カラカラ・・・・・

 引き戸を開ける音がして、あたしは振り返る。

 「おう、先に出てたのか・・・」

 「ふふ・・・今日もあたしの勝ち。これで3連勝だね」

 洗面器片手に、濡れた髪をタオルで拭きながら出てきた道明寺に向かってVサインをする。







 「・・・けっ。くだらねぇ・・・」

 ガキみたいなことで喜んでんじゃねぇよ・・・と、道明寺が呆れ顔をする。
 こいつ、自分が先に出たときは、『大した身体でもねぇのに長風呂すんなよ』なんてバカにするくせに・・・

 「勝てなかったからってひがんでる〜・・・」

 ガキみたい・・・と、意地悪く笑って道明寺の顔を覗き込む。
 ちょっとだけバツの悪い表情で、あたしを見る。

 「おら、とっとと帰るぞ」

 強引に歩き出した道明寺を、あたしは急いで追いかける。
 
 いつもの帰り道。









 「いつものおじいさん、今日もいた?」

 「おう、泡風呂入って、いつもみたいに和歌みたいなの歌ってたぞ」

 「女風呂まで聞こえたよ。お風呂って響くからね」

 「お前の方も、いつものババァいたのか?」

 「うん、いたいた。今日は3人でね、白湯のお風呂占領してたよ。
  ちょっとつかりたかったから、残念だったな・・・おばちゃんたち、身体大きいんだよね・・・」

 すっかり銭湯の常連になってしまったあたしたち。
 顔なじみのお客さんの話題で、ちょっとだけ盛り上がる。

 いつもの帰り道。














 「・・・はくしゅっ」

 小さなくしゃみをする。
 ちょっとだけ前を歩いていた道明寺は歩みを止め、振り返る。

 「寒いのか?」

 「ちょっとだけね・・・」

 昼間は暑くても、さすがに夜は冷え込む。
 待ってる間に、湯冷めしちゃったらしい。

 「バカだな・・・勝負にこだわるからだぞ。ほら」

 出せ・・・と、手を差し伸べる。
 ちょっと緊張しながら、その手を握った。

 「手だってこんなに冷たくなっちまってんじゃん。おまえ、ホントに風呂で温まった?」

 うん・・・とうなずきながら、手をつないで歩き出す。
 街灯が道に映し出すあたし達の影は、大きな『M』。
 ちょっとだけ恥ずかしくて、とっても幸せな『M』。
 
 いつもの帰り道。









 「ほら、着いたぞ」

 カン・カン・・・と音を響かせ、階段を上る。
 部屋に到着。

 「今日はどうすんの?」

 「あー・・・今日は帰るわ」

 「そっか・・・」

 ちょっと残念だな・・・
 そんなあたしの心を見透かしたのか、道明寺が優しく頭を叩く。

 「明日また来るからよ」

 「・・・うん」

 

 じゃぁな・・・と、道明寺が階段を下りていく。
 カン・カン・・・と、音を響かせながら。

 道明寺に手を振り、あたしは空を仰いだ。
 闇の中に浮かぶ三日月。
 よく絵であるように、あたしも道明寺と一緒に、あの三日月に座りたいな・・・なんて、ちょっとだけ思った。

 
 おやすみなさい、道明寺。
 おやすみなさい、お月様。

 明日も良い日でありますように・・・・・




 おやすみなさい・・・・・






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帰り道
    作:ポンさま