SKY GARDEN
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Scene3
*****





「避けられるケンカをわざわざ受けることないだろ?なんでまともに真正面から受けるかなぁ」



諦めとも説教ともつかない口調で続ける父親。
そんな父親を、下から見上げる。


妙に硬い保健室のベット。
とても居心地が悪くて何度も座りなおした。



「お互い痛い思いするだけだろ?」



鼻血を押さえていた、代えのティッシュをボックスごとポンと投げられた。



ちょこんと膝の上に乗っかっているボックスから、何枚かティッシュを取り出すと
鼻に当てている赤く染まったものと取り替える。



「3日間の停学だって。ま、お前は真面目すぎるから……たまにはいいんじゃないの?」



……本当に父親のセリフだろうか?



けど、そんなことにももう慣れた。
うちの父親はなんだか、周りの親とはどっか違っていて。

昔からあんまり父親という感じがしない。
見た目が若い所為もあるのかも…だけど。
未だに兄弟に間違われたりするし。



「そうだね……たまにはいいかもね」



しょうがないので、頷いてみた。



保健室の硬いベットに倒れこんでみると、勢いよく舞い上がる埃。
それが、窓から差し込む陽に反射してキラキラ、キラキラと光ってた。






■■■

「よぅ!ケイ。久しぶりだな」



右手を上げながら、近寄ってきて。
そのままガシガシと頭を撫で回す。



この人は昔からそうだった。
こっちの都合なんてお構い無しで。


ソファに座りながら、読んでた本。


あぁぁ、ほら、もう何処読んでたか分からなくなっちゃったよ。



「だいぶデカくなったなー。まぁ、類もそこそこでかいし。お前ももっと伸びんだろうなぁ」



なんていいながらも、なかなか頭を撫でる手を止めない。
この人は、オレの髪も自分の髪型と同じにする気なのだろうか。



うんざりしながら、されるがままになってると
やっと飽きてくれたのか、性格とは反対に繊細そうな指先を僕の耳たぶで止めた。



「お!なんだよ、お前。もうピアスあけてんのかよ!生意気だなぁ」



ゆっくりとなぞられたピアス。



「……ほっといてよ」



ツンと横を向くと、「……そーゆとこは類にそっくりだな」と笑われた。





幼い頃から、父親に瓜二つだった。
細めの体に、平均より長めの手脚。
薄茶のサラ髪に淡いグリーンの瞳。
まっさらの日本人なのになぜこんな色なんだろうと、何度も悩んだし、いじめられもしたけど。



いくら悩んだところで、色なんて変わるはずもなく。



こればっかりはしょうがない、と諦めた。



髪が茶色くて。
瞳がグリーンで、何が悪いのか、と。
開き直った。とも言うのかも。



諦めたのがよかったのか分からないけど。
中学に上がってしばらくすると、髪の色が落ち着きだした。
金に近かった髪が、オレンジになり。
オレンジだった髪が、茶色になり。



父親と反対で、真っ黒な髪の母親の遺伝子が今になって騒ぎ出したのだろうか。



相変わらず陽に梳けると、金に近い光度を発するのだけど。
オレには、これでも劇的な変化だった。



「周りは黒を茶色にして喜んでるのに。お前は逆なんだな」って父親にバカにされたけど。



幼い頃からのコンプレックスだったものが、一つ減ったんだ。
これ以上嬉しいことはないよ。





「しっかしお前、随分髪が黒くなったなぁ」



心臓がドキリと跳ねた。



ドカリと横に腰を下ろした父親の友人の為に、オレは少し左にずれながら


『この人は人の心の中が読めるんじゃないか』って考える。


幼い頃はいつもタイミングよくして欲しいことをしてくれたり。
助け舟を出してくれることが不思議で、尋ねたこともある。


そんな時は、決まってこう言うんだ。


『財閥の総帥たるもの、相手のキモチくらい読めなきゃやってらんねーんだよ』



「……道明寺サンは…今日…何しにきたの?」



くしゃくしゃにされたままの髪を、手櫛で落ち着かせながら呟いた。



「お前をからかいに来た。類から聞いたぞ。停学中だって?」



そう言って、笑う。



「……悩み事か?オニーチャン」



最後の単語とその後の意味ありげな含み笑いに、顔に血液が集中するのが分かる。



3ヶ月前にやってきた、ただ泣いているだけの小さな生き物。
イモウト。
真っ赤な顔をして泣く、頼りない存在。

息子の思春期に妊娠・出産なんて。
うちの親は何を考えてるんだろう、なんてことも思ったんだけど。
なんだか、らしい…ともいえる。


母親譲りの真っ黒な髪に、これまた母親譲りの意思の強そうな黒い瞳。
オレとは正反対に、母親の遺伝子をしっかりと受け継いだ妹。



そんな中、オレの中途半端な茶色の髪は……
髪だけでなく、存在すらも中途半端な気がしてくる。
中途半端な、息子。
中途半端な、兄……



「悩み事…じゃない……」



実際、悩みなんだけど……そんな簡単な言葉で表していいのだろうか?
けど、こんな風な中途半端な気持ちを表す言葉が上手く思い浮かばない。



思わず俯くと、読みかけのまま置いておいたハードカバーのページが風でパラパラとめくれた。



「じゃ、ただの反抗期か?」



ニヤニヤと、獲物を追い詰めるような目をして問う隣の意地悪な大人。
人生経験では断然、相手のが有利だ。



睨み返しても、ちっとも迫力がないらしく
じりじりと余計に顔を近づけられる。



ハーーーー。
降参。



オレは、ソファの背に体重を預けると天井を仰いだ。
この人には、特別に飾らない言葉でも……思うままを伝えた方がイイらしい。

ごくりと喉を鳴らすと、なにから伝えようか考える。
けれど、やはりなんて言っていいか分からない。



「……なんだか…なにもかもが、中途半端な気がするんだ」



とりあえず、これが今思ってる・・・こと。

髪の色も。
自分の存在も。

花沢ケイとしての存在。
花沢物産の跡取りとしての、オレ。


これからのオレの人生は、全て決まっているんじゃないか、っていう言い知れぬ苛立ち。


あぁ、そうだ。オレは本当はそれが怖かったんだ。



ほかにやりたいことがあっても寄り道すら許されず。
ただ、淡々と花沢物産の頂点へと昇るだけ。



人の足を引っ張ることしか考えてない世界。
いとも簡単に他人の人生ですら変えてしまえる権力。


真っ黒な……世界。



……そんなことを考えると…気が狂いそうになる。





この停学のケンカの原因。



『いいよな、花沢クンは。選択しなきゃならないことなんて、この先ないでしょ?
真っ直ぐ行けば、そのまま社長のイスがまってるもんね』
ニヤニヤとした嫌な笑いと共に吐き出された、クラスメートの言葉。



道明寺サンに説明しているうちに
棘をたっぷりと含んだ言葉をリアルに思いだして、思わず唇を噛んだ。





「俺が14の頃なんて……。気に入らないことあると、すぐ暴れてたけどな。
むしゃくしゃする時は、どんどん暴れちまえよ。すっきりするだろ?」



日本で一番デカイ……世界にも名が通ってる道明寺財閥の統帥が
いけしゃあしゃあと、こんなことを言う。



「道明寺サンと一緒にしないでよ。今回のだって、こっちが売られた方だからね。
オレからケンカしたくて絡んだわけじゃないよ」





花沢という、世界にも通用する名をもつ父親。
反対に、まったくの一般家庭出身の母親。



両方の血を受け継いでる、自分。



父の血を受け継いでるからこその……跡取り。
花沢の血────



普通の家庭の子供だったら、って何度か思ったこともある。
もし、そうだったら
あんなクラスメートの言葉にも過敏に反応したりしなかった……



「…ほんとお前は昔からどうでもいいことで悩むよなぁ」



こんなにも悩んでることを、「どうでもいいこと」なんていわれて。
むっとして顔を上げる。



「その髪の色だって。珍しい瞳の色だって、もっと自慢してやればいいんだ。
『どうだ?いいだろ!』ってよ」



「オレはそんなポジティブには考えられないからこんなに悩んでるんだ」



声にイラつきが混ざる。

と、なんで昔からの自分のコンプレックスを道明寺サンが知ってるんだ!?

驚いて目を見開いたまま、固まる。



「まぁな。悩みの重さなんて人それぞれだ。俺がどうでもいいと思っててもお前には大事。
お前がどうでもいいと思ってることが俺には大事だったりする」



寂しそうに笑う道明寺サンは、何かを後悔してるように見える。
オレの視線に気づくと、それを振り払うかのようににっこりと笑った。



「中途半端がイヤなら、完璧めざせよ。んで頂上まで行ってみろ」

「頂上?」

「そ。ただ、完璧なものの頂上てのは…意外にたいしたことないもんだ。
俺は…その頂上を見るために大事なもの、いくつか失くしたけどな……」

「失くしたって…何を?」



意味が分からずに、問い返すとオレの質問には答えずに
せっかく整えた髪を再びくしゃくしゃにされた。



「でも大丈夫だ。お前は牧野の息子だからな。途中で何が自分にとって大切なのか……気付くはずだ」



懐かしそうに。
それでいて眩しそうにオレを見る道明寺サンの視線を感じた。



「……オレは父親似だって言われるよ」



真っ直ぐにオレに伸びる視線から目が離せなくて。
オレもしょうがなく、道明寺サンを見つめ続けた。



「確かにな。外見は類にそっくりだ。けど……中身は牧野にそっくりだぜ?」



目を細めた道明寺サンは、なんだか嬉しそうに笑った。
まるで、オレが母親に似ていることが大切なことのように。



「ま、いいさ。大いに悩めやセイショウネン!!」



そういって、入ってきたときのようにさっさと部屋を出て行く。
青少年くらい、漢字で言って欲しかった。
なんて思いながら見送りもしないで遠ざかる足音を聞いていた。








「……司はいつもいいとこを持ってく」



ボソリとした声の方を振り向くと、父親がドアに寄りかかりながら唇を尖らせていた。



父親がオレの部屋に来るなんて、珍しい。
まぁ、状況が状況なだけに、様子ぐらいは見に来るか。なんて勝手に理由付けてみる。



「どしたの……?反省文なら、ちゃんと書いたよ」



父親は「ほんとにお前は真面目だな」って笑った。



「……俺からも一言言わせてもらうけど、好きなようにしていいからね」

「は?」

「別に真面目でも、真面目じゃなくても。中途半端でも、中途半端じゃなくてもいい。
お前が好きなように生きてゆけばいいんだ」

「好きなようにって……そういうわけにも行かないでしょう」
ため息まで一緒に出てしまった。

「そういうわけにもいくんだな、これが。だって俺も好きなように生きて来たもん」

子供のような言い方に、リアクションに困る。

「お前も俺の子供らしく好きなようにしな、ってことだよ」と付け加えられた。



家の名前を気にして、やりたいことを我慢するな、と。
自分の思うとおりに生きてゆけ、と。



そう言ってるの?



『つくしも俺も、おまえが幸せなのを望んでるよ』
最後にそう呟かれて。

幼い頃、何度も何度もされたように
コツンと額をあわせる。



もうこんなことされる年齢でもないんだけど。
最後の言葉がやけに胸に響いて。
大人しくされるがままになってた。



小さな頃、すぐに母親をオレから奪ってゆく父親が大嫌いだったけど。
不思議と、父親とのこのコミュニケーションが大好きだった。



目を閉じるだけで、簡単に思い出せる。
ゆっくりと抱き上げられ、前髪をふわりとかき上げられて。
父親の額を重ねられる。
ゆっくりと温もりが移動して。
それと一緒に安心感も注ぎ込まれる。



そうしていると、母親がオレごと父親を抱きしめて。
とろけるような幸せを感じてた、あの頃のことを



思い出した。







「どうしたの…?なんだか父親みたいだよ」

照れくさくて、憎まれ口を叩いてみるけど。
やっぱり、彼は彼のままで。

「たまには、父親らしいことするんだよ」

なんて、言われた。











中途半端でも、邪まな感情があっても。



オレが花沢の血を受け継ぐ子供であることは変わりはない。



でも、花沢の息子である前に、あの両親の息子なんだ。
それがなんだか、とっても嬉しかった。


……一般家庭に生まれてれば、もっと嬉しかったんだけど。
この際それは置いておこう。



「好きなように……やってみるよ」



ぶっきらぼうに、口にしてみる。
しかも、窓の外を眺めながらだけど。



すごい感謝してるんだ。



なんにも分かってないようで、なんでも分かってるオレの周りの大人たち。



もっと上手に、ありがとう、と伝えられたらなぁ、なんて思う。





「……父さん」

「…めずらしいね、ケイが俺の事『父さん』なんて呼ぶの」

「……オレだってたまには、子供らしいことするんだよ」



さっきの父親の口調を真似してみたら、頭を小突かれた。



「今度、道明寺サンに『セイショウネン』って漢字で書けるか聞いといてよ」

「司に?なに突然」

「別に…気になっただけ」

「ふーん。ま、いいけど。おそらく書けないと思うけどね」








あと何年かして。
世の中のいろんなことを見て。いろんなことを感じて。
それで自分の歩むべき道を見つけたら。





道明寺サンに「セイショウネン」の漢字を教えてやろう。
オレの大切なものが何だったのかを教えてやるついでに。
たった、14のガキの悩みを真剣に聞いてくれたお礼に。


そのときは、きっと素直に「ありがとう」と伝えられる。そう思うんだ。





おしまい




2005,4,16   momota




だーかーらー(T▽T)長いっちゅーねん!!
なんでーーー!?なんでいつもこうなるの!?
しかも、もっと言いたいことまとめてから書こうよ、あたし・・・(涙)

つくしもだしてあげようよ。
って、つくしはケイの妹の世話でヘロヘロだろうってことで・・・ま、いっか(笑)


・・・ん?妹・・・?
あ、そうか。
ケイくんは「赤ちゃんがえり」でちゅかー?
そんで、イライラしてたんでちゅかー?


このお話は、ケイくんの赤ちゃんがえりのお話ですね!
よかったよかった!←オイこら。



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