story:ひまわり 


「今度の土日あけとけ」
そう言われたのは2日前のことだった。
久しぶりに優紀に会う約束をしているから来週にしてって言うのに

「今週じゃねーと意味ねーんだよ!いいもん見せてやっからさ。いいか!空けとけ!絶対だぞ!」

いつにも増して強引な司である。



社会人になり4ヶ月余り。
どうにか仕事にも慣れ久しぶりに優希と近況を語り合えると前から楽しみにしていたが、
結局あたしは断りを入れ司とここんなところまで来てしまった。


林の中の細い1本道。・・みーん・・・蝉の大合唱を聞きながら歩いている。


道明寺のの見せたい物なんてどうせやたらとお金のかかった物だ。
この前はなんだったけ?なんだか難しい名前の世界に数台しかない超がつくほど高い車
・・・助手席はお前だけだせ・・・ちょっとくさい言葉。
その前は数億はしそうな豪華マンション。
・・・合鍵を渡しながら・・・どうせならいっしょに住んでもいいんだぜ・・・ちょっとどっきりする言葉。


そして今回は一体何?!

北海道まで連れて来られるなんて・・・

「あんたの見せたい物なんてだいたいねぇ・・・」

だいたいあたしと道明寺の価値観は違いすぎる。
一般庶民のわたしにはその凄い物には想像もつかないのだ。
まぁ実際司の見せたい物を見たところでわたしはあきれ顔できっと驚くだけた。
そして司の「すげーだろ」の顔がもう頭の中で想像できる。
そしてあたしはこう答える 「これっていくら?」「こんな高い物!!」
あはは・・・

・・・いつ頃からだろうかこんなふうに司のことが容易に想像できるようになたのは・・・

ぶつぶつ言うあたしに

「いいから来いって この林抜けてあそこの角曲がればすぐだからよ」

そう言って林の先を指差すと、にやりと笑いあたしに手を差し出す。


手を繋ごうの合図。


その手の誘いに素直に答えるあたしの右手。
不思議・・・

大きな手に包まれるとぎゅっと強引に引っ張られる。


「もー!!ちょっと!!ゆっくり歩けないの??」

そう答えながらもいつも強引な司にそれもまんざらではないと思う最近のあたしがいる。

・・・いつ頃からだろうかこんな気持ちになったのは・・・・・



考えていると急に視界が黄色に広がる。


「う・うそ・・・!」



いくつもいくつも、そう・・数え切れないくらいたくさんのひまわり。
水平線まであたり一面ひまわりなのだ。
しかもみんな同じ方向、こっちを向いて咲いている。
まるで黄色い海原のよう。
しかも海原の上は雲ひとつない青空で黄色とブルーの帯が広がっている。



「すげーだろ・・・ここからの眺めが一番なんだせ。」

ちょっと頬を染めて言う司。

あたしは肩透かしをくらったようだった。
用意していた言葉の数々は遠い彼方へ飛んでいた。


感動で声がでない。


「ひまわりってさ・・・・お前の笑った顔みてーだな。」


照れながら言う。

予想外の言葉に何って答えればいいのか・・・
焦りながら急いで言葉を捜すあたしだがその前に司が言葉を続けた。


「これから先の人生、ここに咲いてるひまわりの数くらいその笑顔を俺に見せてくれないか?
 ずっとずっとお前の笑顔を見て生きて行きてーんだ。
 自信はあるぜ。おまえの笑顔見る自信。ひょっとしたらこの数じゃ足りねーかもな。」

司の瞳は真剣だ。

・・・・こ、これって・・・プロポーズ?!・・・・


訳わかんない!!いきなりどうしたって言うの?


だけどなぜか涙がこぼれる。


司は涙の訳がわからずおろおろして

「腹でも痛てーのか?さっきから黙ったままだしよ?!」

と心配そうに覗き込む。

その少年のような瞳の司がかわいくて・・・思わず首に手を回しあたしのほうからキスをした。


頭の中が司でいっぱい。
司と知り合って6年。
司は変わっていった。あたしも司と一緒に変わっていったのかもしれない。
家柄の問題はあったけどその度に司がハードルをそっと・・・時には力でどけてくれた。

・・・・・いつごろからだろか司とずっと居たいと思ったのは・・・・


そっと唇を離すとわたしはにっこり微笑んで言った。

「カウント1回!」

しばらく無言の司。


「やりーーーーーーーーーー!」


こぶしを上げて大きな声で雄たけびをあげる。
あたしも負けずに叫ぶ。

「司の横でずっとわらっていた〜〜い」



風が渡っていく。
それに合わせて何十万、何千万本ものひまわりもいっしょに揺れる。
ざわざわざわっと黄色いウエーブが次から次へと出来る。
微笑んだひまわりが幸せの波となって二人の間に次々と押し寄せた。

祝福のひまわり。
あたしは一生この光景を忘れることはないだろう。




後日つくしは知る。

一年もまえから今日の日のことは司が計画し、

水平線が見える広大なこの土地に地主に多額のお金を支払いひまわりを植えさせたのだと。

やはり金持ちの・・・司のやることはわからない・・・・と思うつくしであった。









祝福のひまわり  
 作:sweetberry