SKY GARDEN
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Scene11
*****
「そういえば、絢さんが去年くれたチョコレートって……こーんな小さいやつだったね」
指先で小さな四角を作りながら、ふと思い出したようにポツリと口にした彼は
すわり心地のよさそうな椅子に腰掛けたまま、くるりとあたしと向き合う。
「それ…イヤミ?」
デスクを挟んでいたけれど、あたしと彼との距離は1mほど。
いつのまにか、こんなに近くにいるようになった。
いつのまにか、彼といることが自然になった。
そんなふうなことを、ぼんやりと思う。
「違う違う!」
思わず思考を止めてしまったあたしとは逆に、慌てて両手を振る彼はまるで子どものようで。
思わず苦笑してしまった。
「すごく、嬉しかったんだ――――、絢さんのこと、大好きだったから」
「……去年、聞いた」
コホンと、軽く咳払いをして
赤くなりそうな頬を落ち着かせようと、あたしたちの唯一の時間である、ランチタイム後のコーヒーを引き寄せる。
そんなあたしを全部お見通しのように、苦笑しながら自分も手の中のコーヒーに口をつけるケイ。
ただそれだけの仕草が、泣きたくなるほど愛しく感じる。
きっと、これはあたしも恋をしてる証拠。
いつもキミには「証拠をみせて」って言われるけど。
こんな感情、どうやって伝えたらいいのか……分からないんだよ。
カップに落としていた視線を、ゆっくりと上げたケイと視線が絡む。
「……なんか、言った?」
淡いグリーンの瞳をくるりと揺らすと、あたしの腕を軽く引く。
驚いたあたしのカップからは、ぴしゃりとコーヒーがこぼれた。
「ちょっと!急になにするのよ!」
デスクの上に零れた黒い液体をぬぐう物を、慌てて探そうと腰を上げようとした瞬間、再び腕にかかる引力。
「こんなん平気だよ。それより、俺は今聞き逃したことのほうが大事な気がする」
デスクの上で、がっしりと捕まれた腕。
あたしと彼の繋がった場所からは、熱が発してる気がするほど熱い。
それ以上に、まっすぐに向けられた視線に、思わず怯んだ。
こ、この勘というか…第六感的なものはいったいなんなんだろうか。
すべてを見透かされてるようなこの視線から逃れたいのに……
彼の強さを含んだ視線から逃れる事ができない。
だって、それはとても悪いことのように感じるから。
視線を逸らす事がとてもいけないことに思えるのは、いつだってケイが真剣に向き合ってるのが分かるから。
「あ、あたし何も言ってないけど……」
おろおろと、机に零れたコーヒーと彼の瞳を交互に見つめる。
黒い艶やかなコーヒー。
淡いグリーンの憂いを秘めた瞳。
どちらも共に、滴るような輝きがあって。
ぐるぐると、半分パニックになってるあたしはソレに飲み込まれそうに、なるんだ。
「言ってないかもしれないけど。俺には聞こえた」
な、なななにがですかーーーー。
「『あたし、花沢クンのこと…好きだな』なんつって、思ってなかった?」
心臓が、ばくばくと高鳴る。
血液が、顔に集中するのが分かった。
しかもあたしの口真似をした彼に突っ込みを入れるべきなんだろうけど
今は、そんなことも頭から零れ落ちていて。
どうやって、誤魔化そうかと、そればかり考えていて。
「お、おおおお思ってないって!!!」
あぁ、こんなんじゃバレバレじゃないか!
「ちぇーっ。なんだ。残念!」
見るからに元気がなくなるケイを尻目に、あたしはきょとりと瞳の動きを止めた。
え?なに?もしかして……いい加減に言ったの?
おそるべし!花沢ケイ。
無意識なの?これ。
読心術でも、教わってるのか…
それとも、代々引き継がれてる能力なのか……
「あのさ……ずっと思ってたんだけど…俺ばっか、好きだー好きだー言っててさー。『こいつイタイなー』なんて思ってない?」
しょんぼりとうつむき加減で口にする彼に、胸の奥が不覚にも痛む。
あぁ、いっそうの事心の中を読んでもらえるならそのほうがいいのかも。
そしたらどんなにキミのことを大切に思っているか。
伝わるでしょう?
あたしがキミに、言葉で伝えないのは
言葉じゃ、この想いを伝えきれるか不安だからだよ。
どんなにいい大学出てても。
どんなにたくさんの本を読んでいても。
こんな気持ちを言葉にするなんて、できないんだもの。
単純に、好きだ――――って伝えたって、それだけじゃないんだもの。
大事なものこそ、簡単に触れる事ができないように。
でも。
大好きな人に、好きだと言われて華やぐ気持ちも知ってるから。
から――――
「……花沢クン?」
小声で呼びかけたあたしに、ケイか軽く首を傾げた。
「ちゃ、ちゃんとあたしも……好き…かな…、なんて……」
もごごもと呟くように口にした言葉に、自分自身でも赤面。
そんなあたしに攻めるような視線をぶつける、容赦ないケイ。
「あーやーさーん!「かな」ってなんだよ!「かな」って!何で疑問系なの!さすがに俺でもへこむよ〜〜」
「ご、ごめん」
「ちゃんと言って」
「……!!!」
「ちゃんと言ってくれたら、許す」
上目遣いに送られた視線に、ほんの少しのじゃれた様な笑みがこもってたのが分かったけど。
あたしはそれに気づかないふりをして、軽く咳払い。
あたしだって、やるときゃやるのよ。
軽く咳払いをしたあと覚悟を決めて、座ったままのケイを見下ろした。
「あたしは、花沢クンが好き………」
途端に煌く、ケイの瞳。
「だと…思う」
がっくりと下がった、愛しい人の両腕。
あたしを抱きしめようとしてたんだろうか。
「だ、だと思うって…これまた、微妙な……」
苦笑しながらのケイは、あたしの口から立派な告白を聞く事を諦めたらしく
ゆっくりと、自分の横へとあたしを促す。
「ま。いいや。疑問系でも少し前進したことは確かだし」
自分に言い聞かせてるのだろうか。
軽く頷いている、線の細い顎にあたしはそっと指をかける。
美しくカーブを描いているそれに、ただ単純に触れたいと思った。
「でも……あたし…キミの傍にいれて、嬉しいな…って思うよ?」
男の人じゃないくらいな、肌の白さと柔らかさ。
もっと触っていたかったのに、パシリとそれを遮られた。
「ちょ、ちょっと!!絢さん、それ反則!そ、そんな表情でこんなことしないでよ!」
さっきよりも幾分赤みを増した頬に、自分のした行動の大胆さを改めて知る。
「あーーー!ああああああ!!!ご、ごごごごめんっ!つい!!!」
「『つい』で、こんなことほかの人にしないでよっ!」
まるで、子どものような恋愛。
好きだから、好きだと言う。
触れたいから、触れる。
「専務、そろそろ午後のスケジュールの確認なんですけどー」
開いてるドアを、わざとらしくノックする亜門さん。
あたしはケイの座ってる椅子のひじあてから、慌てて飛びのいた。
ニヤニヤしているところを見ると……
今までの会話も、聞かれてたってことで。
「あー、もうそんな時間なんだ」
あたしの手を、名残惜しそうに離れる彼の指先がとても愛しく思える。
あたしたちには、まだそれでいいんだと思った。
おしまい
2007,2,20 momota
2007,12,23 加筆修正しました。