受験勉強のストレス解消は、やっぱり自分のいちばん好きなことをやる・・・ってことで。今日は田村と楽器屋を冷やかしに来た・・・のだが、何故か余計なおまけが一匹。俺らが店の兄さんにギターやベース弾かせてもらってる隣で、大げさにため息つきながら、頬杖ついて床のタイルに座り込んでるテツヤ。退屈なのかな・・・なんて思ったけれど、どうやらそうではないらしい。ま、そうだよな。楽器はたしなまないけれど、奴は大の音楽好きだ。ここに置いてある物にはなんにでも興味があるだろうし、時々こうしてついてくるときは、あちこちの楽器触ったり、アンプのスイッチ勝手に入れてみたり、キーボードで下手な「猫ふんじゃった」弾いたりしてる。

 退屈じゃないとすれば、こいつがこんな表情浮かべてる理由はたったひとつで。俺らについてきたってことは、きっと話を聞いてほしいってこと。でもテツヤを無視して楽器に夢中だから、ちょっと拗ねてんだよね、多分。仕方ない。思う存分堪能して、ストレス解消し終わったら、マックでポテトのひとつでもおごってやろう。
 ってことで、3人で天神のマックへ寄り道。田村もテツヤを待たせてたことにちょっと罪悪感感じてたみたいでさ。俺がポテトおごるって言ったら、田村はコーラおごってた。


「・・・で?何をそんなに落ち込んでんの?」


 これは愚問だと思う。でも、手続き上一応ね・・・と自分に言い聞かせて、テツヤに言葉をかける。田村も同じこと思ってたみたいで、ウーロン茶飲みながら鼻で笑ってた。・・・感じ悪いよな。

 こういう時のテツヤに声をかけたら、覚悟を決めなくちゃいけない。こいつはしゃべる。息つく間もないくらいにしゃべる。聞いてる方が嫌になるくらいにしゃべり続ける。今日も例外じゃなくて、『聞いてくれるか?』と前置きをしてから、そりゃもう唾飛ばしまくって話し始めた。


「・・・で、ユカちゃんが今日もかわいくてさぁ・・・」


 はいはい、そのセリフはもう5回目なんですけど・・・ユカがどうとかいう話ばっかで、先に進まない。話を聞いてるとばかり思ってた田村は、腕組んでおとなしく聞いてる・・・と思ったら、居眠りしてやがった。でも、テツヤは真剣だから気付かない。おいおい、それでいいのかよ2人とも・・・


「・・・でもさ、今日珍しくケンカしちゃってさ・・・ユカちゃんの意見に、珍しく言い返しちゃったら、次の休憩から話してもらえなくなったわけよ・・・」

「・・・へぇ」


 生返事。もう、何がなんだか全然聞いちゃいない。しかし珍しいこともあるもんだ。このテツヤがあのユカに言い返すとはねぇ・・・俺ですら、怖くてなかなか反論できないってのに。
 舟こぎ始めた田村の足を蹴って、テツヤに話の続きを促す。今までの延々と続くどうでもいい話はつまらないけれど、ユカに言い返した奴の意見なんて、ちょっと面白そうじゃないか。こんなこと、この先二度とないかもしれない。

 でも、『原因は?』と尋ねた答えは、予想もしなかったことで。


「・・・アフロ」


 とテツヤが一言言ったときは、思わず聞き返した。田村も、ピクリと肩を動かし、目を開いてテツヤを見る。


「いや、髪形アフロに変えようと思ってるって言ったら、バカって言われたんだよ・・・」

「・・・はぁ・・・」


 それしか言わなかった。いや、それしか言えなかった。アフロ?アフロって・・・アフロ?受験前の、この大事な時期に、アフロ?


「・・・なぜに?」


 絶句していた田村が、ようやく言葉を発した。でも、気持ちはわかる。まさかアフロがくるとは、アフロ・・・


「最近、ユカちゃん『奏(かなで)』ばっか口ずさんでてさ。俺としては、なんか面白くないじゃない?」

「いや・・ユカはバンプのファンだろ?バンプの曲、いつも口ずさんでるじゃん。それはいいの?」

「でもさ、ビジュアル普通じゃん?だからいいの。でもさ、スキマスイッチ。俺調べたらアフロじゃん?これは負けてるだろ・・・って思ってさ。ユカちゃんにも『アフロがいいよね、男っぽくて。アフロのピアノ、生で聴いたらあたし泣くね』って言われて・・・ここは、アフロにしとくべきじゃない?」

「・・・じゃない」


 俺も田村と同意見。どうしてここでそうなるかなぁ・・・


「ってかさ、アフロにしてどうすんの?似合わないかもしれないんだぜ?」

「俺、アフロにして似合う自信あるもん」


 意気揚々と答えるテツヤ。その姿に、パパイヤ鈴木ばりのアフロをかぶせて想像してみた・・・ けど、すぐにやめた。これ以上考えてたら、おかしすぎて笑っちゃう。田村なんか、すでに口元押さえて噴出し気味。


「お前ら、なんで笑うわけ?俺本気で考えてんだぜ?親身になって考えてもいいだろー・・・」


 ぷぅと頬を膨らますテツヤに、もう笑いがこらえきれない。田村がくっとのどを鳴らしたのが引き金になって。悪いとは思ったけれど、大きな声で笑ってしまった。田村もそれに続いて大爆笑。あ、アフロがほっぺた膨らまして拗ねてるよ・・・ああ、腹痛い・・・


「テツヤ、いいこと教えてやるよ・・・多分、藤原さんはアフロの髪型がいいんじゃなくて、アフロのピアノがいいんだと思うぜ?ってことはつまり、お前が髪型変えたって、ピアノが弾けない以上勝ち目はないってことだ・・・」


 笑いながら息を切らせながら、田村がありがたいご忠告。そうだそうだ・・・と言うように、俺もあふれる涙ぬぐいながら、何度もうなずいた。そこではっと気付いて、顔色変わるテツヤ。

 ほんと、俺たちに相談してよかったよ。このまま1人で突っ走ってたら、『ピアノが弾けず、ユカにも相手にしてもらえないアフロ』になってたわけだからな。しかも、絶対学年主任に捕まるし。

 残念そうにうなだれるテツヤがちょっとだけかわいそうになって、肩叩いて慰めた。


「いいじゃん、アフロになろうがならまいが、お前がユカから受ける仕打ちは変わんないよ。だったら、桜井先生に怒られなかっただけでも良しとしようぜ」


 果たしてこれが慰めになるのだろうか。それは、神様にしかわからない。

                                                       おわり。
   
                                            
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