SKY GARDEN
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Scene13
*****





「ご、ごめんね?絢さん」

不意に届いた申し訳なさ気な響きに、悪戯にフォークで弄んでいたプチトマトから慌てて顔を上げると
声のトーンと同じ表情の彼。



「なんで、キミが謝るの?」



別に、彼に非があるわけじゃないのに。
午前中、仕事でちょっとトラぶって。
それを関係のない今にまで持ち込んで、いらいらしてたあたし。



「え?だって、絢さん不機嫌そうだから……」



「あたしが不機嫌なのは当たってるけど、それキミの所為じゃないよ?なんで自分に理由がないのに簡単に謝るの?」



一気にまくし立てたあたしにびっくりしたのか、彼はあたしの顔をきょとんと見つめる。

ごめんね、をいとも簡単に口にする彼に腹が立ったんだ。

午前中のトラブルの原因も、『謝罪』がうまく出来なかったから。
大人になって、謝りたくないときだって頭を下げなくちゃいけないこともある。
分かってるつもり。
だけど、どうしても今日は謝罪しなければいけない理由に納得がいかなかった。
上司には、「それはオマエの我がままだろう?」と窘められた。
「先方にはとりあえず、謝っておけ」と。

とりあえずってなんだよ、とりあえずって。

再び湧き上がる、イラつきの感情。

グッと見上げると、ケイは困った顔をしていて。
ケイには関係ないのに、こんな顔をさせてしまった自分にも腹が立つ。

しょんぼりと、俯く彼。
いつもはキラキラしている瞳を惜しげもなく晒しているのに、伏し目がちのせいでそれも隠れてしまって。
大好きなそれを見れなくなって、初めて気づく。



あたし最低。
こうやって、素直に謝れるのがキミのいいところなのに。
『ごめんね』をけして軽く言ってるわけじゃない。
気づかないところで、嫌な思いをさせてしまってるんじゃないかってまず自分を責めるのを知ってるから。

素直に、ありがとうやごめんなさいが言えるキミに憧れてる。
これホントだよ。



「……ごめん、か…」



別にイヤミじゃない。無意識に出た言葉。
その言葉に、ケイはまた傷ついたような顔をする。
それは、自分の言動があまりにも幼すぎることを思い知らされて。
そのままむくむくと羞恥心だけが、浮かび上がった。


相変わらず訳が分からぬまま、しょんぼりと時間を止めてる彼を見てると
いてもたってもいられなくて、無言で立ち上がる。

だめだ。
あたし、これ以上ここにいたらもっとケイを傷つけちゃう気がする。
罪悪感で押しつぶされそうなあたしは、ここから逃げる事ばかり考えていて。

そんなことばかり考えてた所為か、無意識にテーブルの上に広げられたお弁当を片付け始める。
まだ途中だったけど、これ以上なにも喉を通るはずもなく。
キュ、っとナプキンを結ぶとカバンにしまった。

ケンカしてるわけじゃない。けど、気まずい雰囲気は間違いない。
全部あたしの所為なのだけど。

「じゃ……また」

都合のいい、さよならの合図。
一度も視線を合わせることなく、そのまま専務室の扉まで駆け抜ける……



つもりだったのに。



引かれた腕の所為で、そのまま彼の胸に飛び込む羽目になった。
常に優しさしか見せない彼の、時たま起こす男らしさ。

あたしには、優しさをくるんだようにしか触れないから……
こういった乱暴な仕草に、心臓が爆発しそうだ。
華奢に見えるのに、実際はだいぶちがくて。
いつもより、グンと近くに感じる彼のコロンの香り。



「ちょっとまってよ」



彼の体から直接耳に届く、声。
あたしは顔を上げることができなくて。
ゆっくりと、俯いたまま彼の胸から顔を離した。
うつむいたままのあたしを気遣ってか、ほんの少し腕の力を弱めると
柔らかく告げる、優しい理由。



「俺怒ってないよ?こんな気まずいままで、離れたくないだけ」



ずるい。
ずるいよ。
こんなときまで、優しいなんて。



子どもを諭すように、ゆっくりと告げられた言葉。
いつもとは逆な関係に、尚更情けなくなる。



八つ当たりして。
ケンカ売って。
散々、彼のこと「お子様」ってバカにしてるけど。
お子様は、どっちだっつーの。



「……ごめん…なさい」



ケイに教わった魔法の言葉。
ココで使わないで、いつ使うんだっての。
心からの、『ごめんなさい』

今、だよね?

いつのまにか、
傷つかないよう。
舐められないよう。

自分を守る言葉ばかりを選んできたあたしには、少し照れくさい。



「ハイ、どういたしまして。……は、変か」
「変…だよ」



大好きな彼の笑顔に、口元が緩んだ。
今までずっと下がってた、口の端。

不細工なままの表情を、キミには見せたくないから。



あたしは、笑う。



少しづつ、少しづつあたしを解いてくれる彼。
本当はすごく感謝してるんだよ。
彼に会ってから、人間関係がスムーズなのも。
仕事でのミスが少なくなってきてるのも。
彼の、いいな…って思うところを真似してるから。



「珍しいね、絢さんが素直に謝るなんて」

からかい気味の口調に、思わず口を尖らせた。

「……あたしだって、自分が悪いと思ったときは素直に謝罪ぐらいするのよ?ケイくん」



きょとりと固まった淡いグリーンの瞳。
あれ?あたし、変な事言った?
今までの会話をさらりとおさらいしてみるのだけど、特に変な事言ったつもりはない。



あたしが首をかしげたのを合図に、彼はくるりと何かを取り繕うように背を向ける。
そのまま彼の言葉を待つのだけど、いつまでたっても彼のワイシャツを眺めてるだけ。



あたし、何か気に障ること言っちゃったのかな。



彼の名を呼び近寄ろうと一歩を踏み出した途端、



「まって!絢さん、それ以上近寄らないで!!」



拒絶の言葉。

それでも急に雰囲気が変わった彼を、放っておくなんて出来ない。
あたしもさっきの彼のように、思い切り腕を引いた。


目に飛び込んできたのは、指の間から覗く、赤く染まった頬。
白すぎる頬に赤みを映したまま、視線すら合わせてくれない。


「ちょ、ちょっと!なんで?熱でもあるの??」


あわあわと、彼の薄茶の前髪をかき上げて額に掌を当ててみる。
大人しくされるがままのケイに、あたしは自分の掌を彼の頬に当ててみたり、
熱く熱をもつ耳たぶを、冷やしてみたり。



「……ちがう」
「じゃ、なんで?どうしてそんなに真っ赤に―――


あたしの言葉にかぶさるように、ふて腐れて告げられた言葉。


「ずるいよ、絢さん。急に名前呼ぶんだもん」


なにがずるいんだか。
やっぱり、まだまだお子ちゃまだ。
なんとなく得意顔になって、ケイを見上げる。
そんなあたしに気づいた彼は、あたしの大好きな淡いグリーンの瞳を揺らす。



「でもさ。俺、どんな絢さんでも、好きだから。怒ってても。笑ってても。不貞腐れてても。泣いてても……
絢さんの全部が、好――


突然の告白に、彼の口をあたしの両手で塞いだ。
掌の下では、柔らかな彼の口唇が言葉にならない音を零しながらもごもごと動く。


「……ごめん。ケイ、それ以上言わないで。あたし、恥ずかしくて死にそうだから」


今度は、あたしが視線を逸らす番だ。
たぶん。いや、絶対さっきのケイより顔が赤いと思う。

早くこの赤みを消そうと、どうでもいいことを考えるあたしの頭。
それなのに、浮かんでくるのはケイのことばかりで。


見上げたケイの瞳の中に、居場所を見つけられないあたしが映っていた。
感情を上手く処理できない―――けれど、素直な自分。


そんなあたしの両手を優しく解くと、「絢さん、謝るの上手くなったね」と、笑った。


「それは……褒め言葉…なの?」


訝しげに問うあたしに


「そう思っとけば?」


大好きなグリーンの瞳。
それが優しく揺れた。







『ごめんなさいとありがとう』は、魔法の言葉なの。
簡単よ、仲直りするにはこれを言えばいいだけなんだから――――


花より男子完全版17巻 つくし





2008,2,11   momota




ごめんなさいとありがとうは、大事なんデス。ハイ。
絢さんと早くイチャイチャしたいから、ケイくんはごめんねを言ってるわけでは
ありません(笑)
ええ、けして違います。



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