまかし続ける。
「鬼退治、でしょ?」
そういって意味ありげに笑う類に、俺もつられて笑い返した。
「鬼退治かー・・・そうだな、牧野のまわりには鬼がいっぱい寄ってくるからな」
「でしょ?俺も司に頼まれたからね」
類の、迷いのない言葉に俺もなんだか励まされて。
類じゃねーけど、見守る愛、なんつーのもたまにはいいか、なんて思ってみたり。
「けど、一番の鬼は・・・・・・」
類が、淡いグリーンの瞳にじゃれ合うような笑みを湛えながら振り返る。
「「司!!」」
ちょうどハモった声に牧野が驚いたように振り返った。
「今度はなにー?!なんか悪巧みでもしてんの?」
「鬼退治の計画」
きょとんとする牧野の顔は、相変わらず眩しかった。
おしまい
2004,10,21 momota
→text →nijitop
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