未来のカタチ



「ハァ・・・・・・」



司のめずらしいくらい深いため息に、ゆっくりと顔をあげるとそこにはなにか考えてるような・・・
それでいて怒っているような・・・


不機嫌な表情を浮かべている司。



「どしたの?」


ゆっくりとベットサイドのライトに触れると、一番暗い光度まで落とす。
月明かりでも充分な明るさだけど・・・・・・
愛しい人にこんな表情をさせるくらいの考え事だ。
できるなら、もっと柔らかいオレンジ色のふんわりとした中で聞いてあげたい、って思ったの。


それに・・・・・・
ふんわりとした灯りの中なら、なにも身に纏ってなくなって平気。


あたしは、ほんのりと伝わってくる司の体温に近づくためにシーツの波をかき分ける。


指先が司に触れるか触れないか、って瞬間。
まるで、水辺から引きあげらるように引かれた腕。
自分が魚になった気がして、思わず息を吸うのを忘れた。


ゆっくりと息を吐いて、上目遣いで見上げる。
しっかりと抱え込まれた腰元に、あたしもゆっくりとそれに倣う。



「どしたって、なんだよ」

ほんの少し不思議そうな顔をした後、腰から移動した司の大きな手があたしの前髪をかき上げる。
オレンジの光に包まれてる司は、
ちょうどその位置のせいでやけに陰影のハッキリした男っぽい表情に見えて。
その指先があたしに触れそうになるだけで・・・・・・体温が1度上がる気がした。



急に鼓動を早めた心臓を、司に気づかれまいと司とあたしとの間に腕を押し込んだ。


「・・・・・・なんか、司・・・ため息零してたから」
「え?俺が?」



ほんの少し見開いた、瞳。


ほんとに無意識だったの?さっきのため息。


すこし考えるような仕草をしたあと、あたしの腰元から腕を離した司はゆっくりと仰向けにベットに沈んだ。


「・・・なんかよー。しょ、しょう・・・しょうが?っつーの?絵師を呼んで書かせるんだよ」
「・・・・・・・・・しょう・・・が?絵師?・・・・・・肖像画でしょっ!ばか!」


相変わらずの司。なんだか一気に気が抜ける。


「あぁ、それそれ。んなようなやつだ。でよ、それが明日なんだわ」


「へー、いいじゃない。かっこよく描いてもらいなよ」
「ったく。おまえは気楽だな。俺は写真とか絵とか取られたりすんのだいっきれーなんだよ」



・・・・・・ただ単にじっとしてるのがいやなんじゃないの?
なんて突っ込みはせずにあたしもそのまま仰向けになる。



シャラリと首筋に移動する何か。



ほんの少し火照りを残す体に注がれる、体温より少しだけ低い球体が気持ちいい。




あぁ!そうだった!
あたしはあわててライトの元に置いてある小さな箱を司に渡した。




「・・・ハイ。これ、作った」



なんだか照れくさくて、唐突に軽く渡してしまったけど。
ほんとはスゴク大事なものなんだよ。



ゆっくりと体を起こしながら、その小さな箱の蓋をあける司。
そこから取り出したのは、あたしがもらったものよりも少し大きめの土星。



おまけに、素材はシルバーだけど。
ダイヤやルビーを埋め込んでるわけじゃないけど。



気持ちはたっぷり埋め込んでるつもり。



「・・・・・・なんだ?こ・・・れ」
「なんだ、これ、ってしっつれーね!これでも一生懸命作ったんだよ」





知ってる?もうすぐ、土星を見せてもらったあの日から10年が経つんだよ・・・って言いたかったんだけど


「わぷっ」

司の大きい手で思い切り引かれたあたしの腕。


最後の方は司の胸元に埋もれてて上手く言葉にならなかった。



なんでか司は買ったものより、手作りの方が喜ぶって気づいたのが数年前。
それから司への贈り物は、なるべくそうしてきた。




そして今年。

今でもあたしの胸元であの頃の輝きをちっとも失っていない土星のネックレスを見たとき・・・
思い出したんだ。



これをもらってから、10年が経つ。
よくよく考えてみると、これをもらった時から・・・・・・
あたしたちの関係が変わった気がするんだ。

ゆっくりとだけど、司の想いとあたしの想いが重なったってゆうか・・・
同じ方を向き始めたってゆうか・・・・・・




あたしにとっては大事な日。
始まりの日の、大事なアイテム。



だから、司にも覚えてて欲しくて。
こいつは最初っからアクセル大全開だったからそんなこと覚えてもないでしょうけど。
あたしにとっては、すごく、すごく大事なネックレス。



それと同じものを、司に、って。




「すごい・・・安っぽくて・・・ごめんね。そ、それと形もいびつだし・・・けどすごく大切につく・・・・・・」


むぎゅ、と重ねられる口唇。


「・・・すっげーーーー嬉しい」


まるで、司の18歳のバースデーの時・・・・・・クッキーを渡した時のような笑顔で微笑まれて。
あのクルーザーの中でのシチュエーションと重なって。







10年経っても変わってない司を余計に愛しく思った。













数ヵ月後、出来上がった肖像画はあたしを2度ほど驚かせることになる。

一つ目は・・・・・・ナゼだか司は左にずれて書かれていて。

「ちょ、ちょっと!なにこれ!普通真ん中に描くもんじゃないの?!」
「いーんだ。俺がそうしてくれてって頼んだんだ」


それと、もう一つ。絵の中の司の胸元には、見覚えのあるペンダント。


「ぎゃっ!!!こ、これ・・・ペンダントにしたの?!」


ニヤリと笑みを零した司は、Tシャツの下からそれとまったく同じものを指先で手繰り寄せた。



「ペアってやつか?コレ」



そう意地悪そうに微笑む司に、なんだかすごく嬉しくて。
あたしも首元からそれを手繰り寄せると、二人揃って吹き出した。






そして、司がなぜ左側にずれて描かせたのか分かるのは、その1年後だったりする。


   


                              おしまい