SKY GARDEN
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Scene12
*****





こんな凍えそうな寒空なのに、歩道橋駆け上りながら汗かいてるのなんて……
絶対あたし一人だと思う。
無駄にへこみながらも、あたしは足をとめることは出来ないで、彼の元へと向かう。



緊張と焦りで、脳みそフル回転してる割にはちっとも肝心なことには働かない頭。
あれこれ考えてもみるけど、やっぱり行動に移さない事にはなんにも始まらないし。



結局あたしは走ってる。



前方から来る人の左肩に思い切りぶつかった。
謝りながらも、あたしは走るのをやめない。



だって、間に合わない。



ああ、泣けてくる。



なんで泣けてくるのか。
そんなの自分でも良く分かってない。



『絢さんは、泣き虫だよね』



ずっと前に言われた言葉。
暢気に微笑む、彼の顔が思い浮かんだ。
そのうち、茶色のサラ髪からにょっきりとんがり触覚が伸びてきて。
暢気な笑顔も、裏がありそうな……悪巧みの笑顔へと変わる。



絶対、いじわるだ。
そうとしか考えられない。
あたしがこうして泣きながら走ってる原因を、無理やり彼のせいにしてみるのだけど
やっぱり決まりが悪くて。
悪巧みの似合わない彼の笑顔を、打ち消した。



今度は下りになった階段。
ほんの少し気にしながらも、勢いのついたスピードを止める事ができない。

案の定、数段だったけど踏み外して膝をつく。



「ったあ……」



あまりの衝撃に、おそるおそる膝をみると
ゆるゆると広がる、赤い染み。
厚手のタイツなのに、ぽっかりと広がる穴。



ああ、もう。
ゆっくり立ち上がると、あたしはまた階段を駆け下りる。
今度は、少し苛立ちを混ぜながら。



歩道橋から見る周りの景色は、細やかな星屑を散らしたようで思わず息を呑むほどだったけど。
こんなん一人で見たって……



誰とだったら、見たいのか。
もう、誤魔化したりしない。



ケイ、キミと一緒がいいんだよ。






世間は、クリスマスイブで
やっぱり回りも、カップルばかりなんだけど。
それは別にいいんだ。
カップルでもカップルでなくても、隣にいて欲しい人がいてくれてるとは限らないし。
















   『星野さん?ケイ、そこにいる?』



30分ほど前突然、携帯にかかってきた亜門さんからの電話。
あたしは意味が分からないで、問い返す。



   「ハイ?いませんけど。何で?」

   『そっか。うちのわがまま坊ちゃんと連絡取れなくってさ。あの野郎、携帯電源切ってるな』



専務を、あの野郎と言っちゃうのもすごいと思うけど。自分の役職を分かっているのか携帯の電源を落としちゃうケイもすごい。
緊急の連絡があったら、どうするんだろう。



   『イヤ、今日あいつ誕生日だから、てっきり星野さんと一緒だと思ってさ。ごめんね、突然。ほかあたってみるわ』



かかってきたときと同じように、一方的に切られた電話。
あたしは、そのまま固まる。
今日、誕生日?誰が?ケイが?



あたしは絡まる思考のまま、無意識にケイの携帯を呼び出す。
電源を切ってるはずの彼の携帯は、いとも簡単に呼び出し音が鳴った。



あれ?
繋がるじゃない!
って、あたし彼に電話をして何を言うつもりだったの?
驚いてるこちらのことなんて知りもしない彼は、何時も通りの暢気な声を発した。



『あれ?絢さん?どしたの?』

「どこ!今、どこ!!!」



電話の向こうのほんの少し弾んだ声とは反対に、突然叫んだあたしに、怯えるように口にした場所。
―――表参道。



よし!ここから、30分もあればつく。
彼のいるところを再度確認すると、あたしはお財布だけを持って、家を飛び出したんだ。



声を聞いた瞬間、確信したから……。
言いたい言葉があるってことに。
それは絶対に伝えなきゃいけないことだったから。
















痛んだ膝を庇いながらも、どうにか表参道に到着。
きっと、ケイはお気に入りのカフェにいるはず。

でも、もしかしたら一人じゃないかも。

なんて。



誕生日だもん、ありえる。
けど。
けどね、あたし。
ただ、伝えたいだけなんだ。
もし、誰かほかの女の子と一緒でも……一言伝えられたらそれでいい。
自分がこんな女の子な考えをするとは思ってなかったけど。



見慣れた、姿。
視界の端に捕らえたサラ髪に、心臓がどきりと跳ねた。
どこにいても分かる気がする彼のオーラ。



おろおろとしてるのは、あたしの気のせいだろうか。



何度も携帯を取り出しては、チェックしている横顔が不安げだ。
もしかして、あたし?
携帯を家においてきてしまったことに、今気づいた。
何度も、電話をくれたのだろうか。
とにかく、彼が一人でいることにほんの少しホッとする。



そうだよ。
彼はあたしにベタ惚れだ。


もともと浮気するようなタイプでもないし。


安堵感とともに、自信が戻るのがちょっと笑えた。
なんて単純なんだ。



「ケイ……」



人の流れに逆らうように、あたしを見つめ
歩道の真ん中できょとんとした、彼の顔は一生忘れないと思う。
ためらいがちに呼んだ彼の名前は、まわりの喧騒でかき消されてしまったかも。



「あ、絢さん……どしたの?コートは?」



初めて呼んだ、彼の名前。
本当はもっとロマンチックなシーンで呼びたかったけど。
半べそで。足は血だらけで。髪を振り乱し、メイクだってほとんどすっぴんに近かったし。
ほんとに「どうしたの?」だ。



それでも、あたしの薄着を気にしつつ彼はふわりといつものような笑顔を零すから。
ついさっきまでの自信も、ほろほろと崩れ去る。
この笑顔。
この笑顔が、いっつもいっつもあたしを弱くする。



「だ、だって。だって、キミ、今日誕生日だって……亜門さんが……携帯……」



単語しかでてこないあたしの、言い分。



「ちょ、ちょっと!絢さん、ホントどうしたの?」



慌ててあたしに駆け寄った彼に、あっさりと全身を包まれて。
ポンポンと軽く背中を撫でる掌は、
それがまた、優しすぎて暖かくて余計に泣けてくる。



でも、ちゃんと、言いたい。



「おたんじょうび、おめでとう…って。絶対……今日中に言いたかった…のっ」



ぎゅっと、彼に回した腕。
握ったままだった掌を、そっと開く。
掌から伝わる感覚は、間違いなく彼の体温。
静かに伝わる、ぬくもり。



「なんで教えてくれなかったの?」



ケイに逢えた嬉しさと、ちゃんと伝えられた安堵感で声が震えがちで。
なみだ目で。上目遣いで。
こんなの女の武器を利用してるみたいでいやだったから
あたしは急いで、再び彼の胸元へ顔を埋める。



「だって……絢さん、聞かなかったじゃん」



「自分から誕生日言うのも、なんでしょ?」と、困ったように笑う。
しかも、俺の誕生日イブだし絢さんに先客入ってたらへこむもん。と付け足した。



たしかに、そうだけど。
そうだけどっ。
いつも、強引な子どもっぽさで責めてくるくせに。
肝心なところで、遠慮してどーすんのよ。





誕生日って、特別じゃない。
自分がこの世に生まれて
光を全身に浴びた日。



いつのまにか、こんなにキミのこと大事になってて
こんなに愛しく思い始めてて。



キミと出会えたことに、今世紀最大の感謝をしたいくらいなのに。
お礼くらい、言わせてよ。





――――生まれてきてくれて、ありがとうって。








「大事な日は、一緒にいたいよ」



独り言のように呟いただけだったのに。
ぎゅっと、強く抱きしめられて。あたしも、それに応えるべく抱きしめ返す。



「……ごめん」



ああ、なんて声で呟くんだろう。少しかすれ気味な言葉に含まれてる響きに、また胸がいっぱいになってしまう。
あたしが勝手に怒ってるだけで、彼が謝ることは正直的外れだとはおもうんだけど。



「俺も……ホントは今日一日ずっと、絢さんに会いたかった」



何度も何度も携帯取り出して、絢さんのメモリー見てたんだ。なんて、赤い頬で白状されて。
これまた懲りずに、何度も打ち抜かれる心臓。



もう!だから、それ反則だって!



ほんの少し頬を膨らませながら睨むと、困ったように微笑む彼に、あたしは膨らんだ頬を緩める。



「なに笑ってるの?」



優しく問われて、笑みで答えると冷たい指先でふにっと、頬をつままれた。
意外にも冷たい彼の手は、ゆっくりとあたしの熱を奪って。
あたしの頬と、彼の指先。
ゆっくりと体温が混ざり合う。



それが無性に嬉しくて。
互いの熱を移し合うだけで、こんなに幸せになれる。



「絢さんが初めて名前呼んでくれた。すげー、うれしいんだけど」



そう言って得意げに笑う彼の横顔が、大人なのか子どもなのか。
昨日とは違う、1つ年が近くなった彼。



改めて、お祝いを告げると



「絢さんに、少し近づけた」



それが一番嬉しいんだ、と告げられた口唇に
胸の奥の甘い痛みだらけの感情をどうすることもできなくて、初めてあたしからキスを落とした。



それは
彼が望んでいたような、熱いキスではなかったけども―――。








柔らかな視線を絡ませたあと、恥ずかしそうに呟いた彼。
「もっかい、名前呼んで……」
ケイの甘い囁きを塞ぐように、あたしは彼のリクエストと今日2回目の優しいキスを送った。








おしまい。


Happy birthday & Merry christmas!!





2007,12,22 momota




亜門、よくやった!!(笑)
ケイくんのお誕生日は、イブだったりします。


がびーん。
自分で、なんか嫌な予感したんだよね……(しょんぼり)
私ってば前作(11)で、もうすでに絢さんに、ケイくんのこと「ケイ」って呼ばせちゃってたよ!
へーたーこーいーたー。
でででん、でででん、でででん、でででん、そんなの関係ねえで済ませられない出来事なので(笑)
今、加筆修正してきました。(Scene11)
ぐわー、もう来年はこんなヘマしませんように(祈)
2007,12,23  momota



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