SKY GARDEN
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Scene15
*****
『気に食わないことがあれば、大暴れしてみろよ。すっきりするぜ?』
父親の友人である道明寺サンは、いけしゃあしゃあと
「そんなの普通だろ?」なんて顔で、口にした。
14のときに言われた言葉だけど。
25になった今でも、ちっとも理解できない。
もちろん、暴れればすっきりはするだろう。
何も考えずに、自分の思うがまま行動したことなんて…
片手で足りるほどしかないし。
けど
暴れたあとの片付けのことや、周りのひき度を考えると
そんな気を使ってまで暴れて、余計疲れるだけだと思うんだけど。
そこまで深読みしてしまう自分のほうが、おかしいのだろうか。
「ね。絢さんはさー。大暴れしたいな、って思ったことある?」
絢さんは一瞬きょとりとして、目に見えないくらいの速さで動かしていた両手を止める。
ほんの少し上を向いたまま、ちろりと視線だけをオレに向けた。
「……しょっちゅうあるんですけど」
……。
なんだよ、その目。
やっぱり、そんなことしたいと思ったこともないオレの方が、おかしいのか?
「キミは……ないの?」
「ない。だって、暴れた後片付けとかめんどくさくない?」
至ってまじめに答えたつもりなんだけど。
絢さんは、笑いをこらえる事ができない様子で咳き込む。
「キミはホントに花沢物産の、御曹司なの?」
ハアハアと、呼吸を乱しながら自分の胸元を撫でる絢さんに
オレはむっとした視線を向けた。
「後片付けぐらいしてくれるお手伝いさんとかいたでしょう?社食にさえくるのを拒まれるおぼっちゃまなのに」
俺たちの記念すべき出会いを、こんなとこで引き合いに出さないで欲しい。
それでも、彼女の中でもちゃんとあのときのことが(といっても、付き合うようになってから何度も聞かせたからなんだけど)
残っている事が、ちょっぴり嬉しかったりする。
「自分のことは自分で。これ、うちの母親の育児のテーマのひとつ」
うちの母親は、普通の家庭で育った所為か
できる限り、オレを普通の家の子と同じように育てたかったらしい。
散々、おじいさまともめたらしいけど。
これだけは、絶対に変えようとはしなかった。
『いい?ケイ。自分でしたことの後片付けは、自分で。それに自分できることは、できる限り自分でしなさい。みんな一人で生きてるわけじゃないから、助け合うのはいいことだと思う。けど、ただやってもらうだけって無責任だよね?だから自分でできることは自分でやろう?』
幼い頃、何度も言い聞かされた。
もともと、あまり人に頼るのが苦手なほうだったので特に違和感なく受け入れられた。
けどさ。
今、思うのは。
大事な人には、もっと頼ってもらいたいってこと。
絢さんは、なんでも一人で受け止めすぎる。
今だって、絶対こんなの今日中には終わらないだろう、って思われるデータ処理の仕事でてんてこ舞いで。
絢さんの後ろのデスクの中に納まっていた椅子を取り出すと、そのまま腰を下ろす。
背もたれに肘を置き、頬杖をつきながら彼女の真後ろへと回った。
「ね?絢さん。オレ、手伝おうか?」
「ん?大丈夫だって。コレはあたしの仕事」
大したことないように返ってきた言葉に
分かりきっていた答えだけど、なんだか絢さんらしくて笑ってしまう。
「なによ。キミのお母様だって言ってるでしょ。『自分のことは自分で』あたしも大賛成」
再び、両手を超高速で動かす絢さん。
「オレ、いないほうがいい?」
別にイヤミでもなんでもなく。真剣に仕事をこなしてる彼女に申し訳なくて聞いただけだったんだけど。
ぴたりと指を止めた絢さん。
「……仕事は手伝わなくていいけど。……いてくれたほうがいい」
ボソリと呟くような声で零された不意打ちの言葉に、思わず頬が染まる。
気に食わないことがあったわけじゃないけど、むしろ嬉しいことがあったんだけど 大暴れしたいような感覚に陥る。
「……ね、絢さん。大暴れってわけでもないけど……オレ、今、思ったこと行動に移していい?」
「…な、に」
返事を聞くのさえ待ちきれなくて、そのまま椅子ごと絢さんを振り向かせて
思いっきり抱きしめてみた。
突然の行為に、固まってる絢さん。
その横で、勢いで倒れた彼女のお気に入りのマグカップ。
規則的に滴る水音に、暴れる絢さんを力づくで抑え込む。
手足を泳がせつつも、次第に大人しくなってきた耳元で、こっそりと愛の言葉なんぞ囁いてみた。
瞬時に赤く染まった頬に、調子に乗ったオレはつい余計なことまで口にする。
「絢さんのほうが、いい暴れっぷりだね」
数十分後、ぷりぷりと怒りをしたためつつ仕事をこなす絢さんを横目に
赤い線の残る頬を気にしながらマグカップを片づける。
そして、やっぱり、思いつきの行動はだめだと反省した。
おしまい
20011,10,14 momota