SKY GARDEN
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Scene8
*****
別にホワイトデーなんて、期待してなかったし。
そもそも、バレンタインデーにチロルチョコなんて…
本気で取らないでしょ、普通。
……あ。そうか。
普通じゃなかったのだ。彼は。
「あ、あのね。あたし…お返し要らないつもりでチロルチョコにしたんですよ?」
恐縮しながらの、言い訳。
いつもの屋上に呼び出されたと思ったら、ホワイトデーだと、小さな包み紙を渡された。
「そうなの?でもいいじゃん。たいしたもんじゃないし。受け取ってよ」
あと、これも、と缶コーヒーを渡された。
反射的に、受け取ってしまう。
なんだか、最近……彼のペースに飲み込まれがちで。
ニッコリと微笑んでる彼から、慌てて視線をずらした。
なんでこんなに懐かれてしまったのか。
べつにたいしたことはしてないつもりなのだけど。
仔犬のように懐いてくれる彼に、拒絶するわけにも行かず
結局はそのままずるずると、会えば会話をする程度のお付き合いを続けている。
こっそり盗み見てると、再び視線がかち合う。
無邪気に向けられる笑顔に、あたしもついつい引きつった笑顔を返してしまう。
「俺さ、絢さんからのチョコレートが、一番嬉しかったよ」
思わず、コーヒーを噴出してしまった。
「なんだよ、汚いなぁ」
眉をしかめながら、少し距離を置く彼に思い切り睨みを効かせてみる。
スカートのポケットから、薄いハンカチを取り出すとそのまま口元を拭った。
「……ほかにチョコレート、もらわなかったの?」
ありえないことだけど。
あたしからのチロルチョコを喜ぶだなんて。
もしかしたら、って。
「ううん。もらったよ。デスクが1つ、チョコレートで埋まった」
平然と答える彼は、まるでいつものことだという風に笑う。
「それなのに、あたしのチョコが一番嬉しい!?」
「うん、だって一番おいしかったから」
あぁ、そっちで、か。
「それに…俺、絢さん好きだもん」
はい?
聞いてはいけない単語を耳にしたような気がする。
「……えーと。専務?」
「専務って呼ばないでって言ってるじゃん」
「……じゃ、遠慮なく言わせていただきますけど。花沢サン、その好きって…どのような…?」
あたしだって、女の子だ。
男の人に、好きだと言われると嬉しい。
けれど、それも相手によるのだ。
今まさに目の前にいる人は、会社の上司。オマケに社長のJrで年下。
極めつけは、ルックスが抜群だ。
どう考えても、あたしとの接点なんて普通ならありえない人物。
それをなにがどう間違ったのか……。
「好きは、好きでしょ?」
「いや、だから好きにも色々あってですね…その…どう言った感情の……」
しどろもどろになってる自分が、なんだか情けない。
「どう言ったもなにも、こういうことだけど……」
ゆっくりと近づいてくる整った顔は、どこから見ても完璧でいつもとちっとも変わってない。
けれど、唯一違ってるのは、瞳から伝わる感情のようなもので。
妙に色気をかもし出してる、透き通ったグリーン。
そこから、目を逸らすことが出来ないでいた。
「目…瞑らないの?」
鼻と鼻が触れ合いそうな距離で聞かれた。
「あ、ごめん」
思わず瞼を下ろすと、柔らかいものが口唇に乗る。
って、なに。あたし。
なに謝ってんの。
なにキスなんてしちゃってんのよ。
我に返ったあたしは、閉じたばかりの瞼を開ける。
それと同時に、キスの最中なのに変な声を出してしまった。
はぐ、だか、ひょえ、だか。
笑っちゃうほど、バカらしい声だったのだけど。
いつもなら、絶妙なつっこみを入れてくれる声は聞こえず、ゆるりと瞳で微笑まれただけだった。
おまけに、その瞳から送られてくる視線に動揺して口元が緩み…
その隙を衝かれて、口唇を割られ軽く舌が侵入する。
慌てて抵抗を示すも、余計な熱を篭らせるばかりで。
「んっ」
軽く彼の胸元を叩いて、抵抗の意思を伝えるんだけど。
気づかないフリなのか。
わざと煽ってるのか。
舌の動きは、ますます激しいものに変わっていく。
けど。
次第に受け入れてしまってる自分も、腹立たしい。
甘い熱を含みながら、ゆっくりと口唇を離されると、名残惜しさまで感じてしまった。
「…こういった、好きなんだけど」
「りょ、了解しました」
激しいキスの後の、甘すぎる感情。
爽やか過ぎる空への、罪悪感。
なんだか、感情がぐちゃぐちゃだ。
間抜けな返事しか出来ない。
「言葉で伝えるより、態度で示したほうが分かり易いだろうと思って」
悪びれもせず、困ったように笑う目の前の上司。
腰に力が入らなくて、へなへなと屋上のざらついたコンクリートの上に座り込む私は、逆光の彼を見つめながら想う。
何かのスイッチが、入ってしまった気がする。
もう、止めることのできない何かの。
「返事は気が向いたらでいいよ。でも、もしパスされても諦めるつもりないけどね」
「そのつもりで」、なんつって人差し指をあたしに向ける、年下の社長Jr。
こんなあたしの、どこがいいと言うのだろうか。
やっぱり普通じゃないのだ。
彼は。
おしまい
2006,3,12 momota
お返しを開けてみて、絢サンはきっと驚くはず。
チロルチョコ二つなのに、きれいにラッピングされてるからね←そっちかよ!
どうでもいい小ネタですが、ケイくんはチロルチョコ2つ買うのに、
クレジットカード使おうとして断られました(笑)
そんな世間知らずな彼が、可愛くて仕方ありません(すみません、親バカで)
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