どれくらいの時間そうしていただろう。

びゅうっと強い風が吹いてつくしは思わず身震いをする。

「さすがにずっと外にいると寒いね」
「日本より冷えるからな。じゃ行くか。今日おまえが泊るとことってあるから」








そう言って司がつくしを連れてきたのはホテルN最上階のスウィートルーム。

「こんな立派なとこじゃなくていいよ」
「バーカ、下手なとこに一人で泊らせられっかよ。この辺はおまえが思ってるよりずっと危ねぇんだぜ」

そう言ってつくしの背を押し、部屋に入るように促す。





部屋に入ったとたん、つくしの目は正面の大きな窓の向こうに見える夜景に惹きつけられた。

空には満天の星。
眼下には宝石箱を引っくり返したようなクリスマスのイルミネーションが競い合うように
華々しく光を放っている。

「うわ、キレー…」

ゆっくりと窓に近づき、言葉も無く夜景に見とれているつくし。



司はそんなつくしをしばらく黙って見ていたが、ふ…と短くため息をつくと

「じゃあな。明日の朝また迎えに来るから。ゆっくり寝とけ」

と声をかけた。

「え、帰っちゃうの?」
「あたりまえだろ。一晩一緒にここにいたらおまえどーなるのかわかってんのか」

そう冗談めかして言いながら切なげに微笑む司を見て、つくしは胸が締め付けられるような気がした。



―― 離れたくない。



切実にそう思う。
久しぶりに会えた、刹那の貴重な時間。
ここに一人で残されるのは嫌だ。



―― 今、言わなきゃ。



思わず司の服の裾を捕まえて、つくしは口走る。

「どう…なってもいいよ。帰らないで、ここにいて…」

そう言ったつくしは真っ赤になり、切なげだった司の表情が驚きに変わる――









「おまえ、それってどういうことだかわかって言ってんのか?」

しばらくの沈黙の後、司が口を開いた。

「わかってるよっ、あたしだって…」

それ以上言えずに、口をつぐんでしまうつくし。
また沈黙が流れる。



―― 一度目はお姉さんが突然入ってきて中断された。
二度目はあたしが熱を出しちゃって結局何もしなかった。
でも今日は…



一旦俯いたつくしが顔を上げ、司を正面から見つめた。



夜景を背にして、真っ直ぐに自分を見据えるつくしを見つめ返して動けずにいる司。


つくしは、司の右手をそっと取って自分の頬に当てた。


           






―― 道明寺の全てに触れたい。あたしの全てに触れて欲しい。

こんな気持ちになった自分に驚き、そんな自分が好きだと思う。

司はそんなつくしを少し見つめていたが、やがて意を決したように空いている左手で
つくしの顎に手をかける。

そしてつくしを仰がせると、しばし見つめ合い、深いキスをした。



















何度となくキスを交わすふたり。

司の腕はつくしの背に回り強く抱きしめ、つくしも司の首に手をかけてキスを求める。

つくしは、自分の心が穏やかなのを不思議に思う。
恐怖も緊張感も、何もない。司に触れたい、触れられたい、ただそれだけ。

―― いつも思うけど、本当にこいつってキス上手…

そんなことも考えられるほどつくしは落ち着いていた。



一旦唇を離すと、司はつくしをまじまじと見つめて言う。

「本当にいいんだな?」
「……うん」

司の言葉につくしはそっと頷く。

その答えを聞くと、司は

「もう止まらねーぞ」

と呟くとつくしをひょいと抱えあげ、大股でベッドに近づきつくしを下ろすと同時に
覆いかぶさってきた。

サイドテーブルのスタンドがほのかな光を放っている。
その淡い光の中で2人はさらにキスを重ねる。

「牧野…どれほどこうしておまえを抱きたかったか…」

司がつくしの耳元で熱い吐息と共に囁く。

「道明寺…」

つくしは手を伸ばし、司の特徴のある髪に指を絡ませた。







司の手は優しくつくしの髪を梳き、滑らかな唇はつくしの首筋から胸元に降りていく。

いつの間にか着ていたものは脱がされ、生まれたままの姿になったつくしの
白い素肌に、司の唇がいくつもの赤い跡をつける。

司の唇が触れるたび、そこから身体が火照ってくる。

「あっ…」

胸の敏感な部分を口に含まれ、つくしの口から思わず声が漏れる。

「いーな、その声…」

興奮しているのか、少し掠れた声で囁く司。

敏感な部分を執拗に攻められ、つくしの口から押さえようと思っても押さえきれない
喘ぎ声が漏れる。

「は、恥ずかしい、かも」
「恥ずかしくなんかねーよ」

シーツをかぶろうとしたつくしの手を遮るとつくしの口唇をキスで塞ぎ、司のしなやか
な指はつくしの肌を滑る。



       




「怖いか?」



        


瞳を覗き込むようにして聞いた司に、つくしは静かに首を振る。

怖くないといったら、本当は嘘。

でも、司に抱かれたい、司を抱きたい。その気持ちの方が強いから。





司がつくしの腰を軽く持ち上げた。と、固い何かが押し込まれるのを感じる。

「きゃあっ」

つくしはあまりの痛さに思わず叫び声をあげて司にしがみついた。
司の背に爪跡がつく。

「くっ・・・悪ぃ、痛いか?」

自分も苦しそうな表情をしながらもつくしを気遣う司。

「ん・・・だい・・・じょうぶ」

下腹部には鈍い痛みがある。
でもその痛みよりも、やっと司と一つになれた、そのことがすごく嬉しい。



「動くぞ」

そう言うと司は恐る恐るという感じでぎこちなく動き出す。

下腹部の鈍痛がうねりを伴って押し寄せてくる。それと同時に嬉しさや愛しさや
切なさがこみ上げてきて胸がいっぱいになり、つくしの目から涙が零れた。


つくしの涙を見て司が心配そうな表情をして動きを止めた。





「痛いか?大丈夫か?」
「痛…いけど、この涙は痛いせいじゃないよ。大丈夫」
「じゃ、どうしたんだ?」
「嬉し涙、かな」

へへ、と涙の残る顔で照れたように笑ったつくし。

それを聞くと司は嬉しそうに柔らかく微笑んで動きを早めた。




ぎこちなくつくしを愛撫する大きな手。
華奢なようでいて結構厚い胸。
いつもつけている高そうなコロンの香り。
乱れた息づかい。
高めの体温。
つくしを見つめるまっすぐな瞳。



何もかもが愛しい。
こんな風にクリスマスに2人でいられることが奇跡のようだと思う。

―― 神様。この瞬間(とき)がいつまでも続きますように。

そう願いながらつくしは目を閉じ、全身で司を受け入れた。
































12月25日、朝。

いつになく安らかな気分で目を覚ましたつくしは、自分に絡みつく2本の腕に気づいた。


── あれ?


一瞬、何がどうなったのか思い出せずにくるりと寝返りをうつと、至近距離に司の
整った寝顔。


── うわっっ


びっくりして起き上がろうとした拍子にシーツがめくれ、自分が何も着ていないことに
気づく。


── ひゃあっっ


慌ててまたシーツの中にもぐりこみ、気持ちを落ち着かせようとしてみる。


── そうだ、昨日あたし・・・道明寺に会いにNYまで来て、道明寺に一緒にいてほしくて、それで・・・

昨日のことを思い出してつくしは一人赤くなる。


── NYまで来てよかった。


幸せな気持ちでまた司の腕に寄り添うと、つくしの記憶は昨日の公園へと遡る───





                         おしまい