SKY GARDEN
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Scene16
*****





「ねえ、絢さん。愛の次って…なんだと思う?」

「は?Iの次は、Jでしょ?」



きょとりとした彼と十分見詰め合ったあと、彼はたまらないというように噴出した。
わけの分からないあたしは、そのままゲホゲホと面白いほどにむせてる彼を見守るだけだ。



「いや、アルファベットの話じゃなくてさ…」



笑いを無理やり押さえ込んでる所為で、引きつる頬を隠しもせずあたしに優しく諭すように問いかける。



「恋愛のハナシ。恋から愛。んで、愛の次はなんだろうって思って」



まさか、んな数十年前のオチで返されるとは思わなかった。と、あたしにとっちゃ一言多いセリフまで残された。



「……そんなの知らないわよ。その先なんていったことないもの」

「そうなの?じゃ、俺が初めて?」



やけに嬉しそうににやける彼を前に、あたしは無言で目の前のお弁当に手をつける。
さっさとコレを平らげてしまわないと、ランチタイムが終わってしまうのだ。


あたしは、愛よりも目の前のお弁当のほうが大事なのかも。


なんて、思わず考えてしまうのだけど。


愛はなくとも、生きていける!
けど食料がなくては、生きていけないもん。


無駄な励ましに聞こえるけど。
こんな答えづらい質問してきた、ヤツが悪い。ウン。


箸を一生懸命動かすことで、無理やり恋愛論を終わらせようとしていたあたしに呆れたのか、ケイは溜息をこぼした。


「絢さんさー。学校行ってるとき…勉強ばっかしてたでしょ」


カチンときた。
悪かったわね、勉強だけが取り柄で。
なので、あたしもチクリと一言。


「当たり前じゃない。学校は、勉強するところでしょ?」


きょとりとした瞳が、幼く見える。


「俺、寝てばっかいたよ?」


まるで昔を偲ぶように、淡い色の瞳が遠くを泳いだ。
その瞳はたっぷりと柔らかさを含んでいて、ああ、幸せな思い出があるんだ、と思う。


……なんとなくは、想像がつくけども。
けれど、そんな彼を……見てみたい、と思う。


つまらない授業に、耳を傾け、
ふわりとあくびを零して、校庭を眺める。
たまに、珍しくノートを取ったりなんかして。
それを、お友達に突っ込まれたり。


今より、幾分幼い彼も、きっと瞳の色は同じで……
風にたゆわせる前髪も、もっと短かったのかな。


ああ、彼の過去が欲しい、と切実に願う自分がいる。


どんな人と出会って。
どんな人と友情を築いて。
どんな人と恋に落ちたの―――?







ふわりと空気の流れが、頬に当たる。
あたしはどんな顔をしていたんだろう、目の前に戸惑うような彼がいた。


「ごめん。意地悪で言ったんじゃないんだ」


戸惑い顔のまま、あたしに手を伸ばした彼の腕を素直に引き寄せた。


「違うの。別にキミの所為じゃないよ」


うん、別にケイが悪いわけじゃないんだ。
彼の過去が欲しいなんて、無理な話だもの。


おぼっちゃまのくせに、なぜか庶民的な彼はきっと英徳では浮いていたんだろう。
それでも、周りには人が絶えなかったような気がする。


こんな居心地のいい、空気を出す人だもの。


それが、あたしと正反対で。
羨ましく思う自分が、情けないやら、恥ずかしいやら。


「……ごめんね?」


申し訳なさ気に、あたしを気遣う彼はやっぱり愛しい存在で。


「だから、違うって。キミの所為じゃないって言ってるでしょ?」


これは、あたしの独占欲。


「でも、絢さん……今にも泣きそうな顔してたから。好きな子は泣かせるなって、散々母親に言われて育ってさ…ってそんなことはいいんだ。 絢さんに泣かれると……ほんともう、俺すんごい悪い事した気になっちゃって」


ふんわりと包まれてる彼の温かさに、ずっとこのままでいたくなる。
愛しい存在の温かさは、なんて心地いいんだろう。
ゆるゆると伝わる、お互いの体温。
そんな距離に今いれることが、考えられないくらい最上級の幸せだ。


「んでさ。話は戻るんだけど。そろそろ、恋から…愛に進展してみない?」


さっきまでの心配顔はどこへいったのやら。
どうせ、意地悪な笑みでもこぼしているんだろうと、顔をあげると
意外にもまじめな、グリーンの瞳にどきりとする。


「てか、あたし……キミといつのまに恋に進展してたの?」

「やだなあ、絢さん。そんなのとっくの昔、だよ?気づかなかったの?」


もちろん、少しは自覚はある。
……少しっていうか…最近じゃ、あたしの方がはまってしまってるんじゃないか。なんて思うこともたくさんだ。

けどけど。
今まで恋愛をなるべく遠ざけてきた分、あたしには恋の状態だけでいっぱいいっぱいだったのに。


恋に変わった瞬間から、あたしの世界は彼でいっぱいなのに。
コレが愛になる?愛ってなに?しかも愛の先?

ああ、考えただけでもおかしくなりそうだ。
こんなにも、こんなにも、ケイでいっぱいなのに。


いっぱい過ぎて、窒息しそうなくらいなのに。


数分前には愛よりも大事だった目の前のお弁当すら、食べる気が起きない。


……そうだ。
愛はなくとも生きていける。
けど、あたしにはケイがないと生きていけないんだ。


「わかった!愛の次。ケイだ!」


目の前で思い切りたたいた掌。
パシリとした乾いた音に驚いたような彼が、瞬きをゆっくりしたあと
呆れたような口調で、呟く。


「だから、アルファベットじゃなくて。しかもKじゃないし」

「違う!キミのこと。愛の先には、ケイがいるんだよ」


きょとりとする、淡いグリーンの瞳。
いつもは彼に瞳を見つめられるのが苦手だった。
なんだか、心の奥まで覗きこまれそうだから。


だけど、今は違う。
じっと彼の瞳を見返した。
覗きこまれると困っていた心の奥は、今あたしが口にしたことすべてだ。
もう何も隠すことなんて、ないんだ。


ケイがいてくれるから、あたしが存在する。


この歪みきった世界だって、ケイ一人がいるだけで私には十分だ。


「なーんか、嬉しいこと言ってくれてますけど」


本当に嬉しそうに笑顔をこぼす彼を見ていたら、思わずつられてしまった。
それを見た彼がまたはにかんだような笑顔おとす。
ああ、幸せの連鎖だ。


「あたしも愛の先が分かって嬉しい。しかもものすごく納得できた」


あたしのこれからには、ケイしかいないって気付いたから。
ストン、と心の中に落ちて染み込んでいった感じ。

けど、言葉の意味がじわじわと染み込んでいった分、それがとっても大胆な言葉だって気付く。
その途端さっきまで見れていた彼の瞳が、急に恥ずかしくなって思わず目を伏せた。
そのままもじもじと俯く。


「急に照れないでよ。オレまで恥ずかしくなる」


ちらりと見上げると、赤い頬でほわりと緩む彼の口元。
それがあまりにも可愛くて……、思わず自分のそれを近づけた。


遠くて近い未来。
キミの隣で歩いているあたしを、想像しながら。




おしまい。


2011,11,8       momota




もー、あっぷあっぷだ。あっぷあっぷ過ぎる!!
語彙が出てこないっ!!
イメージでは浮かんでるのに、文章にできない!!!
昔もこんなことあったなあ、と思いつつ、限界まで頑張ったのでUPしちゃう。てへ。

てか、私、女の子からの思わずの「ちゅ」が好きなんだなあと実感(苦笑)



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