story: くやしいくらいにスキダカラ

作:くうかさま


魔女との約束は1年。その先に待っているものは何なんだろう。手放しに喜べない不安はいつもそこにあった。

こうして簡単に道明寺家の門を潜ることが出来るようになっても、やはりこの家の敷居の高さは計り知れない。
それでも扉の向こうには大切な人がいる。
いつものように優しく迎えてくれるみんなの笑顔があった。
しかし今日はちょっと様子が違った。奥で司の怒鳴り声と数人のSPらしき男の声が言い争っている。
つくしに気付いたタマがやれやれというように近づいてきた。

「まったく、つくづくあんたもタイミングの悪い娘だねぇ。」
「どうしたんですか?道明寺。」
「・・・坊ちゃんを責めるんじゃないよ・・・」

タマが言いかけた時、司の大声が飛ぶ。

「余計なコト言うんじゃねーぞ!タマ!!」

腕にしがみ付いて制止する男を払いながら、司は憤然とタマを睨んだ。

「司様、待ってください。今日のお見合いは道明寺財閥にとって大切な取引先のご令嬢なんですよ!」
「う!うるせー!余計なコト言うなって言ってるだろうがっ!」

つくしがSPだと思っていたのはどうやら秘書だったらしい。司の強烈なパンチを顔面に受けて、
2人の秘書はあっさりとのびてしまった。
魔女は一年の自由をくれたけど、決して諦めたわけではない。
司は息を切らせバツが悪そうにつくしを盗み見た。お見合いの件を聞かれたくなかったのだ。

私がもう少し遅くきたら、彼は黙って隠しとおしたのだろうか。
そう思うと、きっぱりと断ってくれたにも関わらず司に対して素直になれそうもなく、つくしは何故だか溢れそうになる涙を押さえようと唇を噛んだ。
 
「お見合い行くの?」
「行くわけねーだろーが。」
「なんで?取引先のご令嬢なんでしょ?いいじゃん。行くだけ行っとけば顔が立つんだから。」
「財閥にとって大切だか知んねーけど俺には関係ねぇよ。」
「あんた跡取でしょ?関係ないわけないじゃない。私に遠慮なんかしないで行きなよ。」

素直になれない自分が嫌。彼を試すような自分が嫌。
行かないという言葉を待っている自分が嫌だ。

司は横目でつくしを不機嫌に睨み、ふっと嘲るように唇の端を上げた。

「・・・そーだな。分かった。よく考えりゃ、結構美人だし、いいかもな。」
「・・・う・・ん。」

つくしは返事をするのが精一杯だった。力が抜けて倒れそうで、脚を踏ん張るのに集中した。
それでも目の奥が熱くて、握り締めた掌も痛くて。
きっと今ひどい顔をしている。

帰ろう。堪らなくなってつくしは踵を返した。
しかし、逃げようとする彼女を司は許さない。

「お前は全然分かってねーよ。いっくら言っても分かってねーんだ。」

溜息混じりに言うと、司はつくしの腕を掴み無理やり廊下を進んでいく。

「痛い!はなして!!」
「ぎゃーぎゃーうるせぇんだよ!いいから黙ってついて来いっ!!」

自室のドアを乱暴に開けつくしを中へ押し入れる。司は後に続いて部屋に入ると、唖然とするつくしを無視して窓際の引き出しを探っている。

「ちょっと!探しものなら後にしてよ!」

つくしが叫ぶのと同時に目的の物が見つかったのか、引き出しからそれを手にして司はつくしの前に立った。
真面目な顔でつくしを見下ろしそっと彼女の手を取ると、ひんやりとした金属の感触が指の間を滑っていく。

「これ渡したかったから。」
「・・・指輪・・・」

指に収まったそれは白銀に小さな石が幾つも散りばめられ、窓の月明かりを反射して煌いていた。
綺麗。つくしは土星のネックレスをプレゼントしてくれた夜のことを思い出した。
その想い出は今でもつくしの胸を飾り優しく光っている。
司も同じ事を思い出していたようで、つくしへと自慢げにそして嬉しそうに笑いかけた。

「前にネックレスやったから、次はやっぱ指輪だろ?」
「だけど、こんな高価なもの・・・・」
「ちょっと待て。もらう理由がないとか言うなよな。」
「・・・・」
「好きな女にプレゼントやって悪いって事ねぇだろ?」
「うん。」
「俺が好きなのはお前だから。忘れんな。」
「うん。」
「外すなよ。」
「うん。」

ネックレスを貰った時とは違い、素直に嬉しかった。司と同じ物を見て、同じ想い出を辿り、同じ想いを抱える。
それがとてもかけがえのない絆のようで。
つくしの頬に涙が伝う。司にとっては彼女の涙はいきなりで、訳も分からず驚き慌てて抱き寄せた。

「な、泣くんじゃねーよ!」
「うん。ごめん。」

つくしは小さく言って司の背中に腕を回した。

「本当は、お見合いなんか行って欲しくなかったよ・・・」

心から出た彼女の言葉は、二人の砦を越える。






抱きたい

曲線を描いた肌に指を滑らせ、唇が後を追う。彼女の弱々しい抵抗は司の衝動をさらに駆り立てた。
溶け合う鼓動と途切れがちな吐息が彼の思考を刺激し、欲求は貪欲に突き上げる。
ただ意識を繋ぐ理性の糸が、司の高ぶる欲を制御していた。

守りたい
大切に
壊したくない
愛しくて堪らない

葛藤の波間を行き来する

強く抱けば伝わるだろうか
どれだけ言葉にすれば伝わるのだろうか

伝え尽くせなくて
もどかしくて

答えは出ないまま
溺れていく自分を止められない──




司はつくしの頬を両手で挟むと、もう一度彼女の唇を唇でなぞった。そして名残惜しげに唇を離し、
額を当てたまま間近のつくしの瞳を覗き込んだ。
決意の確認をする。


強く真っ直ぐな彼の瞳

私だけを見て
私の名前だけを呼んで
私だけに触れて

彼に触れるのも私だけでありたい

我侭になっていく
欲張りになってしまう

でも
こんな私も好きでいて



目の前の互いを欲しいと思う。呆れるほど強く。



仕方ねーな
うん、仕方ないね



だって、くやしいくらいにスキダカラ──




絡む視線の束縛が心地良く、触れたままの額の熱を確かめ微笑み合う。
そして互いを感じるために目を閉じた。









                                 fin 





いや〜滝汗もんに照れますね・・//▽//
ところでつくしは道明寺家に何しに来たんでしょうね?謎。
                         くうか


戻る